『今を生きる私たち』

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滅びの運命に抗いし頃(最終回より前)

●大切なあなたへ
 暴走する水の魔力を静める儀式のため氷の大地へ行く前に、どうしても気持ちを伝えたい人がいた。
 マルティア・ランツは、丁寧に紙で包んだ贈り物を胸に抱いて彼を探した。
 彼――クラムジー・カープは、リモス村の広場で何かを考え込むように佇んでいた。
「クラムジーさん」
 マルティアがそっと呼びかけると、クラムジーはハッとしたように振り向いた。
「少し、いいかな。少しだけ」
「いえ、別に忙しくしていたわけではないので……」
 そう言ったクラムジーの前に、マルティアは歩み寄りまっすぐに見つめた。
 彼には、言葉では言い尽くせないほどの感謝の念がある。
 少しでも、その気持ちを表せたなら。
「箱船に乗る前に、伝えておきたいことがあって……。クラムジーさん、いつも善い物を与えてくれて、与えようとしてくれて、ありがとうございます」
 マルティアは、この言葉から始めた。
 クラムジーは、静かな表情で聞いている。
「薬学も学べたし、魔法の研究も続けられています。たくさんの人にも出会えたし、世界のことも少し知ることができました。いつも背中を押してくれて、いつも世界を広げてくれて、ありがとうございます」
 始めのうちは緊張でかすかに声が震えてしまっていたが、思いを言葉にしているうちに、これで良かったのだと思えるようになっていた。
 手紙にすることも考えたけれど。
 そんなふうに一旦は落ち着いたマルティアだったが、最大の難関は実はこの先にあった。
「それで、少しでも恩返しをと思って……」
 マルティアは、インガリーサのアドバイスを受けながら選んだ贈り物を差し出そうとして、ふと不安になった。
 ――気に入ってくれるだろうか。
 急にクラムジーのとの間が、見えない分厚い壁に隔てられたように感じた。
(そもそも、何故贈り物を、なんて思われたら……ううん、大丈夫よ。落ち着いて私。クラムジーさんはそんなこと言わない)
 たとえ思っていたとしても……と考えると泣きそうになるので、マルティアは大急ぎでその考えてを吹き飛ばす。
(頑張る! 伝える! 儀式をするための今回の出航は、何があるかわからないから、悔いを残したくない!)
 意気込み、マルティアは贈り物を差し出した。
「私の思い、受け取ってください!」

(思い――!?)
 クラムジーは、内心でうろたえた。
 それはいったい、どういった意味の『思い』なのか。
 しかしすぐにこれはチャンスだと思った。
 彼もまた、しばらくお別れになるマルティアに贈り物をしようとタイミングを窺っていたからだ。
 もっとも、そのタイミングを掴めずに一人で悪戦苦闘していたのだが。
「ありがとう。私からも、これを。あなたがなすべきことを、きちんとはたして……戻ってきてくださいね」
 マルティアからの贈り物を受け取ったクラムジーは、本当の気持ちは口にせずせめてもの願いだけを告げて、彼女への贈り物を差し出した。
 マルティアは少し驚いたような顔をした後、嬉しそうに差し出された箱を受け取った。
「ありがとうございます!」
 彼女はさっそくリボンを解いて箱を開けた。
 中に収まっていたのは、カエルをモチーフにしたネックレスだった。
「かわいい……!」
 トップに丸みのあるカエルの型を持つネックレスは、クラムジーがカサンドラのお勧めアクセサリー店で見つけてきた品だ。
 マルティアいそいそとネックレスを首にかけた。
 どうですか、とニコニコしながらクラムジーに尋ねてくる。
 クラムジーは微笑んで頷き返した。
 『カエル』と『帰る』を掛けてみました、と言えば、マルティアはクスクスと笑った。
 一方、彼がもらったものは上質な手帳だった。
「ほぅ」
 と、思わず感嘆の声がこぼれる。
「これは良い手帳です。ありがとう、大切に使わせていただきます」
 本当は。
 本当は、マルティアに行ってほしくない。
 けれど、行くと決めた彼女を止める術はない。
 それなら多少強引な手を使ってでもと思うが、嫌われたくないのでそれもできない。
 そもそも自分の気持ちがどれくらい伝わっているのかわからない。
 それなのに、嫌われるくらいなら気づかれないほうがいいなどと、自分で自分を追い詰めていってしまう。
 言葉にする勇気がないなら、贈り物に想いを込めて指輪をと考えたりもしたけれど、恐れ多いと即座に考え直し……。
 渡す時も「これからも傍に」といった感じのことを言いかけたが、マルティアが望まないなら迷惑になるし、何よりそのことで逆に距離を取られてしまうかもしれないと思うと、怖くて言えなかった。
 なんと臆病なことか、とクラムジーは内心で自分を嗤った。
 そんな彼を、マルティアの透き通った声が呼ぶ。
「行ってきます」
 花のような笑顔で、クラムジーの願いとは真逆のことを言った彼女を、ただ眩しく見送るのだった。

●離れていても
 これはGスヴェルが、スラムの深淵勢力と敵対していた頃の出来事である。
 スラムの深淵勢力の調査に向かったリィンフィア・ラストールが敵の手に落ちた。
 彼女は、キージェ・イングラムが同居を許されている家の娘だ。
 そして、彼の恩人だ。
「……」
 キージェは、訓練場の隅で黙々と武器の手入れをしていた。
 そうすることで逸る心を落ち着け、覚悟を固めていった。
 敵はスラムの住人だが、彼らも帝国が守るべき民だ。
 よほど手に負えない相手であるか、帝国を破壊するような相手でもない限り、殺せという命令は下されない。そういう任務は、主に騎士団が担う。
 けれど。
(リィンの正気が残っているとしても、スヴェル団員が守る対象である一般民の血を流したり、命を奪うようなことをしてしまったならば……永遠に失われてしまう。死んでしまう)
 彼女の心が。
 救出に成功したとしても、彼女自身の手で一人でも傷つけたり殺めたりしてしまったら、きっと二度と笑うことはないだろう。
(リィンは強くなった)
 キージェは、少し前に手合わせした時のことを思い出した。
 戦闘向きではない性格のリィンフィアだが、彼女なりの覚悟を持って街の人達を守るために、一生懸命に技を磨いていた。
(止められるだろうか……いや、止めなきゃならない)
 手入れをする手を止め、キージェは目をつむる。
 そして、心の中でリィンフィアに呼びかけた。
(傲慢だが……俺が救った命なら……俺に返せ。お前が奪おうとする命の代わりに、俺がお前の命をもらう。お袋さんには、俺の命で贖おう。今のこの災厄が一段落着いたらになるが)
 もしくは。
 リィンフィアを止められないと判断した時は。
(俺の命は、お前にくれてやろう。お前の手が民衆の血にまみれて、汚れていくのを見るのは耐えられそうにない)
 そして、どちらの結果になったとしても、キージェが行き着く先は一つだけだ。
 リィンフィアがいなくなった世界に、自分が生きる意味なんかない。
(……お前のほうは、どうなんだろうな?)
 キージェは、リィンフィアの瞳の色をしたピアスにそっと触れる。
 溢れてくるのは、彼女への一途な愛情だった。
 愛してる、と百万回言ってもきっと足りない。
(どこにいようとも、お前を見つけ出す。必ず)
 キージェは目を開くと、スラム街がある方角を見据えた。



 思考を停止させそうになっていたリィンフィアは、何かに呼ばれたような気がして、意識を保とうと踏ん張った。
 椅子に座っている。
 投げ出された自分の足が見える。
 床も。
 周りに何人が人がいることが、その話し声からわかる。
 けれど、それらの情報がまとまらない。
 孤島のようにバラバラに散っている。
 それらを掻き集めようとしても、やさしい睡魔のようなものがそれを億劫にさせた。
 そこに、甘いけれど強制的な何かが囁きかけてくる。
 ――さあ、行きましょう。
 親に呼ばれた幼子のように、リィンフィアはその声に素直に従った。

 連れて行かれるリィンフィアの背を、部屋に待機する深淵勢力の者達が見送る。
「あんなかわいいのに、何かもったいねぇな」
「まぁな。けど、あんだけ術が決まってんなら、俺達見張りなんていらねぇだろうに。用心深いことだ」
「こんなとこに単身で乗り込んで来るような肝っ玉だからじゃねぇの?」
「あっ。どうせなら抱き締めとくんだった!」
 見張りの男達は、呑気におしゃべりをしていた。

 別の部屋に移されたリィンフィアは、彼女を導いてきた女性に言われるままに椅子に腰かけた。
 俯いたリィンフィアの目に、その女性の足元が映る。
 形の良いふくらはぎと引き締まった足首、高級そうな靴。
「いい子ね」
 艶やかな声がかけられ、やさしく頭を撫でられる。
 その声の持ち主に、すべてを委ねたくなってしまう。
(ダメ……これは、違う……私は……、ジェイ……!)
 リィンフィアは、助けを求めるように同居人の名前を呼んだ。
「才能ある子。その力を、私に貸してね。あなたの力が、必要なの」
 声が、リィンフィアの心の支えを別のものに塗り替えるように被せてくる。
(ジェイ……ダリアちゃん……みんな……)
 失くさないように必死に名前を唱えるもの、だんだんとそれらがただの音になっていく。
 怖い、怖い――!
 しかし、リィンフィアは恐怖に飲み込まれまいと意識を集中させた。
 屈してしまったら、もっと恐ろしいことになると感じた。
(……!)
 リィンフィアは、大切な名前の欠片を固く抱き締めた。

 リィンフィアを支配下に置いたと確信した女性は、冷たく微笑む。
「期待してるわ」
 女性はリィンフィアの頬を指先で撫でると、ソファに腰かけて読みかけの本を開いた。

●魔力塔のロビーにて
 アルザラ1号が氷の大地に、決戦に旅立った後のこと。
 継承者の一族の力を持ったカーレ・ペロナは、ビル・サマランチのもとに一族の特殊能力の習練のために訪れていた。
 一族の能力のうち、他人に魔力を流し込み、操る術についてはビルもさほど上手くは使えず、慎重に2人で注意しあいながら、能力を高め合っていった。
 そんなある日の休憩の時間。
 魔力塔の入口にあるソファーで、2人はお茶を飲みながら会話をしていた。
「帝国は水の民をどう扱うべきだと思いますか?」
「私にはなんとも……。お父様や政治に携わる方々次第です。カーレさんには何かお考えがあるのですか?」
「自分が何か行動を起こすというものではなく、これはただの雑談なのですが」
 と言い、カーレは自分の考えを話していく。
「帝国に取り込み友好的な関係を築きたいのなら、難民だけではなく彼らの大切な同胞であるマテオ・テーペ残留者への救援にも真剣に取り組む必要があると思います」
 カーレの言葉を頷きながらビルは聞いている。
「難民たちは帝国に恩は感じているかもしれませんが、仲間を救出できない事への不満もくすぶっているはずでしょう。それは将来、世代を超えて火種になる可能性はあると考えています」
「それが帝国のせいではないとしても?」
 不思議そうな顔の問いに、カーレは難しい顔で頷いた。
「真剣に取り組む姿勢が見えないということで、我々を恨む者も出るでしょう。
 人的・魔術的資源、予算、政情などで不可能というのであれば……」
 後の禍根を残さないためには、彼らを絶滅させるしかない。
 カーレはそう言葉をつづけた。途端、ビルの顔に恐怖の色が浮かぶ。
 そんな彼女の反応を見て、カーレは表情を緩めた。
「そんな事が心情的にも物理的にもできるはずないのだから、時期を置かずに誠意をもって当るべきではないでしょうか?」
「困っている人がいたら、助けたいと思いますけれど、どう助けて欲しいのか、何が必要なのか、それができるか、という問題があると思います。王国の姫様と、おと……皇帝陛下たちが、どのような約束を交わされたのかは私はわかりませんが、姫様たちの求めに対して、拒否はしていないのではないでしょうか? マテオの方々は、帝国に何を求めてきたのでしょうか、帝国は誠意をもって当ってないですか?」
 ビルの問いに、カーレは答えられない。
 カーレも政治に携わる者ではないから。
「それができていないのだとしたら、できるだけの状況が整っていないと思うんです」
 だけど、アトラ・ハシス島から訪れた魔法研究者との共同開発で、魔力を鎮める魔法具が完成したという。
 その魔法具で、危機が去り、国の状態が改善につながったのなら、その時はもっと、マテオの民救出のために、帝国は動けるのではないかと、ビルは話した。
 だがこの後、絶滅は免れたが、帝国の状況は更に悪くなった。
 ビルはカーレとの会話で『マテオの民を助けなければいけない』という気持ちを持った。
 彼女が実際に何か行動を起こすとしたら、国内の問題が解決してからだろう。

ビル・サマランチ カーレ・ペロナ 担当:じゅボンバー
ビル・サマランチ カーレ・ペロナ 担当:じゅボンバー

 

氷の大地へ迎えに(オープニング後)
 抜け殻となったルース姫の精神を探しに。
 そして、命を失った仲間たちの身体や持ち物を連れて、持って帰るために、箱船2号は氷の大地へと出発した――。

 箱船2号の客室。
 より多くの人を乗せられる造りになっているため、箱船に個室はそう多くはない。
 そのうちの一つに、帝国貴族――騎士2人が通された。
「なんで同室なんだよ」
「“フィアンセ”だからだろ……」
 部屋の中には見事なダブルベッドがあった。
 しかしこの男女、エクトル・アジャーニリンダ・キューブリックは夫婦などではない。
 知人以上親友未満の関係である。
 どうしてこんなことになったのかと言えば、魔力を失い完全な人間となったリンダが、継承者の一族となったエクトルに頼みこんで、同行してもらったからだ。
 騎士団開発室の室長を務め、一族の特殊能力を習得するために習練に勤しんでいるエクトルは極めて多忙だ。
 だけどリンダには、他に当てがなかった。
 氷の大地で命を落とした妹分、コルネリア・クレメンティの遺体を回収できる者。それは継承者の一族となった人だけだから。
 彼女の亡骸を連れ帰ると誓った。約束は必ず守る。
 強い意志のもと、リンダは何でもする、どんな代償でも応じるとエクトルに懇願した。
 エクトルは今でも王国民に良い感情を抱いておらず、特にルース・ツィーグラーのことは嫌っている。だが、仲間の遺体回収に動きたい気持ちもあり、箱船に搭載されている魔法具にもかなり興味があった。
 そのため、マテオの民からの信頼を得ているだろうリンダの名を利用しようと思った。
 そして話し合いの結果、婚約者ということにして乗船したのである。
「あ、ああ、上の段もあるな……子ども用か? 少し小さいが、僕が上だな」
 リンダを一瞥して、ため息交じりにエクトルが言う。
「無理を言って来てもらったんだ。自分が上で寝よう」
「いや体格的に無理だろ」
「それなら、自分は床でいい」
「床にもアンタが寝れるスペースないだろ!」
 体を丸めれば。
 踏まなきゃ外に出れない。
 構わない、踏み越えて行け。
 のように会話は続き、ついにエクトルは笑い声をあげた。
 そして彼は部屋に入って荷物を置くと、一つだけあるデスクの上に書物や書類を積み、筆記具を取り出した。
 箱船に乗船したエクトルは、なるべくルースには関わらないよう、リンダと共に操船に携わる水の魔術師へ挨拶をして、属性転換薬や魔法剣(地)などの、歪んだ魔力をはじき出すために有効な魔法薬、魔法具を彼らに提供し、友好関係の構築を図ろうとした。
 動力である魔法具について軽く質問をしており、得た回答を書きとめていく。
 後程操縦室や機関室の見学もさせてもらう予定だ。
「この船やマテオを護っている水の障壁は、水の魔術師の魔力を用い形成されている。確かにそれは効果的だが、魔法具に水の魔法効果を持たせて、エネルギー源は属性を問わないものにすれば、扱者はより少人数、もしくは短時間であれば無人での運用も可能になる……」
「む? つまり、機械化してリストラか」
「ははは……。ま、どの程度の取引が出来るかは、向うの出方次第だな」
 エクトルは軽く不敵とも思える笑みを見せた。
「氷の大地での指揮は僕じゃなく公国出身のナイト・ゲイルが適任だろうから、アンタは彼と相談をしておいてくれ」
 言って、エクトルはなにやら難しい図式を書き始めた。
 ここにいても役に立てなそうなので、リンダは彼に言われた通り、ストラティジー・スヴェルの活動で行動を共にしてきたナイトの元に向うことにした。彼もまた、継承者の一族になったのだそうだ。


 

 氷の大地への到着が近づいていた。
 流れてくる魔力の影響で、体調を崩す者も出始めていた。
 そんな時。
 アレクセイ・アイヒマンは意を決して、チェリア・ハルベルトに割り当てられた部屋のドアを叩いた。
 チェリアは航海中、言葉少なく、海を見ていることが多かった。
 彼女は責任感が人一倍強い。
 贖罪の思いから――身を捧げるつもりなのかもしれない。
 アレクセイは、チェリアの様子からそう感じ取っていた。
 彼女の意思は尊重したいと思っていた。
(だけど、それだけは絶対に――)
 嫌だ。
 ドアが開くとその先には、覇気を失った彼女の姿があった。
「チェリア様、お話があります」
 真剣な眼でそう言うと、アレクセイは両手でチェリアを押すように部屋に入った。
「チェリア様……」
 影のある顔で、不思議そうに見るチェリアの前で、アレクセイは大きく息を吸い込んだ。
「俺は、貴方と結婚したい。俺の手で、貴方を幸せにしたい。どうか、私の花嫁になっていただけないでしょうか?」
 一つ一つの言葉を、しっかりとした口調、声でアレクセイは言い切る。
 以前、チェリアに「どうしたい」のかと聞かれた時。
 アレクセイははっきりと答えられなかった。
 施術を受けた自分自身の身体の問題も大きく、身分が釣り合うのかといった、いくつもの葛藤があった。
 だから彼女に愛を伝えはしても、どうしたいか、どうなりたいか、敢えて答えを避けてしまっていた。
 なんて、馬鹿だったのだろう。
「チェリア様が好きです。愛しています」
「アレクセイ、私は……」
 苦悩の表情を浮かべて、チェリアは視線を落とした。
「お願いです。俺の手の届かないところに、行かないで」
 アレクセイの声から、切実な思いが溢れ出ていく。
「俺を置いていかないでください」
 ああ、ダメだ。
 アレクセイは思わず歯を食いしばった。
 男らしく申し込むつもりだった。
 だけど、気付けば懇願になってしまっている。
 目からは熱いものが――涙が、零れ落ちた。
「俺は情けない男です。ずっと自分に自信なんてなくて――。貴方を幸せにする自信がなくて、こんなに遅くなった上に……涙なんて出てくるし」
 声が、震えた。
「それでも!」
 視線を落としたままのチェリアの頭に、そっと手を置いて、撫でるように後頭部に滑らせていき、彼女を仰向かせる。
 真っ直ぐチェリアの目を見ながら、アレクセイは言葉を続ける。
「貴方を思う気持ちだけは誰にも負けない。貴方といれば俺は確実に幸せになれる」
「全て忘れて、あなたと……愛し合って、人としての普通の生活を得ることは――きっと、とても幸せなのだと思う。だけど、忘れることなんてできないし、してはいけない」
「貴方の荷物は俺が一緒に背負う」
 アレクセイの言葉にチェリアはゆっくりと首を左右に振った。
「私が背負うべき荷物ってなんだろうか? わからない。私を妻にして、家に閉じこもっている私の世話をするだけの生活でも、あなたは幸せか?」
 もしも、それがアレクセイにとって幸せであったとしても。
 チェリアは幸せではない。
「役目を果たされたチェリア様に、背負うべく荷物なんて、ないんですよ。だから、貴方が背負おうとしている荷物を、俺にも一緒に背負わせてください」
 何を背負うのか、それはゆっくり、一緒に考えていけばいい。
「ああ、もう……チェリア」
 迷いを見せるチェリアを、アレクセイは抱き寄せた。
「頼むから、一緒に幸せになろう……!」
 少しして……。
 チェリアはアレクセイの背に、腕を回した。
「私にはいくつか夢があった。その一つを共に叶える相手として……アレクセイ、あなたが欲しい。だけどそれは、我が儘だと思う。むしろ今は、夢を叶えるための気力もない」
「それはどんな夢?」
「家を継ぐこと。一家で一丸となり、皇帝陛下と国に尽くし続けること」
 ため息をついて、チェリアはアレクセイから離れた。
「しばらく時間をくれないか。アレクセイもよく考えてみて……私で、いいのか。私は夫を立てて支える可愛い妻にはなれないから」
 それからチェリアは、馬鹿なことはしないと約束する、と。
 弱い笑みを浮かべてアレクセイに言い、彼を自分の部屋に帰らせた。

アレクセイ・アイヒマン チェリア・ハルベルト 担当:雪代ゆゆ
アレクセイ・アイヒマン チェリア・ハルベルト 担当:雪代ゆゆ


 

 島がはっきりと目視できるようになった時点で、箱船を沖止めし、継承者の一族となった者――ナイト・ゲイルエクトル・アジャーニヴォルク・ガムザトハノフルルナ・ケイジバリ・カスタルそれからチェリア・ハルベルトが救命艇に乗り込んで、氷の大地に向かうこととなった。
「遺体や遺品が安置されている場所は聞いている。回収の指揮は俺に任せてくれ。ヴォルクは調査とベルティルデの方を頼む。合図したらちゃんと戻ってこいよ」
 リンダと作成した氷の大地の地図を手に、ナイトが皆に言った。
 エクトルはナイトと共に遺体の回収に。ルルナは遺品を魔法具の台車に入れて、運ぶ役。チェリアはバリと共に救命艇で待機して、積み込みや、狼煙などで連絡を担当する役を担う。
 救命艇を泊めた場所に、氷は全くなかった。
「違う場所に来たようだな……」
 大地には、薄らと雪が積もっているだけで、以前ほどの歩き難さはない。
「ルルナ、俺達から離れるなよ。魔物も出るかもしれないから。まあ、ヴォルクは大丈夫だろうけど」
「わかりました。あの、ナイトさん。私に火の一族の魔法、教えてくれませんか? ちゃんと使えるようになりたいんです」
「そうだな。俺も練習相手がいると助かるし」
 ナイトとルルナのそんな会話を耳にしたエクトルが、少し苦々しい顔で「おい」と、ヴォルクを呼ぶ。
「貴様、風の一族の特殊能力を知っているよな? 少し練習相手になってもらえないか」
「我に教えを乞うということは、魔王軍に入りたいということだな。いいだろう、しかし条件がある」
 ヴォルクはベルティルデの精神を回収し、彼女の身体に戻すための協力をエクトルに求めた。
 エクトルは精神を封印できる魔法具を持ってきているとのことだが……。
「何かに使えるかもしれないから持ってきてはいる。だが、これは勝手に精神が入り込めるようなものではない。身体を持った本人と、数人の術者の術により、封じ込めることが出来る魔法具なんだ。王国の姫の場合、精神が肉体から離れただけの状態だから、精神を肉体まで導けば、戻れるんじゃないか?」
 だから、本人に戻る意思を持たせる呼びかけと、肉体のある場所まで精神を導くことが必要だろうと、エクトルはヴォルクにアドバイスをした。
 そして、メンバー達はそれぞれの役目を果たすために、大地に降りた。

 俺は生き残って、俺の命はここにある――。
 遺体を納めた箱を、救命艇へと運びながらナイトは思っていた。
 だからこの世界を護るために、最後の最後まで使い潰す。
 世界を脅かす存在が居るのなら、現れるのなら、それを止める。
 そういった存在が、この大地にまだいる可能性があるから、決して警戒は怠らない。
 これまでナイトは、大抵自分で決めて、選んだ道を進んできた。
 ただ、自分だけではどうすることもできなく、助けを求め、助けてくれた人がいた。
 背中を押してくれた人がいた。
 その人物に、ナイトには相棒が必要だと言われた。
 ただ、この状態の自分では無理だとも言われた。
(だから独りでやっていこうと思ったんだ)
 でも、背中を押される心地良さを、その時に湧き上がる心強さを知って、忘れる事が出来なかった。
 だから、挫けそうなときはまた……そう望んでしまったんだ。
「チェリア」
 棺を救命艇に運び入れた後。
 殆ど言葉を発することなく、手伝っているだけの彼女に、ナイトは声をかけた。
「どうすればいいのか迷っているなら、俺を手伝ってくれ」
「……見ての通り、手伝っている」
「そうではなく、今日だけではなく、世界を護るために生きる。その手伝いだ」
 そして、ナイトはチェリアに手を差し出した。
「ほら、俺を手伝え。もしくは俺に使われろ。その気になれば、今の自分を終わらせることは、いつでもできるんだしな」
 ナイトは、迷い、佇んでいる彼女の手首を掴んだ。そして、強引に引っ張る。
「ただでさえ人手が少ないんだ、危険を顧みずに動ける人間を手放すわけないだろう」
 チェリアは軽くよろめきながら、ナイトに引っ張られ、大地に降り立った。
「やることも、出来ることも沢山ある。そうやって動いて皆の生活が今よりもマシになるんなら、それも責任の取り方の一つじゃないか?」
 ナイトがそういうと、チェリアはゆっくりと歩きはじめた。
 自分の足で、魔力が渦巻く地へと。
「さあ、行くぞ」
 ポンッとナイトはチェリアの背を叩いた。
「俺も、ダメになりそうな時に、背中を押してもらえたら助かる」
「お前にダメになりそうな時なんてあるのか?」
「落ち込むことくらいはある。……知ってるだろ」
 チェリアは思い出したように淡い笑みを浮かべて、頷いた。
「帝国騎士として認められたんだってな」
「ああ。お陰で出来ることが増えた」
「それじゃ私たちは、これからは真の仲間だな」
 そうだなとナイトが頷くと、チェリアはどこか遠くを、空の彼方を眺めながら言う。
「だけど君の目は世界を見ている。私は帝国の貴族だ。遠くないうちに、結婚をして家を継ぐかもしれない。それでも……君が私を必要とするとき、私は君と共に国と世界を護る力となりたい。それはナイトに家族が出来てからもずっと。世界を護る相棒でいられたらと思う」
 そして、彼女は彼に告げる。
「私も継承者の一族になったんだ。世界を護る血を残すため――だけではなく、私自身も、命ある限り、国と世界のために生きれればいいと君の言葉を聞いて、思った」
 ナイトに顔を向けた彼女は、穏やかな顔をしていた。
 他人に力を与えてくれるような、強さを感じる彼女の顔。
 ああやはり、彼女はこうではくてはなと、ナイトは思う。
「それじゃまずは、仲間を国に連れて帰ろう。受け入れ態勢はできてるんだよな?」
「そう聞いている。航海中に影響を受ける者がいるのなら、私が全て対処する」
 言い切り、チェリアは活力のある笑みを見せた――。

ナイト・ゲイル チェリア・ハルベルト 担当:沙倉
ナイト・ゲイル チェリア・ハルベルト 担当:沙倉

 

 遺体、遺品の回収と調査を終えた救命艇が箱船へと戻った。
 不安げに待っていたアレクセイを、今度はチェリアが「話がある」と部屋へと誘った。
「この先ももし、彼が私を必要としてきた場合だけれど。私は、彼と……ナイト・ゲイルと世界を護るために、戦いたい。彼は異性だけれど、男女の仲になることは決してない」
 それは互いに、継承者の一族となる道を選んだから。間違いを犯すこと、ハーフを産みだすことは、世界の護りにつながらないと互いによく知っている。
「私の伴侶となる人には、騎士としてではなく、貴族として国と陛下を支え、家族を護ってほしい。そしてそれは……アレクセイだったらいいな……って」
 チェリアとアレクセイの性別が逆だったら、2人は迷うことなく結ばれていたのかもしれない、けれど。
「勝手なことを言ってすまない。ただ、今はそれ以外、道が見えないんだ。アレクセイは、アレクセイが幸せになれる選択をしてほしい。私も――貴方が好き、だから」
 薄らと顔を赤らめて、チェリアは言い。
 恥ずかしげに、俯いた。
 だけれどその表情は、昨日までのものとは違い、彼女の顔からは影が消えていた。
 道が、見えたんだ、と。
 アレクセイはほっとした。
 そして一歩、彼女に近づいて、口を開く――。


 

 ベルティルデの精神を体に戻すにあたり、マティアス・リングホルムジスレーヌ・メイユールにある相談をしていた。
「精神を封じ込めることができる魔法具……セラミス様の精神が封じられていたという魔法具のことですね」
「精神だけ上手く連れて来れるかわかんねぇから、封じ込めなくても、依り代くらいにはならねぇかなって」
「依り代……ですか」
「ああ。体を連れて行くんだから、封じ込めるまでもねぇだろ。だから、複数の高位魔術師とやらがいなくても使えるんじゃねぇかと思ってな。それに、チェリアって奴がいるなら、精神と体を合体させられるんじゃねぇかと思うし」
「なるほど、そうですね。もし精神がうまく戻れないなどの問題が出た時は、チェリアさんにお願いするしかありません」
 同意した後、ジスレーヌは魔法具についてはこう言った。
「……魔法具のことは詳しくないのでわかりませんが、セラミス様やグレアムさんの時とは条件が違いますので、そういう使い方ができるのかどうか……。ですが、宮廷の方――エクトルさんなら何かしらアドバイスをくれると思います。精神は目に見えないので、ヴォルク君の手に負えるかどうかもわかりませんが、ダチだと言っていたので、きっと連れて帰ってくれると信じます」
 エクトルは、騎士団の開発室室長でゴーレム開発などに携わっていた。
 帝国への忠誠心の塊のような人で融通の利かない性格の持ち主だが、ベルティルデの功績に何か彼が好みそうなものをプラスすれば話を聞いてくれると思われる。
 今度、ルースさんと一緒に本土へ行って面会を申し込んでみますね、とジスレーヌは言った。
 ジスレーヌはエクトルと直接会ったことはないが、氷の大地の任務に関することと言えば時間を作ってくれると思った。

 そして今。
 マティアスは、氷の大地へ降りていく人達を甲板から見送っている。
 隣にはルース・ツィーグラーがいた。
「例の魔法具は複製のほうだけど、持って来てくれているらしい」
 マティアスは、どこかソワソワしているルースに話しかけた。
「ただ、俺は探しに行けないから、魔法剣をヴォルクに預けた。外で何かあったら対処してくれるだろう。魔法具のほうは、エクトルに任せてる」
「ベルがまだいるなら、こっちに気づいて近づいて来てくれたらいいんだけど。見えないだけに、どうしたらいいのか……」
 まだエクトル達が降りたばかりだというのに、ルースは気が急くのかウロウロし始めた。
「待つだけってもどかしいわね」
 ルースの顔に焦燥の他に不安もあるのを、マティアスは見て取った。
「いったん中に入らねぇか? ここで風邪引いたら再会も何もなくなる」
「……そうね。お茶でも淹れるわ。温まりましょう」
 食堂でルースが淹れたハーブティを飲みながら、実際のところマティアスも時間の流れをいやに遅く感じていた。
 ルースも上の空で、二人の会話は途切れがちだった。


 

 万が一、歪んだ魔力にやられた人が出た場合のためにマティアスから魔法剣を借りて、ヴォルク・ガムザトハノフは氷の大地を歩いている。
 目的はこの地のどこかにいるベルティルデ・バイエルの精神を連れて帰ることだ。
 精神を封じ込めることができるという魔法具は、今のベルティルデの状態では使えないというので、ヴォルクはどこにいるともわからない彼女に呼びかけながら移動する。
「おーい、ダチ公! 早くしないと置いていくことになるぞ! ……いや、もしかしてもう近くにいたりするのか?」
 ベルティルデは今、精神体で見ることも話すこともできない。
 精神を集中しても気配も何も感じられない。
 ベルティルデのほうでヴォルクを見つけて付いて来てくれていればいいのだが。
 帰還招集がかけられるまで、ヴォルクはベルティルデの名を呼び続けた。


 

 何度、外の様子を見に食堂と甲板を行き来しただろうか。
 ようやくエクトル達が帰って来るのを見ると、二人はすぐに医務室へと小走りに向かった。
 ドアを開けてベルティルデのベッドのカーテンを開けた時、そこには体を起こそうとしている彼女がいた。
「――ルース!」
 思わず彼女の本名を叫んだルースが抱きついた。
 驚いたベルティルデもすぐに相手が誰かに気づくと、じわりと目を涙でにじませる。
 そして喜びの笑みを浮かべてルースを抱きしめ返した。
 二人はしばらく言葉もなく互いのぬくもりを確かめ合った。
 マティアスはその様子に安堵して、体から力が抜けていくのを感じた。
 目的を、果たすことができた。
 喜び合う二人を見守っていると、ベルティルデが声をかけてきた。
「マティアスさん、ありがとうございます。ただ今戻りました」
「おかえり」
 姫さんとベルがまた一緒にいるところを見たかったのだと、マティアスも笑みを返した。

ベルティルデ・バイエル ルース・ツィーグラー マティアス・リングホルム 担当:クロサエ
ベルティルデ・バイエル ルース・ツィーグラー マティアス・リングホルム 担当:クロサエ

 

 結局、手応えらしいものは何もないままヴォルクは船に戻った。
 そして医務室へ向かうと、ちょうどドアから顔を出したマティアスに手招きされた。
 ご苦労さん、と言われて指し示されたほうを見ると、ベルティルデがヴォルクへ嬉しそうな笑顔を向けていた。
「わたくしを呼んでくださって、ありがとうございます。おかげで戻って来ることができました」
 ベッドに体を起こしているベルティルデの傍に歩み寄ると、ヴォルクは彼女の頭にコツンと拳を当てた。
「まったく、無茶が過ぎるぞバカモノめ。だが、良い無茶であった。とはいえ、今後はこのような無茶はするな。そういったことは我に任せよ。そして、我が無茶をするにあたり、魔王軍に入れ」
 さっそく勧誘をするヴォルクに、ベルティルデはクスクスと笑う。
 ヴォルクが魔王を目指していることは、ベルティルデも知っている。
「何かお役に立てますか?」
「なんか頭使う担当部長だ。ルースは頭使う担当補佐だ。これはダチとしての頼みだから、断ることはできんぞ」
 メチャクチャね、と傍で聞いていたルースは呆れたが、判断はベルティルデに任せていた。
「別に旅はついて来なくていいがな」
 と、付け足したヴォルクに、首を傾げるベルティルデ。
「ヴォルクさん、旅に出るのですか?」
「我は魔王ぞ。世界征服を果たすのにあの村に留まることはできん」
「お一人で行かれるのですか?」
「今は我一人しか移動できんが、いずれは配下の者どもを連れて行く」
 実際はまだ世界を巡ることはできないのだが、この時のベルティルデは実情を知らない。
 ただ、魔王の道は厳しいのだろうと想像した。
「では、ヴォルクさんの旅に良いことがあるように何かできないか、考えてみますね」
「うむ」
「村に着いたら、配下さん達も紹介してください」
「ああ」
 魔王軍が何なのかをまったく知らないベルティルデ。
 それでも不思議と会話は成り立っていることに、ルースは苦笑した。
 それからヴォルクは借りていた魔法剣を、礼を言ってマティアスに返した。
「あれだけあった氷は大半が海に溶け落ちていた。海岸沿いは土が剥き出しだ。我は会うことはなかったが、魔物も多くいるだろう」
 もし今後また氷の大地に調査などで訪れる際には、充分な備えが必要になることは間違いない。
「ヴォルクさん、本当にありがとうございました。ゆっくり休んでください」
 ベルティルデの感謝と労いの言葉に、ヴォルクは余裕の表情でゆったりと頷いたのだった。


 

 氷の大地に接岸した箱船2号から降りていく人達を見送ったコタロウ・サンフィールドは、すぐに船のメンテナンスに取りかかった。
 次の出航までには間があるが、馳せる気持ちを落ち着かせるには仕事をしているのがいい。
 機関室に下りていき、他の技師達と共に点検を始めた。
 手を動かしながらも思うのは、ベルティルデ・バイエルの目覚めのことだ。
 彼女の無事の復活と、マテオ・テーペの人々との再会を、コタロウは心から願っている。
 そして、穏やかな日常の中でのんびりとおしゃべりができたら嬉しい。
「――技師長?」
 不意に呼ばれてコタロウはハッとした。
 いつの間にか手が止まっていた。
「ごめん、何でもないよ」
 気遣うような視線を向けてくる技師達に苦笑気味に答えて、コタロウは作業に集中することにした。

 待ちに待った知らせに、コタロウはその場を技師達に託して医務室へと走った。
 乱暴にならないように、けれど素早く医務室のドアを開き、ベルティルデのベッドを目指す。
 カーテンはすでに開け放たれていて、先に再会を果たしたルース達がコタロウに場を譲った。
「ベルティルデちゃん……」
 ベルティルデはしっかりと目を開いていて、ベッドに半身を起こしていた。
 そして、コタロウに微笑みかけた。
「コタロウさん……よかった。ご無事だったのですね」
「ベルティルデちゃんこそ、本当に……」
 変わらないやさしい声にコタロウの胸は歓喜に震えて、涙となって表れようとした。
 それをグッと堪えて、コタロウも笑顔を返した。
「おかえりなさい、ベルティルデちゃん!」
「皆さんのおかげで戻って来ることができました。心からお礼を申し上げます」
「いいんだよ、そんなこと」
 コタロウはベッドの脇にあるスツールに腰かけると、しみじみとその姿を見つめた。
 儀式の間の出来事は、この先もきっと忘れることはないだろう。あの時の胸の痛みも。
「この船が、箱船2号なのは知ってる? 最初に俺達が乗ってた箱船より大きいんだ。だから、マテオ・テーペの多くの人を助けてくれたよ。それから、3号造船の計画もあるんだ」
 ベルティルデは、自分の精神が体から離れていた間に様々なことがあったことを、素直に驚いた。
 特に箱船3号の計画には。
「動力の問題とか、いろいろと解決しなくちゃいけないことは多いけどね」
「わたくしにも、お手伝いできることがあれば、何でもおっしゃってください。力になりたいですから」
 身を乗り出すようにして言ってきたベルティルデに、コタロウは微笑み、頷いた。
 マテオ・テーペには、今もなお人が残されている。
 箱船がそこから住人達を脱出させるたびに、障壁は小さくなっているはずだ。
 自分達がいた頃とは想像もつかないほど過酷な環境になっているに違いない。
 おそらく、全員は救えない――。
 黒い染みのようにそんな予測はあるが、それでもベルティルデは諦め悪くあがくつもりだ。
「リモス村では、助け出された人達がベルティルデちゃんの帰りを待ってるよ。着いたら笑顔を見せてあげてね」
「はい、少し……申し訳ない思いもあるのですけれど……」
 本当は、マテオ・テーペ自体を海の底から引き上げたかった。けれど、力不足で叶わなかったと、ベルティルデは悔いている。
 そんなことはない、とコタロウは首を振った。
 そんな彼に、ベルティルデは一つ問いかけた。
 儀式の後の出来事についてだ。
 コタロウは、自分が知るかぎりのことを話した。いいことも、悪いことも。
「……それで、今日は連れて帰って来れなかった遺体とか遺品とか、集めに行ってたんだ」
「そうだったのですね……」
 ベルティルデは、黙祷を捧げるように目を閉じた。
 少ししんみりしてしまった空気を戻すように、コタロウは微笑んで報告を加えた。
「そうそう、ラレス・ペルマリニの模型も連れて帰ることができたよ」
 あの嵐のような中で無事だったのかと、ベルティルデは驚いた顔をした。
 それから、大切な預かり物が帰って来れたことを喜び、笑みを浮かべる。
「とても幸運な船ですね。本物もきっと、どんな嵐も乗り越える船になること間違いなしです」
 いつか完成するだろう船は、ベルティルデの祝福を受けた。
 二人は機関室から技師がコタロウを呼びに来るまで、穏やかにおしゃべりをして笑い合った。

コタロウ・サンフィールド ベルティルデ・バイエル 担当:ひゃく
コタロウ・サンフィールド ベルティルデ・バイエル 担当:ひゃく


 

 帝国に戻ったリンダは、手続きを済ませた後、コルネリアに関するものを持ってクレメンティ家を訪ねた。
 知らせを受けていたコルネリアの家族は、家の前でリンダを――娘の帰還を待っていた。
 近くの木に、コルネルアにだけ懐いていた巨体な黒馬、イル・モーロが繋がれている。
 父のアレッサンドロは、過去に騎士団と関わっており、その縁でリンダとは旧知の間柄だった。
 リンダの報告を聞き、重々しい表情で棺を受けとる。
「姉さん……」
 父の傍らにいたコルネリアの弟、バルダッサーレが肩を落とす。
 だけれど、悲しみにくれた彼の目は死んではおらず。
「騎士団に入りたい」
 姉に似た顔、瞳でリンダに訴えた。
 子どもを脱したばかりの、幼さの残る顔。
 騎士団でコルネリアの面倒を見た頃のことを、リンダは思いだす。
 コルネリアの母は、悲しみに暮れており、出て来れなかったとのことだった。
 重い空気と、沈黙が続く……。
「とりあえず、責任はとってもらおうか。身を固めるというのはどうだ」
 突然の結婚しろというアレッサンドロの言葉に、リンダは眉を寄せる。
「……誰が?」
「決まっているだろ、お前だ」
「……誰と?」
 重苦しいだけの雰囲気を変えようと言った言葉だったが、責任を感じているリンダは、真に受けて混乱してしまう。
「さあ、母のところの行こうか」
 答えずに、アレッサンドロは棺を従者に運ばせて、バルダッサーレと共に家に戻っていく。
 バルダッサーレはもう一度リンダに強い目を向けて言う。
「騎士団に入るから」
 彼は騎士団に入ったカッコイイ姉に憧れていた。
 コルネリアはこの年の離れた弟がいたから、命を賭して守る者があると頑張ってきた。また、万が一のことがあっても、家名は残ると思い切った。
(そんな彼女を――騎士団の任務ではない、異国の民のために、命を落とさせてしまった)
 リンダはバルダッサーレを見つめ返した。
 この子の世話をしなければならないと、責任を感じながら。
「ヒヒーーーーーン!」
 リンダと共に残された馬のイル・モーロが、悲しげな鳴き声をあげている。


継承者として、人間として、歩き出す(最終回後の日常)
●マドレーヌバスケット
 騎士団やスヴェルの任務の合間に時間を作り、タチヤナ・アイヒマングレアム・ハルベルトを訪ねる準備を整えた。
 二人が会うことになったのは、宮殿敷地内にある公爵邸。
 その門前に立ったタチヤナは、荘厳な雰囲気にバスケットを握る手に思わず力がこもる。
(こんなところで飲まれてる場合じゃない! 団長のために私ができることを、一歩ずつ頑張るって決めたから)
 手袋をした手でボフンッと片頬を叩くと、タチヤナは門番に訪いを告げた。

 使用人に案内されたのは応接室だった。
 中に入ると、会いたかった人物が待っていた。
「こんにちは」
 グレアムは微笑んで、タチヤナを迎え入れた。
 タチヤナも笑顔で返す。
「グレアム団長! こんにちは。ちょっとしたものを作ったので、ご一緒にどうかなと思いまして」
 そう言って、タチヤナは持って来たバスケットを掲げる。
 中身を告げると、グレアムは食器だけを用意した。
 並んで座ったソファの前のテーブルに、タチヤナはバスケットからマドレーヌと紅茶のポットを取り出して置いていった。
 マドレーヌからほんのりと甘い香りが漂う。
 それを見たグレアムが、少し目を丸くさせて言った。
「もしかして、タチヤナが作ったんですか?」
「はい。けっこう形良くできたかなって。あ、もちろんちゃんと味見してますよ」
「疑ってませんよ」
 と、グレアムはクスッと笑った。
 このマドレーヌは、チェリアと共に氷の大地へ向かった兄にも持たせてある。
 マドレーヌを丁寧に皿に盛りつけたタチヤナは、次にポットの中身をティーカップに注いだ。
「この紅茶は、アレクセイ兄様のオススメなんです。紅茶とハーブティをブレンドしてるんですよ」
 へぇ、とグレアムは興味深そうに注がれていく液体を見つめる。
「ハーブティって苦手な方もいますけど、紅茶とブレンドするとすごく飲みやすいし健康にもいいんです。体もポカポカです!」
 タチヤナはにっこり笑って、湯気を立ち上らせているティーカップをグレアムの前に置いた。
 自分の分も注ぐとポットを脇に置き、ティーカップを口元に運ぶ。
 二人でブレンドティの一口目を味わった。
 どこかホッとする温かさが体に広がっていく。
 それからマドレーヌのやさしい甘さに頬を緩め、近況を報告しあった。
 グレアムはスヴェルの活動報告書に目を通す傍ら、剣の稽古や読書などをしているという。
 今度は一緒に剣の稽古をと誘ったタチヤナに、グレアムは「ご指導よろしくお願いします」と冗談ぽい口調で言った。けれどその目は本気であることが感じ取れた。
 頼りにされている――このことは、タチヤナをとても勇気づけるし嬉しくさせる。
 前の自分なら、ここで満たされていたけれど、今はもっと欲張りになってしまっていた。
 その気持ちは少し前から大きくなってきていて、そろそろ一人で抱えているのは難しくなっていた。
 どこかに、落ち着けなければいけない。
 どんな場所であっても、どこかに。
 幸運にも、今はグレアムと二人きりだ。
 タチヤナは、膝をずらしてグレアムと向き合った。
 彼女の雰囲気を察したグレアムも、ティーカップを置く。
「団長から見て……私は一人の女性に見えてますか? 私は団長の……グレアム様のたった一人の女(ひと)になりたい……って思ってます」
 タチヤナは声が震えそうになるのを必死で押さえつけ、グレアムをじっと見据えて言った。
 グレアムは痛いほどの想いがこめられた視線を、目をそらさずに受け止めた。
 タチヤナにとって、息苦しい沈黙が続く。
 やがて、グレアムは静かに目を伏せた。
「……まだ、記憶は欠けたままです。そして、まだ何の償いもしていません。気持ちはとても嬉しく思います。そういうふうに思ってくださったことに感謝もしていますし、何より生きる勇気を与えてくれます。けれど……その気持ちに応えることはできません」
 では、記憶が戻り償いが終わった時はどうなのかと問われても、グレアムには答えられない。
 タチヤナの気持ちの着地点は寂しいところだったけれど、知ってもらうことはできた。
 どんなものであれ答えを聞けたこと自体は嬉しかった。
 ごまかされることほど残酷なものはない。
 それでも。
 タチヤナは、寂しそうに微笑んだ。

グレアム・ハルベルト タチヤナ・アイヒマン 担当:クロサエ
グレアム・ハルベルト タチヤナ・アイヒマン 担当:クロサエ

 

●漁業復興への道
 この分だと、また明日の朝には音さえも吸い込むような量の雪に覆われているだろう。
 そんなことを思いながらリキュール・ラミルはコートの雪を払い、ハオマ亭のドアを開けた。
「いらっしゃいませ! あ、リキュールさんお疲れ様です」
 迎えたのは、弾むような声のパルミラ・ガランテ。この宿酒場の看板娘だ。
 彼女は隅のほうのテーブルを示し、もう来ていますよと言った。
 見ると、パルトゥーシュ商会会長のフランシス・パルトゥーシュが軽く手を挙げていた。
 今日はフランシスとパルミラに報告したいことがあり、この店に集まることになったのだ。
 リキュールがテーブルに着くと、フランシスが「ご苦労さん」と挨拶してきた。
「手前がお呼びしたにも関わらずお待たせしてしまい申し訳ございません」
「気にすんな。あたしが早くに来ただけだ」
 そんな言葉を交わしていると、パルミラが温かいスープを運んで来た。
 寒さが厳しい冬の間は、水の代わりにスープを出している。
 パルミラはリキュールの注文を聞くと、キビキビとカウンターに戻って行った。

 揃った料理を囲むと、さっそくリキュールは報告を始めた。
「まずは手前の店が元々扱っていた海産物についてでございますが、元漁師の方々のご協力もあって新人達の腕も上がってきているとのこと。彼らがさらに成長すれば、国民の食卓にももっと多くの品が乗るはずと考えております」
 これに目を輝かせたのはパルミラだった。
 リキュールが漁業復興のために本格的に活動を始めると聞き、父親であるマスターを通してハオマ亭に卸してくれないかと打診したのである。
 今、三人のテーブルに乗っている料理のうちのいくつかは、ポワソン商会から仕入れた魚介類によるものだ。
「お父さんたら、魚の捌き方忘れかけてたなんて言ってたんですよ」
 パルミラは肩をすくめて笑った。
 リキュールの呼びかけにより、ハオマ亭のように海産物を卸す飲食店や漁具の製造などに携わる商工業者が増えてきた。
 彼がその利益を独占せず、公共事業という側面を強調した成果ともいえる。
「けど、今の時期の漁業は危なくねぇか?」
 小魚のから揚げをつまみながら、フランシスは漁師達の身を案じた。
 リキュールも神妙な顔で頷く。
「ええ、相応の覚悟で臨まざるを得ません。そこは皆、承知の上で海に出ております。新人達も我儘など言わず、先達の指示に従っていると聞いています」
「確か新人てスラムの奴らだったよな。まあ、元はほとんどが普通の帝国民だからな。本当に悪い奴は今頃は獄中か」
 一部の深淵勢力などスラム再開発に暴力でもって抵抗している者達には、騎士団が対処している。
 抵抗勢力に魔法具などを提供していた闇の技術者達の巣窟もすでに制圧されているので、勢力が解体されるのも時間の問題だろう。
「新人と言えば、うちにも近々来ますよ。公爵様の別邸を開放した学び舎から」
 そこで勉強し直したり技術を習得した元スラム民は、少しずつ街に出て働き口を得るようになってきている。
 働き手が増えれば、街も活気づいていくだろう。
「ところで、ひとつ相談がございます」
 リキュールは、フランシスに知り合いのリュネから受けた頼まれごとを打ち明けた。
 かつて海賊との戦いの時に開発されたゴーレム技術を用いて、リモス村に風車や水車を作れないかというのだ。
 リモス村は大洪水以降長いこと海底にあった。そのため土地は塩分を多く含んでいた。それにより農業は、地の回復魔法を駆使しながら細々と行われていたのである。
 努力の甲斐もあり回復の兆しを見せつつあった農地だったが、今回再び短時間とはいえ水没した。村人の尽力により、畑地や居住区への浸水はさほどでもなく、早いうちの回復が見込めそうだが、地の回復魔法はもう期待できない。
 また、今後人口が増えた時に農地を増やそうと思っても、今回の防衛範囲外の土は塩分濃度が高いと考えられる。
 そこで風車や水車を、土の浄化に使えないかというのである。
 フランシスは食事の手を止め、しばらく思案した。
「……うちの商会では今、魔法具関係の技術利用を凍結して機械技術のみの開発を行っている。というのも、あたしを含めて魔法を使える奴がいないからだ。だから、ゴーレム技術そのものでの開発は請け負えない」
 今後、魔法具を使うなら魔力を持つ人の協力が必要になる。魔力を持たない人は魔法具を扱えないからだ。
「けど、魔法具を動力としない風車や水車を建てることはできる。いいだろう、うちで引き受けよう。とはいえ、いきなりリモス村に押し掛けるわけにはいかねぇから、責任者と話し合う必要があるな。あいにく、あたしはリモス村に伝手はない……誰かいないか?」
 帝国に着いて以来ほとんどを本土で過ごしていたとはいえ、リュネはマテオ民だ。まずは彼と都合をつけて会おうということになった。
 ちなみに、今のリモス島と本土は地形的に以前とは違った繋がり方をしている。
 これまでは干潮時のみにできる道で行き来していたが、リモス島の隆起と共にその道も橋のように海上に表れて、本土と島を繋いだのである。
 「リモス村、ここより厳しいんでしょうね……うちでも何かできるといいんだけど、今はスラム支援で手一杯かなぁ」
 冬を乗り越えるために街の避難所に身を寄せている元スラム民は多い。
 ハオマ亭はそういった人達への炊き出しなどに協力していた。
 ハオマ亭に限らず、支援者はどこもギリギリの蓄えを削って食料や物資を送っているのが現状だ。
 だからこそ、リキュールの漁業復興には期待が大きい。
「フランシスさんのところみたいに直接何かをすることはできそうもないけど、海産物を仕入れることで還元してくれたらと思います」
「お二人のお気持ちに応えられるよう、尽力いたします。そうそう、今度マグロが獲れたら一本お贈りいたします。お納めくださいませ」
 気前の良さにフランシスとパルミラは驚きの声を上げたが、ありがたくいただくことにした。その分、リキュールや街の人達に返していく。
 そうやって利益を回し、少しずつ豊かになっていく――。
 いつか厳しい冬も、のんびりやり過ごせる日が来るだろう。

●午後のサンドパン
 箱船2号が氷の大地へ向かった後、アウロラ・メルクリアスは本土に戻ったカサンドラ・ハルベルトを訪ねた。
 そして二人は今、雪が降り積もり真っ白になった街を、ゆっくり散歩している。
 アウロラにとっては、魔力を手放してから初めてのカサンドラとの外出になる。
 白い息を吐きながら街を見渡したアウロラの目に、まだ復興工事中の家屋などが数多く映った。
 そんな中でも、街の人達は明日に希望を持って働いている。
 神殿で礼拝をしたいと言うカサンドラ共にそこへ行くと、中には老若男女問わず多くの人が熱心に祈りを捧げていた。
 その人達の同じように祈るカサンドラの隣で、アウロラも祭壇を向き頭を垂れる。
 今願うのは、姫様――ベルティルデが戻って来ること。
 礼拝を終えて再び外に出ると、二人は市場へと足を向けた。
 暖かい季節の頃よりテントは少ないが、それでも活気ある声があちらこちらから聞こえてくる。
 その中に、パンを売っているテントがあった。
 二人はそこでサンドパンを買った。
 どこかにゆっくり食べれる場所はないかとしばらく歩いた結果、イベントなどが行われることがある広場のベンチに落ち着いた。
 幸い今日は晴れていて、誰かが雪を払ってくれていたベンチは座れるくらいに乾いている。
 歩き回ったため小腹が空いた二人には、サンドパンがとてもおいしく感じられた。
 一つ目をぺろりと平らげたアウロラは、見てきた街の感想を口にした。
「ここも、大変そうだね」
「……うん。これでも、急がなくちゃいけないところから……人手を集めて、がんばったんだって。スラムのほうは……もっと、悪いみたい」
 あまり外に出ないカサンドラの耳にも、街の様子は届いてくる。
 というのも、最近はカサンドラの父親である公爵が外の様子を彼女に聞かせるようになったからだ。
 ハーフの宿命から解放されて魔力を持たない人間になったカサンドラは、父のもとに帰った後いろいろなことを聞かされた。
 その大半が公爵が犯した罪の告白だった。
 それはカサンドラに大きな衝撃を与え、何日かあまり眠れない日々を送ることになった。
 以前の彼女ならそこで立ち止まってしまうところだが、今は違う。
 父親がそうするに至った原因も動機も受け止めて、一緒にその罪を償っていこうと考えるようになっていた。
 けれど、どうしたらいいのかわからないこともある。
 カサンドラはこれらをアウロラに打ち明けた上で、相談した。
「お父様と……どんなふうに、お話ししたらいいのかな……。何かね、うまく、お話しできない……の。お父様も……私から、目をそらすの……」
 公爵がカサンドラの顔を正面から見れないのは、罪悪感によるものである。
 俯いてしまったカサンドラの背を、アウロラは慰めるように撫でた。
 その手のぬくもりを受けているうちに、だんだんとカサンドラの顔に元気が戻っていった。
「ありがとう……私、もうちょっと、がんばる……ね」
 微笑み、気持ちを立て直したカサンドラは、アウロラにリモス村の様子を尋ねた。
「一度、海に沈んじゃったからね……。前みたいに地の魔法で土地の回復も望めない。でも、みんな諦めてないよ。それに今は、姫様の帰りを待ってウズウズしてるかな」
 明るく言ったアウロラに、カサンドラは安堵の笑みを見せた。
 たくさんの出来事があった地には、カサンドラも思い入れがある。
「姫様が戻って来たら、また三人でお茶とかしたいよね」
「うん……っ、お菓子、持って行くね」
 それから二人は、魔法を使えなくなったことによる笑える失敗談や、気が付いたことなどを始め、今日だけでは話しきれないほどの話題を飽きることなく楽しんだ。

カサンドラ・ハルベルト アウロラ・メルクリアス 担当:毒野トカゲ
カサンドラ・ハルベルト アウロラ・メルクリアス 担当:毒野トカゲ

 

●新生海賊団
 元々の大地を覆っていた大容量の氷が海へと崩れていく中、命からがら脱出した三人がいる。
 三人のうち二人の男性は、崩壊から急ぎ撤収するアルザラ1号から降りて、ある人物の救出に向かった。
 素早く助け出して船に戻るつもりだったのだが、誰にも告げずに降りたために二人がいないことを知らなかったアルザラ1号は、二人を置いて岸から離れて行ってしまった。
 探していた人物を見つけることはできたものの、このままでは寒さと魔物に殺される。
 そんな時、一人が敵船がどこかにあるかもしれないことを思い出した。

 中型船で沖に出てしばらくした頃、ようやくバルバロが意識を取り戻した。
「お、気づいたでござるか」
 バルバロが最初に見たのは、ジン・ゲッショウだった。
 ジンはバルバロの額に手を当てる。
「まだ熱は下がってこざらんな。横になっていたほうがよい」
「……ここは?」
 高熱と寒さで震える声でバルバロは尋ねた。
「海の上でござる」
 ジンはここにいる経緯を簡単に話して聞かせた。
 そこに、操縦室にいたエンリケ・エストラーダがこの乗組員室へ顔を出した。
 目を開けているバルバロに気づくと、やっとお目覚めかとからかうように言った。
「二人とも……世話かけたな。ありがとよ」
「言葉より行動で示せよ。……で、これからのことだが」
 エンリケは視線を鋭くさせて、ジンとバルバロを見据えた。
「俺は陸(おか)には未練はねぇ。船も手に入ったことだし、こいつで帝国とやり合うってのはどうよ?」
 言い終えてニヤリとするが、目の鋭さはそのままだ。
 エンリケは続けた。
「こっちは来る者は拒まずだ。お前らが仲間に加わってくれるってのなら歓迎する。ぶっちゃけ帝国なんぞで逃げ隠れしながら暮らすよかよっぽど面白れぇぜ?」
 エンリケは、気心が知れている上に腕の立つジンとバルバロを頼もしく思っている。
「見つかれば、ひとたまりもないのではござらぬか?」
「今のままならな。だが、俺達の名が広まれば、きっと合流してくる奴らがいる。ハーフに利用されていたとはいえ、かつての海賊や深淵勢力が帝国から弾き出された弱者の集まりだったことは間違いない」
 エンリケはこれまでの経験から、今後、帝国が今まで以上に弱者に手を差し延べるようになったとしても、日陰の部分は依然として存在し、再び社会から弾き出される人達が生まれると考えた。
「何も義賊を気取ろうってわけじゃねぇ。ただ、手放さなかったこの魔力を、そういった弱者のために武器として戦おうと思ってる。自分がクズだってことは承知してる。だがな、クズにはクズの誇りってもんがある。俺はそいつを忘れたくねぇのさ」
 静かに耳を傾けていたジンは、エンリケの考えを飲み込むように数回頷く。
「……なるほどなるほど。意地というやつでござるな。向こうには恩義を感じた者もいなくはないが……」
 と、ジンは本土がある方を見やって言う。
「帝国のやり方はつまらぬ。大海原での立ち回りのほうがずっと面白そうでござる」
 エンリケに向き直り、にっこりして続けた。
「拙者、所詮は流れ者故。エンリケ殿のような崇高な思想は持ち合わせておらぬが……魔力を失って煙管に火をつけるのが不便で敵わぬ。お主といると火には困らなさそうでござるからなぁ。共に行くでござる」
 そして懐からその煙管を取り出すと、火皿に葉を詰めてエンリケの前にスイッと差し出した。
「……ということでさっそく一つ、頼むでござるよ」
 呆れたという顔をしながらも、エンリケはジンの要求に応えてやった。
 ジンはうまそうに煙管を吸い込んだ。
 それから、二人の視線はバルバロに集まる。
 眠ってはいないが目を閉じていたバルバロは一言、
「話が長ぇ」
 とこぼした。
「……海賊するのに小難しい理由なんざいらねーだろ」
 気だるげに身を起こしたバルバロは、視界を覆った髪をかき上げ――気づく。
 髪が、短くなっている。
 どうなっているんだ、とかき回すようにして長さを確認するバルバロに、ジンが教えた。
「運ぶ時に邪魔になったので切ったでござる」
 悪びれた様子もないジンを、バルバロは睨みつけた。
 が、それも一瞬のことで、ため息と共に不満を吐き出した。
「ま……放っときゃ、いつか伸びらぁな。手前にもいちおー、礼言っておく。さんきゅ」
 なんの、とジンは笑った。
「決まりだな」
 エンリケがボスとなり、ここに新たに海賊団が結成された。

「さて、これからだが。今ここにはベースキャンプから持って来た分の残りと、船内にあった少しの食料の残りがある。ちと厳しいが当面はこれで食い繋ぎ、必要に応じて、今後帝国領周辺海域の調査に出てくるだろう船を襲撃して物資を奪うつもりだ」
 エンリケが示した方針に、ジンとバルバロは頷く。
「海賊、深淵勢力と負け戦が続いたが、生きてさえいりゃもう一回くらいはできるだろう」
 ふとバルバロは、手が届かなかったかの人のことを思った。
 目が覚める前に彼女と交わした会話のことを、誰かに話す気はない。そのことについて思っていることも。
「とっとと体調整えて、戦力にならねぇとな」
 心の内を欠片も見せず、バルバロは強い意志がこもった目でそう言った。
 一方ジンは、この船の武装強化を考えていた。
「船内をじっくり見て、思案するでござる。これまで魔力でできていたことができなくなった今こそ、進歩の時でござる」
 魔法は使えなくなったが、それならそれで何なりとできることはあるはずだと、ジンは前向きだ。
 それからふと、エンリケとバルバロを見て苦笑する。
「お主ら二人は騎士団では大人気でござるから、見つかった時は大忙しになりそうでござるなぁ。……ふふふ、羨ましくはないでござるが。そういえば、エンリケ殿は死んだとされていたはずでござったな」
 死んだはずの者が生きているとわかったら、騎士団は大騒ぎになるに違いない。
 三人は顔を見合わせ、ニヤリとした。
 と、その時。
 エンリケの背筋をゾクリと寒気が襲った。
 それはとても小さなものだったが、決して無視できるものではなかった。
 間違いなければ、それは歪んだ魔力によるものだ。
 顔を覆い、舌打ちする。
「――あんまり、のんびりしている暇はねぇな」
 どうした、という二人からの視線に、エンリケは苦い顔で答えた。
「歪んだ魔力だ。お前らはよほどのことがないかぎり平気だろうが、俺はこのままだとやべぇ。地の継承者一族か、魔法剣を持つ継承者一族か……そこらへんを仲間にしねぇと。拉致でもいい」
 仮に魔法剣だけ手に入っても、ジンもバルバロも使えない。
 その上、魔法剣は自分に使っても効果はないという難点があった。
 事の深刻さに、ジンとバルバロは黙り込む。
「船を見つけたら乗り込むか……」
 継承者一族が乗っているかはわからないが、それは船を制圧してから調べればいいことだ。
「今は逃げるに限ると思ってござったが、そうもいかなくなってしまったでござるな。バルバロ殿が回復しだい探すということでどうでござる?」
「明日には治ってる」
 一応その身を案じたジンに、バルバロは断言した。
 こうして早急に解決しなくてはならない問題への方針が決まった。
 そして、エンリケとジンは、バルバロの回復のために乗組員室を出たのだった。

●長生きの秘訣
 箱船が氷の大地へ向かった頃、アルファルドはリモス村のイフを訪ねた。
 彼女はインガリーサ・ド・ロスチャイルド子爵の屋敷の一室で暮らしている。
 イフがブレンドした、体が温まるというハーブティを飲みながら、アルファルドは彼女へ返答した。
「こんな出涸らしみたいなじじぃで役に立つなら使ってくれ」
 アルファルドは、ハーフの特殊能力に苦しんでいたカサンドラ・ハルベルトをその能力と宿命から解放した魔法具の技術を、自分に売って欲しいと申し出ていた。個人向けである上、正規の手順では長い時間を要する魔法鉱石の精錬加工など改良の余地はあるものの、その技術ははるか未来に再び現れるだろうハーフ達のために保管しておきたいと考えたのである。
 相応の金額は覚悟していたが、イフが提示した金額は途方もない額だった。
 そして彼女は悪魔のように囁いた。
 ――お金が無理なら、体で払ってくれてもいいですわ。
 風俗を紹介するという意味ではない。助手兼実験体になれという意味だ。
 イフは違法な手段に手を染めて追放された技術者である。
 そのことを踏まえて、アルファルドはしばらく悩んだ。
 そして、身売りを決意したのだった。
「本当によろしいのですか? こちらに泊まり込みになることもあるかと思いますが、ご家族やお身内の方は……?」
 リモス村はマテオ・テーペの人達により開拓が進んでいるが、流刑地でもある。外聞を気にする人は気にしてしまう地だ。
「問題ない。妻も身内も、心配してくれるような人は誰もいない」
「それなら、ここに移って来られてはいかがです?」
「いや、実は少しでも足しにしようと思って家庭教師をやっててな」
「あら、そうでしたの。それは放り出すわけにはいきませんわね」
 イフは微笑み、ハーブティを一口飲んだ。
 アルファルドの生徒は貧しい子達なので実入りは少ない。
 ふと、アルファルドは前にイフが言っていたことを思い出した。
「学校、開きたいのか?」
「ええ。学びたい子達のために、私の知識をすべて伝えたいと思っています」
「技術料の足しとしてなら協力するぞ」
「それは心強いですわ。どこで開くか検討しましょう」
 イフはウキウキした声で言った。
 アルファルドは念のため言っておいた。
「倫理的に問題ない技術に限定するが。後、精神の成長も含めて教えると思う。……わからないことがわかるのは、新しい世界が広がるのは、知識にしろ魔法にしろとても楽しい。だが、それに振り回されて力に溺れるのは、周囲だけじゃなく自分も不幸にするからな」
 アルファルドは、亡くしてしまった弟子を思い出しながら言った。
 それから、一方的だったかと思って言い足した。
「無理強いするつもりはない。俺はこうするというだけだ。石頭と言われようが、教える以上は生徒に不幸な思いをさせたくないからな」
「あなたはあなたの思うように導けば良いと思いますわ」
 ちなみにイフは、正道も邪道も、メリットとデメリットを含めて段階を踏んで教えようと思っている。自分の師がそうだったように。そして、どちらを選ぶかは生徒次第というわけだ。
「ところで、ちょっと個人的なことを聞くが……もしかして元はそれなりの身分の家の人だったのか?」
 イフの丁寧な仕草は、アルファルドが見てきたスラム民とはだいぶ違っている。
「ええ、貴族の端くれでした。ただ私は、貴族の娘としての教養よりも魔法具や機械技術を学びたかったのです。家を飛び出したのは、もうずい分と前のことですわ」
 置いてきた家族は、大洪水に飲み込まれた。
 イフは懐かしむように目を細めた。
 しかしそれは一瞬で、彼女はリモスに必要なものについて話し始めた。
「差し当たって、短期間とはいえ海水に浸ってしまった畑の土の回復手段と、よりよい農具が欲しいですわね」
 二人は雑談を交えながらあれこれと案を出し合うのだった。

●厳冬の海で繋がっている
 それまで箱船に保護されていたメリッサ・ガードナーは、箱船が儀式のために氷の大地へ旅立つ際に、リモス村に降ろされ診療所に運ばれていた。
 ただ、医療設備が整っていないリモス村ではきちんとした治療を施すこともできない上に、医療知識を持つ者もおらず最低限の処置しかなされないという状況だった。
 だから、村に帰ったタウラス・ルワールがメリッサの状態を確認した時に出たのは、重いため息であった。
 衰弱し、すっかりやせ衰えた痛々しい身体。
 あと少しタウラスの帰還が遅ければ、息を引き取っていただろう。
 そんな状態のメリッサであるが、タウラスは一つの異変に気付いた。
「まさか……」
 何度も確かめるが、間違いない。
 メリッサに新しい命が宿っている。
 いつどこでという疑問はあるが、タウラスは彼女ともう一つの命を繋ぎ止めるため、急ぎ点滴を施した。
 それから室内を温かくして、体が冷えないように努めた。
 本土がそうであるように、リモス村も寒さが厳しい。
 特に海から吹き付ける風は、痛いくらいだ。
 また、医療知識を持つタウラスのもとには、寒さで体調を崩した村人が訪ねてくることもあるし、患者の具合次第では呼ばれることもある。
 村に戻ってからというもの、タウラスは忙しく日々を送っていた。
 メリッサが目を覚ますだろうかと期待もしたが、その気配は一向に見られない。
 それから、わからないことが一つ。
 彼女の魔力の有無である。
 結論から言えば、メリッサにはもう魔力はない。
 しかし、タウラスにはそれを確かめる術がなかった。
 いつかメリッサが目覚めることがあったなら、その時に確かめるしかなさそうだ。
「……体温は安定していますね」
 額にあてた手のひらに感じる温かさは、昨日と変わらない。手足の冷えもない。
 その時、診療所のドアがけたたましく叩かれた。
「先生、こいつ診てやってくれねぇか! 熱が高いんだ!」
 ドアの向こうから切羽詰まった大声が響いてきた。
 タウラスは急いでドアへ向かい、開いた。
 男の背には、顔を赤くさせて荒い呼吸を繰り返す、彼より少し若い男がぐったりしていた。
「こちらへ」
 タウラスはすぐに中へ導き、高熱にうなされている若者を診察台に寝かせた。
 いつからこうなのかなど、運んで来た男に尋ねていきながら、若者の状態を確認していく。
「今日一日はここで様子を見ましょう。あなたはしっかり手洗いとうがいをして下さい。具合が悪いと思ったら我慢せずに来て下さいね」
 今のところ、性質の悪い流行り病は発生していない。
 ただ、厳しい寒さの下では油断はできない。
 若者をベッドに移し終えたタウラスは、ふと遠くにいる妻のレイニ・ルワールを思った。
 アトラ島も厳しい寒さに見舞われているはずだ。
 結局、彼女がした選択の理由は何一つわからない。
 けれど、機会があれば聞くことはできるだろう。
 寄り添うことも。
 タウラスは降り始めた雪のはるか向こうにあるアトラ島の方角を、しばらく見つめていた。

●失くした過去と見えない未来
 公爵邸の応接室で、最近のスヴェルの様子などを報告したルティア・ダズンフラワーは、話が一区切りつくと、テーブルの上に綺麗な小箱を置きグレアム・ハルベルトの前に差し出した。
「ちょっとした物ですので」
「気を遣わせてしまってすみません」
 グレアムは小箱を受け取ると、そっと蓋を開けた。
 中には丁寧に折りたたまれたハンカチが収まっていた。
 そして真っ先に目に入ったのは、冬の花々の刺繍であった。
「美しい刺繍ですね。ありがとうございます、大切に使わせていただきます」
 嬉しそうに微笑んだグレアムは、小箱からハンカチを取り出して広げた。
 品の良いデザインだ。
 刺繍はルティアの手による。グレアムが冬生まれと知り、冬の花々を選んだ。
 彼が心安らかに過ごせるようにと願いながら、針を刺していった。
 しばらく刺繍に見入っていたグレアムが、ふとハンカチの下に隠されていたものに気づいた。

「これは……」
 どこか神秘的な雰囲気がある石を持ったネックレスだった。
 グレアムは、ネックレスをじっと見つめたまま指先で石をなぞる。
「どこかで、見たような……」
 大切なものだったような、と呟いたグレアムに、ルティアはそのネックレスにまつわる話をしようと口を開いた。
 グレアムのことを大切に思っていた人がいたことを伝えたかったから。
「それは、セラミス様の精神を封じ込めていたもので、以前はグレアム様が肌身離さず身に付けていらしたものです」
「セラミス様の……」
「私は、エルザナさんの力を借りてセラミス様とお話をさせていただいたことがあります」
 ルティアは、その時に交わした会話をグレアムに話して聞かせた。
 始めはほとんど知らない人のことを聞いているようだったグレアムの表情に、少しずつ変化が表れていった。
 本人が意識しているかはわからないが、懐かしむような悲しむような、ルティアにはそんな感情のものに見えた。
「――グレアム様の子供をぎゅーっとさせてもらうと、それはお優しそうな様子でした」
「子供って……何を言ってるんですか、姉様は……」
 少し呆れたようにこぼした直後、グレアムはハッとした。
「姉様? え……と、あれ?」
 軽く額に手を当てて混乱している様子のグレアムの隣に、ルティアはそっと腰を下ろした。
「あの……御身に触れてもよろしいですか?」
 よくわからないまま頷いたと思われるグレアムの背に、ルティアはやさしく腕を回した。
 そして、幼子をあやすようにトン、トンと背を叩く。
「これまで、頑張ってこられましたね」
 しばらくそうしていて……あっ、と思いルティアから体を離した。
 何という大胆なことをしてしまったのかと、熱を持っていく頬を手で覆う。
 それと同時に、グレアムのぬくもりに彼の生をはっきりと感じて嬉さで胸がいっぱいになった。
 二つの感情に揺さぶられ、涙となって表れる。
 ルティアの行動に固まっていたグレアムだったが、涙する彼女に気づいて焦った顔になった。
「どうしました? 何か……」
「いえ、これは、その……大丈夫です。悲しいとか辛いとかではありませんので」
 ハンカチで涙をおさえたルティアは笑顔を見せたが、グレアムは納得していない様子だ。
 ルティアはしっかり涙を止めて微笑んだ。
「グレアム様は、団員の前ではいつも笑顔で凛々しくて……きっとご幼少の頃も、良き子でいらっしゃったのだと思います。けれど、個人であるご自分ももっと、大切にして良いのですよ」
「自分を粗末にしているつもりはないのですが、そう見えますか?」
 ルティアは苦笑を返した。
 そう見えるのかもしれない、とグレアムは何とも言えない気持ちになった。
「私は貴方に家族をあげたい。慈しみ、心支え合える家族を。グレアム様を愛しています」
 叶うなら、同じ景色を見ていたいとルティアは想いを込めて見つめた。
 彼女の真剣な気持ちを受け止めた上で、グレアムは静かに首を横に振った。
「お気持ちは、とても嬉しいです。こんな自分を……ですが、何も償わず、思い出せないままでは、親にはなれません。ルティアの気持ちに応えることも」
 ネックレスを見て、グレアムはかつて懐いていた年の離れた女性のことを思い出しかけている。
 もしかしたら、近いうちに思い出すかもしれない。
 けれどまだ、街の人達やスヴェルの団員達にしてしまったことに、何の償いもしていないという思いがあった。
 今のまま誰かと寄り添っても、どちらも幸せにはなれないと思っている。
 その誰かを想える日はいつなのかと問われても答えられないけれど。
 グレアムは固く口を結んだまま、ルティアに頭を下げたのだった。

●発展への道筋
 氷の大地での作戦で戦死した人の遺体や遺品の回収に行っていた箱船2号が帰って来た。
 帰還して数日した頃、リュネ・モルルース・ツィーグラーからその時の報告を受けていた。
 本土に残ることにしたリュネは、ルースにある頼み事をしたのだ。
 彼らがまだマテオ・テーペにいた頃のことだ。
 出航を間近にしたある日、リュネはルースに塩害について話したことがあった。
 いつか洪水が収まり再び陸地が現れても、長いこと海の中にあった土地は塩分を多く吸い込んでいるはずだと。そういった土地は植物が育たない。そのことを、出会った先の導かれる方へ伝えてほしいと。
 今までそのような機会には恵まれなかったが、リュネはそれは今だと氷の大地に向かう前のルースに告げた。
 騎士団で研究していたゴーレム技術の民需転用を働きかけてほしいと頼んだのだ。
 しかし、その相手はよりによってエクトル・アジャーニであった。
 ルースとは犬猿の仲である。
「相変わらず嫌な男だったわ」
 不機嫌も露わに、ルースはその時の様子を話し始めた。

 航海中のある日、ルースは意を決してエクトルを呼び止めた。
 振り向いたエクトルも、ルースを見たとたん嫌そうな顔になった。
「相談したいことがあるの。時間、いただけるかしら」
 ルースからの相談など、天地がひっくり返ってもあり得ないと思っていたエクトルは目を丸くしたが、とりあえず話を聞くだけは聞こうと向き直った。
「騎士団で開発していたゴーレムのことよ。その技術を民間にも公開してほしいの。正確には、パルトゥーシュ商会に」
「パルトゥーシュ商会? どういう理由だ」
 ルースはリモス村の農地の塩害について説明した。
「真水が出るところまで掘削して、その水を灌漑に用いる……か。考えは悪くないが、魔力がないと魔法具は使えない。それは承知しているな?」
「ええ。だから今まで利用していた魔法による動力を、水車や風車に置き換えようという話が立ち上がっているの。大きい物を作りたいから、ゴーレムの設計を参考にしたいというのよ」
 これからは、魔法に頼らない設備を作ろうという話である。
「スヴェルを支援しているパルトゥーシュ商会なら問題はないと思うが、僕の一存では決められないな。……だが、おそらく許可は下りないだろう」
 何となく、ルースには予測できる返答だった。
「それなら、建設の時にゴーレムを貸してもらうことはできるかしら。工事を少しでも安全に早く終わらせるために」
「そちらならば計画書を提出してくれれば、都合をつけられるだろう」
「わかったわ。その時はお願いするわ。時間取らせて悪かったわね」
 ルースはエクトルの前から立ち去った。

「……と、そういうわけ。後はパルトゥーシュ商会の技術力に期待するしかないわね」
「ゴーレムを貸してもらえるならいいんじゃないですか?」
「特殊な技術であるほど国で秘密にしておきたい……帝国に限らずどこの国でもあることね」
 冷めた声でルースは言った。
「とりあえず、ゴーレムは確保できたわ。リモス村の人達が餓死する前に計画を詰めましょう」
「まずは関係者の顔合わせですね。メンバーは、フランシスさんとリモス村責任者の方とジスレーヌさん、リキュールさんにあなたと私といったところでしょうか」
「まずはジスレーヌさんに話をして、それから子爵に持ち掛けましょう」
 日中のハオマ亭の隅のテーブルで、店が空いているのをいいことにリュネ達は長いこと話し合いを続けたのだった。

●新しい一歩
 どんなに雪で街が埋まろうとも、子供達は元気だった。
 久しぶりに並んで街を歩くユリアス・ローレンカサンドラ・ハルベルトは、通りのあちこちを飾る雪だるまに目を留めた。
 大小さまざまな雪だるまは、見ていて楽しい。
「僕達も雪遊びをしませんか?」
 ユリアスの誘いにカサンドラも頷き、二人はちょうど近くまで来た広場で遊んでいくことにした。
 広場にもたくさんの雪だるまや雪ウサギがあった。
 ユリアスは手先が器用なのか、手のひらに乗るくらいの大きさのかわいらしい雪ウサギを作ってみせた。
「ユリアス君、上手……!」
 カサンドラが覗き込み、微笑みながら指先でチョンと雪ウサギを突く。
「カサンドラさん、僕は医者になりたいと思っています」
 ユリアスは手のひらの雪ウサギを見つめたまま、静かに言った。
「町医者のところで手伝いをしながら、医術を学んでいます」
 カサンドラはユリアスの話に耳を傾けた。
「今僕が生きていられるのは、あの時、助けてくれた人がいたからです。僕も、両親や彼のように多くの命を救えるようになりたい」
 ユリアスを助けた人物は、もういない。
 マテオ民の彼のことを、カサンドラも知っている。訃報を聞いた時はとても大きな衝撃を受け、悲しんだ。
「カサンドラさんは、何か夢はありますか?」
 そう言って、ユリアスは視線をカサンドラに向けた。
「夢……。私には……まだない、の。もやもやとしていて……まだ、何も。でも、誰かの役に立てるような……誰かを笑顔にできるような……そういう人に、なりたいと、思ってる」
 カサンドラも今の自分があるのは、たくさんの人に助けられたからだとわかっている。
 そうやって繋いでくれた命を、何かの役に立てたい。
 たくさん勉強して、いろんなものに触れてみなさいと、かつての家庭教師は言っていた。
 その言葉通りに、カサンドラはいろいろなことに積極的に触れていっている。
 悪夢との戦いだけだった過去から解放された世界は、眩しいくらいに鮮やかだった。
 そんな彼女の変化を、ユリアスは微笑んで受け入れた。
 カサンドラだけではない。
 ユリアス自身も夢を目指して日々変化している。
 そして、街も、世界も。
 けれど、変わらないものがあることをユリアスは知っていた。
「僕もあなたも、これから変わっていくことでしょう。でも、僕がカサンドラさんを大好きだという気持ちは変わりません」
 カサンドラは、ハッとユリアスを見つめる。
 ユリアスは雪ウサギを置いて続けた。
「以前僕が告白した時、カサンドラさんは好きがわからないと言っていましたが、今でもわからないままですか?」
 カサンドラの瞳が揺れる。
 それから、パッと視線をそらして俯いてしまった。
 けれど何かを言おうとしている様子に気づき、ユリアスは言葉を待った。
「私、ずっと考えてた……ユリアス君の、言葉の意味」
 ユリアスを前にした時の感情と、他の人達を前にした時の感情の違い。
 それは物語で表現されるような、激しさも大きさもなかった。
 ただ静かに胸の中に満ちていた。
「ユリアス君といると、ちょっと……違うの。もっと、一緒にいたくて……でも、近すぎると、息ができなくなりそうで……。ユリアス君のこと、好きなのに……私、こんなんで、いいのかな……」
 それを聞いたとたん、ユリアスは思うより先にカサンドラを抱きしめていた。
 嬉しくて、涙が出そうだった。
 ずっと、こうしたかった。
 愛しい人のぬくもりを感じたかった。
「春になったら、また一緒に花を育てましょう。……あれ、カサンドラさん?」
 カサンドラはユリアスの腕の中で、真っ赤になって目を回す寸前になっていた。
 ――これからも、二人で一緒に笑い合える未来を願って。

カサンドラ・ハルベルト ユリアス・ローレン 担当:柊 みこ
カサンドラ・ハルベルト ユリアス・ローレン 担当:柊 みこ

 

●帝国魔力研究室
 生き残った人々の大半が魔力を持たない人間となったため、魔法や魔法具の研究開発に携わる者が激減した。
「五年、いや三年で一門の魔力研究家として独立してご覧に入れます」
 そんな中、研究に携わり始めた人物が1人。
 貴族のマシュー・ラムズギルは、一時は婚約をした仲であるリッカ・シリンダーの紹介で、彼女が所属する研究室の一員となっていた。
「随分と自信があるのですね。かなり意欲もあるようですけれど、3年の間に心変わりされるのでは」
 向かいの席に座り、リッカはマシューの質問に答えていた。
「こうしていると学生の頃に戻ったようで毎日が刺激的で充実しています。やはりこの道を選んだことは間違いではなかったと思っています」
 魔力について学び始めたばかりのマシューは、比較的簡単な文献から読み始めている。
 比較的簡単といっても、ここにあるのは子供向けではない。分からないことばかりだった。
 リッカには毎日時間をとってもらい、質問と共に見解や意見も述べていて、熱意は伝わっているようだった。
 ただ、マシューの熱意は研究に対してだけではなく、リッカに対しての熱意も増す一方だった。
 彼女は多少の冷たい印象を放っていたけれど、それは以前ほどではなく、穏やかな表情を見せるようにもなっていた。
 本来は自分の気持ちを素直に表すことが出来る女性だと知り、マシューは以前よりもさらに、彼女に惹かれてしまっており、彼女の側でこうして研究の話をすることに、無上の喜びを感じていた。
「私は魔力研究家としてこの上なく幸運なスタートを切ったと言えます。なぜなら貴女のような優秀な研究家を教師として独り占めできるのですから」
「そういったご発言はおやめください。余計な感情は研究の妨げになります」
 甘い言葉を吐いたわけでもないのに、リッカは軽く動揺したようだった。
 好意を向けられていることに慣れていない彼女のそんな反応は、可愛くもあった。
「魔力塔の研究室はもうすぐ閉鎖されるのですよね? 貴重な資料や文献が散逸してしまうことのないよう、私が私費を投じて保全作業を行います」
「あなたに干渉できる分野ではありませんよ」
「関わることができないこともあるでしょう。ですが、私費を投じることは自由。それで得るものもあるでしょう、独立に繋げます。……それに、あまりお待たせしてしまうのもよくありませんからね」
 不思議そうな顔をするリッカに、マシューは微笑みかける。
「もちろん『花嫁』をですよ」
「……意味がわかりません。さあ、続きを」
 リッカはマシューに質問の続きをするよう促すが、直ぐにこう続けた。
「あの……日中は私も自分の研究がありますので。ご質問はまとめておいて、夜にでもいただけたら助かります」
 仕事が終わった後のプライベートな時間に誘ってほしい……という意味だとマシューは感じ取った。
「それでは、夕食はご馳走させてください」
 笑顔の彼のその言葉にリッカは頷いた。
 気のせいだろうか。冷たい印象の彼女の顔が、薄らと赤くなっている。

●アトラ・ハシス島の日常
 ブレイブ号がアトラ・ハシス島に到着をして数日後。
 島に戻ってすぐ、ヴィーダ・ナ・パリドは村の人々への説明に回り、夫のセゥは海辺に住む人々を安全な場所へと誘導していった。
 水の恐怖におびえる人々から説明を求められ、非難もされ、2人は疲れ果てていた。
 大洪水は起きない。
 儀式のときのように、天候が荒れることもない。
 水位が大洪水直後くらいまで戻っていくだけだと。
「不安なのも分かるから手は抜けないよな」
 繰り返し繰り返し話し、皆を安心させようとしている。
 その日はとても静かな朝だった。
 空は雲に覆われていたけれど、雨も雪も降ってはいない。
セゥ、出かけないか」
 朝食後にヴィーダはそう言って、セゥを誘いだした。
「お2人さん、今日はデートかい?」
 外に出た途端、村人がそう声かけてきた。
「ただの散歩だ」
 咄嗟にヴィーダはそう返す。
「……デートじゃないのか?」
 セゥにそう問われ、ヴィーダは少し赤くなった。
「散歩!」
 言い張り、彼女は歩き出す。
 ヴィーダ達が暮らす集落は、さほど雪は積もらない。
 土肌の見える道を慎重に歩きながら、村の様子を見ていく。
「バタバタしてて、無事に戻れたことを喜ぶ時間もなかったけど……。変わってないな」
 故郷の姿に、ほっと安心感を覚える。
 2人は湖を見渡せる高台へとゆっくりと歩いていく。
「にしても、なんで剣なんだ?」
 歩きながらセゥがヴィーダに尋ねた。
 戻ってから彼女は、剣の腕を上げたいとよく呟いているのだ。
「魔力が無くなったからさ。また何かあった時に戦えるようにな」
「荒事は俺に任せろ。その体で……」
「分かってるって。俺もそこまでバカじゃないから、この体で剣術の稽古なんてしない」
 ヴィーダはセゥとの子を身ごもっている。
「何もないのが一番だが、出来ることは一つでも多い方がいい。守りたいものが増えるしな」
 そっと、ヴィーダは自分のお腹に触れた。
「それまでの間はセゥに守ってもらうけど」
 少し心配そうな顔で、セゥは首を縦に振った。

 高台で丸太に腰かけて、湖を眺めながら2人はのんびり話をしていた。
「今思っても、俺がセゥの名前付けたのって、2人してボコられて、とっ捕まってる時だったなんてすごいよな」
 当時の事を想い出し、2人の顔に苦笑が浮かぶ。
「でも、我ながらいい名前だと思ってるぜ」
 ヴィーダの言葉に、セゥは感謝の気持ちで頷く。
「だから、今度はセゥに名付けて貰いたいんだよ。まぁ、産まれるまで時間はたっぷりあるから、色々悩めよ」
 わかったと返事をしながらも、難しい顔で悩んでいるセゥに、ヴィーダは悪戯っぽい笑みを向けた。
「それじゃ、そろそろ戻るか」
 立ち上がったヴィーダだが、突如、彼女の足が地を離れた。
 彼女は強い力、逞しい腕に抱き上げられていた。
セゥ……」
「なんだ?」
 ヴィーダを家まで運んでいこうとするセゥを、ヴィーダは顔を赤らめながら睨む。
「あのな、こういうの恥ずかしいんだからな」
「そうなのか」
 平静とセゥはそう返すが、少し目が笑っている。
 ヴィーダの反応を楽しんでいる……ようだ。
「心配なんだ。突然、突っ走りそうで」
 ヴィーダを見つめるセゥの目は、彼女への労わりと愛情で満ちていた。
「……でも、まぁ……労ってくれるのは、その……嬉しい、からな」
 ヴィーダは赤くなりながら、セゥの首に腕を回した。
「……いつもありがとう」
「こっちこそ、ありがとう」
 セゥはヴィーダの頬に軽く口付けをした。
 そしてなだらかな道をゆっくりと下りて、2人は村に戻っていった。

ヴィーダ・ナ・パリド セゥ 担当:クロサエ
ヴィーダ・ナ・パリド セゥ 担当:クロサエ

 

●山の一族の住処にて
 山の一族が暮らす集落は、アトラ・ハシス島の高い山にあり、かなりの雪が積もっていた。
 毎朝の雪かき。そして大雪の中、暖をとるための薪や食料探し……そんな生活が始まっていた。
「大丈夫か? 皇后様にこれからの生活耐えられるんですかい?」
 到着して何日目かの朝、ウィリアムは共に暮らすアーリー・オサードに冗談を言い、笑いかけた。
「なんてことないわよ。海底の洞窟で暮らしていた頃に比べれば」
 そういえば、そんな時もあったなと、ウィリアムとアーリーは顔を合わせて笑った。
「で、名前どうする? 暫くは偽名使ってた方がいいと思うんだが」
「これ以上名前はいらないのよね……アニサじゃダメかしら」
 それは彼女が港町の住民だった頃に名乗っていた名だ。
「俺はどうするかな……あとは、仕事か。俺はまぁ、力仕事や出来ることは何でもやってみようと思うが、どうする? アーリーは雑貨屋でもやるか? 教師とかも向いてる気がするが、子供好きだろ」
 生きていくために、ここで自分に何が出来るだろう。
「字くらいは、教えること出来るかしら……識字率高くなさそうだし。ここの人達にここでの生活の仕方を教えてもらい、私に出来ることをしながら、しばらくお世話になるしかないわね」
 10年以内には、人が暮らせる島が世界に多く現れていくだろう。
 その1つに、ウィリアムと移り住みたいとアーリーは思っていた。
「俺も文字、習いたい」
 ストリートチルドレンだったウィリアムは、簡単な文字を読むことは出来るが、書くことはほぼ出来ない。
「なんで?」
「記録しときたいんだ」
 リーザから届いた思念、彼女の過去。マテオ・テーペでの出来事や、レイザや、リッシュの事、自分が知っていることを記録に残したいのだと。
「リーザ達だけが悪いのではなく、見て見ぬふりをしてきた、俺らにも責任がある事も纏めたい。もちろん今回犠牲になった、あのマリオのおっさんについてもだ。もっといい方法があったかもしれんと、そこもな」
「……」
「山の儀式では犠牲者が出なかった事もあったらしいし、マテオでの儀式も、燃える島でももっと違う結末があったかもしれんと思うとな」
 ウィリアムの言葉を、アーリーは複雑そうな顔で聞いていた。
「見向きもされないと思うが、もし誰かの為になるならいいなってぐらいさ」
「ただ、大きな問題があるわ」
「なんだ?」
「ここの筆記具の筆、ものすごく書き難いわよ」
 そう、ここの原住民達も大陸とほぼ同じ文字を用いている。だが、筆記具は動物の毛で作られた筆のみ。
「で、これは大陸でも同じだけど、保存状態次第とはいえ、紙もインクはそう長持ちしないのよ」
「……となると、アレか。聖女の方法」
「石板に刻んで、風の儀式の場にでも置いてもらうとかね」
 大変な作業になりそうだなと思いながらも、自分はアーリーと共に多分それをするだろうと、ウィリアムは思う。
「まぁ、目の前の生活からだけどな。魔石盗んじまったし、帝国に見つかるのも大変だろうしな、偽名どうするかね。アーリーは化粧で印象がらっと変えられるんだよな。俺は髪も切ってみるか。雰囲気変えてみるか」
「切らせて。丸刈りでどう?」
「それは勘弁! 風邪引くだろ」
 言って、笑い合う。
「それに、山の一族も面白そうじゃないか、仲良くなったり文化や風習を調べ解けば、こっちでも失敗はしないし」
「そうね。結構楽しく暮らせるんじゃないかしら」
「最悪ロスとエルザナの助けにもなって、言い訳できるかもしれんだろ。魔石を借りてみればいいだろって言わせて、協力させた方がいいんだろうしな」
 アーリーは穏やかな顔でこう言う。
「当分の間、火の魔石の行方は不明のままがいい。でもそれも全て、レイニさんに委ねたのだけれど。多分、本気なら上手くやってくれる」
 アーリーの言葉の意味はウィリアムにはよく分からなかったが……。彼女はとてもひねくれている。サーナ・シフレアンを拉致すると言っていたアーリーだけれど、真意は彼女を救いたいという理由からだった。
 魔石を持ってきた真意も、言葉以上の何かがあるのかもしれない。
(アーリーなりの方法で、マテオを護ろうとしたのかもしれんな)
 しばらく考えて、そんな風にウィリアムは思った。
 世界を早く安定させるためには、そして、20年ごとに必要となる吹き溜まりの調整には、魔石が必要だ。
 低地であり、深い海の底に沈んだマテオを土地ごと救出するには、水を引かせる以外に――大地を切り離したり、隆起したりする方法があるかもしれない。
 それを成す為には、魔力が届く場所に、マテオに王が行かねばならない。
(けど、帝国があの状態じゃ、王がマテオを優先するようなこと出来るはずないしな)
 マテオに行かなければならない理由をつくった、とか。あの地には、聖石……そして、水の継承者の魔石も届けられた。火の継承者の魔石を失った帝国は、水の継承者の魔石を沈ませるわけにはいかない、だろうし……。
 アーリーはマテオに思い入れはないようだけれど、魔石となったレイザはマテオの人々を守りたいはずで、彼女は彼の願いを叶えたいと思っている、はず。
 などと考えながらアーリーをじっと見ていると「なによ」と、アーリーはちょっと赤くなった。
「まあ、私達結構歓迎されているし、ここでの生活はなんとかなるわよ。それより、誰の監視もない部屋で、こうしていられる時間が増えたんだから……もっと、その……2人で楽しめること、したいと……思わない?」
「2人で楽しめることって何だ?」
「……バカっ」
 アーリーの蹴りがウィリアムの足に飛んできた。
 なんだかよく分からないが、機嫌を少し損ねてしまったようだ。

●幸せを噛みしめよう!
 朝食を食べた後。
 ロスティン・システィックは、妻のエルザナ・システィックと一緒に、ゆったりソファーに腰かけて、お茶を飲んでいた。
 エルザナの体調はまだ万全ではないけれど、概ね普通に日常生活を送れるようになっていた。
「さて、これからどうしようかな。街の復興とかもどう進むか見て回らないとね、うん。貴族として市政の状況をしっかり把握しないといけないから」
「ロスティンさん、なんだか目が泳いでいます……」
「え? そんなことないぞ。絶対あの資料の山とかどうすりゃいいの案件見たくないわけではないのだからね!」
 などと言う彼の背後にあるデスクには、書類が山積みになっている。
「ロスティンさん……」
 エルザナの憐れむような声。
「マジでどうしよう……」
 両手で顔を覆い、ソファーの前のローテーブルに肘をつくロスティン。
「リモスにいるマテオやアトラの方々とは連絡をとったのですか?」
「まだ。あっちはあっちで大変そうだし」
「……」
 何も進んでいないようだった。
「いやまあ、つってもいくつかは間違いもあるしなぁ」
 ため息をつきながら、ロスティンは顔を上げた。
「火の魔石はまあ、ウィルがほとぼりが冷めた頃には連絡でも寄越すだろうから、大雑把な位置確認で、いつかは探すとかか?」
「フフフ……それで、私達が納得するとでも?」
「うっ……ぐさっ……」
 胸を押さえるロスティン。エルザナは笑顔だった。
「水の方は……こっちはなぁ、土地食料の話と交換条件で共同管理させてくれから始める?」
「魔石は王のもの! 王の遣いである継承者の一族のものよ。一族の多くは、帝国にいるのだから、帝国のものだもの、交換条件を出すのは変です」
「あ、いや……うーんと」
 エルザナは完全に帝国視点であり、両方の視点で見ようとしているロスティンとはなかなか意見が一致しない。
「そうだな……公国の上の方とか、ウォテュラ王国の姫様と話し合いになるのか?」
「サーナさんがいいんじゃない? マテオとも連絡とれますし」
「そうか!」
 エルザナの言葉に、ロスティンはポンッと手を打った。
 水の継承者の一族の力を持ったまま、サーナ・シフレアンはこの宮殿にいる。
 一族の力で、マテオとも定期的に連絡をとれているはずだった。
(継承者の一族のもの、というのなら、次世代の水の継承者の一族のトップは彼女だろうし、帝国も彼女の考えを無碍にはできないんじゃないか……?)
「うん、どちらにしても1人じゃ無理だね。まあ、いざとなれば、故郷の親父や兄貴たちに迷惑かける!」
 ロスティンの実家、マイカン家はマテオの中にあり、多分、父も兄も生きている。
「ご家族ですか……」
 エルザナはマテオでは領主の館のメイドという立場だった。
 ロスティンは貴族であり、両親はエルザナとの結婚には反対だった。認めてもらう前にロスティンはエルザナと結ばれた。
「どうせ今まで迷惑かけてたし、これから増えても大したことは……ない、よな」
 また父親と兄の冷たい視線が突き刺さるのかぁとロスティンは父たちの姿、浴びてきた視線を思い浮かべて、ため息ひとつ。
「あとは何だかんだと濁しながらすすめるしかないなぁ」
「時間がかかりそうですね」
「まあ、その辺は今後数年で詰めるとして、とりあえずはエルザナちゃんの体調回復だね」
 にっこり、ロスティンはエルザナに微笑みかけると、エルザナも笑みを見せて頷いた。
「もう殆ど大丈夫ですよ。……お姉様も私の中にいませんし……」
 何かを求めるような目で、エルザナがロスティンを見つめる。
「うん、でも無理は厳禁」
 言ってロスティンはエルザナを抱き寄せて、額にキスをした。
「システィック家としての今後も考えていこうな。子どもは何人がいいかなー」
「2人、かなぁ……。なんだかすごく不思議な気持ちです。自分の家族を持つ未来が、現実になりそう、なんて……」
「うん、折角手に入れた幸せだから、しっかり噛みしめていこう」
 ロスティンとエルザナは優しく抱き締めあって、喜びを感じ合った。

ロスティン・システィック エルザナ・システィック 担当:柊 みこ
ロスティン・システィック エルザナ・システィック 担当:柊 みこ

 

●皇女の家庭教師
 皇帝が世界を統べる王となり、人々の大半が魔力を還し、人間になって少しの時がながれた。
 マーガレット・ヘイルシャムは友人のサーナ・シフレアンと積もる話をしたり、回顧録の執筆をしながら過ごしていた。
 ちなみにマーガレットも人間になった。
 サーナや親しくなったビル・サマランチは一族になったのだが、魔法の才能もなく、病弱でいつまで生きられるか分からない自分が、一族となっても出来ることはなさそうだと思ってのことだ。
「なんだか動き難くて慣れないです……」
 その日、マーガレットは応接室でビルと会っていた。
 ビルは可愛らしいドレス姿を着ていて、髪や胸は装飾品で飾られており、身分の高さがうかがえる。
 そして常に護衛がついており、今も入口に男性の騎士が1人控えていた。
「ビルさんは、次期皇帝候補ですからね」
 マーガレットがそう言うと、ビルは複雑そうな顔をした。
「お忙しいところ、すみません」
「いえ、呼んでいただけて嬉しいです。エルザナさんの体調が回復したら、護衛などもエルザナさんにしていただきたいと思ってるんです……」
「そうですね。気の置けない方に担当してもらえるといいですね」
 ビルはこくりと頷いた。
「気晴らしになるような用件ではなくて申し訳ないのですが」
 マーガレットは書き途中の回顧録の原稿をビルの前に広げた。
「内容に問題がないかどうか、確認をお願いしたいのです」
 帝国の描写。特に儀式絡みに関しては、エルザナに確認をしてもらおうと思っていたのだが、彼女は仕事にまだ復帰しておらず、夫であるロスティンも外交を担当することになったということで、連日2人で部屋に籠ってなにやら相談をしており、忙しそうで頼みにくかった。
(魔石の問題やマテオの方々との交渉は、私も協力すべきですよね)
 サーナとの繋ぎ役にもなれるだろう。
 エルザナがもう少し回復したら、声をかけてみようとマーガレットは思う。
「……このようなことが……」
 ビルは真剣な表情で、回顧録に目を通していた。
「悪意は感じられませんし、事実が語られているのでしょうから、このまま続けていただけたらと思います。ただ、一般の方々も読まれるものは、もう少し帝国の国民に寄り添ったものにしていただけないと、何かの際責任を問われる可能性があるかと思います」
「わかりました。一先ず、このまま続けさせていただきますね」
「お願いします」
 ビルは回顧録をマーガレットに返して、ティーカップをとった。
 マーガレットも、ティーカップを自分の口に運び、温かく優しい味のお茶を飲み、ほっと息をついた。
「実は今日は別のお話しもありまして」
 そして、切り出す。
 こうして執筆をしている間、マーガレットは無収入となる。
 公国で貴族の娘として生きていた頃と違い、生活を支える財産などはなく、働かなければ生活を維持できない。
 食が細いとはいえ、霞を食べて生きているわけではないのだ。
 何か生活の糧となる手段が必要、とのことで。
「執筆に専念している間、生活を支えるための仕事をしたいと思っているのですが、ビルさん」
 和やかにマーガレットはビルに微笑みかける。
「これは提案なのですが、優秀な家庭教師を雇われるおつもりはありません?」
 マーガレットの提案に、ビルは「え?」というような表情になった。
「書類の整理や、作成などといった作業のお手伝いもできますが、どうせなら人に知識を教える方が楽しいですから。私、ここの蔵書並には幅広い知識を持っておりますわ」
「お勉強を教えてくださる方はいるのですが……」
「私は帝国のものだけではなく、外国の知識も豊富に持っております。ご一考いただければ幸いですわ」
「それ、素敵なご提案だと思います」
 やや沈んでいたビルの目が、輝きだした。
「学問を教えてくださる先生方は、固い考えをお持ちの年配の男性の方ばかりで……お勉強ももっと楽しくできたらいいなと思っていました」
 そして控えている騎士には聞こえないように、小さな声でビルはこう続けた。
「愚痴とか、内緒のお話しも聞いてほしいです。あと、お洒落の話とか、恋のお話しとか」
 ビルの言葉に、マーガレットは喜んでと頷くのだった。
 そしてその後は、男性騎士に聞かれても問題のない範囲の当たり障りない雑談を楽しんだのだった。

●あなたと一緒に
 氷の大地に向かった箱船が帰ってきた頃には、リモス村の状態は随分と回復していた。
 本土はまだ深い雪に覆われていたけれど、リモス村に雪が降ることは少なくなり、もうすぐ作物が育ちやすい季節が訪れる。
 帝国とアトラ・ハシス島との交易再開にはまだ時間がかかるだろうから……。
 セルジオ・ラーゲルレーヴは、リモス村で人々が暮らせるようになった頃、広場で恋人のミコナ・ケイジと共に、弁当の提供を始めていた。
 各個人で食料を調理するよりも、一つにまとめて沢山作った方が効率がいいのではないかという考えのもと、ゆくゆくは食堂の経営ができればと考えている。
 ただセルジオはこの村の住民ではなく、また食堂の建設を提案できるまでの状態には至っていないことから、当座、調理は停泊中のアルザラ1号の中で行うことにした。
 天気の良い日は、こうして広場に弁当を運んで人々に提供していく。
 温かいものを提供するために、スープだけは鍋を用意し、ここで作っていた。
 広場にはテントと椅子も設置しており、食べていくこともできる。
 天気の悪い日も、アルザラ1号の食堂で2人は弁当を配っていた。
「芋と交換で、弁当2つもらえるかな?」
「はい、大丈夫です。こんなにたくさん、ありがとうございます」
 ミコナは沢山の芋を貰い、弁当を2つ渡した。
 訪れる客たちは大半、お金を持っていない。
 そのため、物々交換となることが多かった。
「ありがとう! あのさ、宅配のサービスなんかもやってない? 仕事終わってから持ってきてほしいんだけど」
 受けとったままミコナの手を握り、放そうとしない男性客……。
「すみませんが、健康な方への宅配は行っていません」
 背後から声がかけられ、男性はビクッと驚き、ミコナの手を放すとばつが悪そうな顔で去っていった。
「ミコナさん、大丈夫ですか?」
 声の主は、アルザラ1号に追加の弁当を取りにもどっていたセルジオだった。
「はい。先ほどの方、体調のすぐれないご家族の方でもいるのでしょうか……」
「そういう理由での宅配希望ではないですよ」
 明らかにあの男性の目当てはミコナだった。実際に手を出そうとしたかどうかはともかくとして。
 頻繁に会って……もしくは毎日のように彼女を見てきたから、時々忘れてしまうけれど、ミコナは清楚な魅力を感じる女性へと、成長をしていた。
 人を信じやすく、利用されやすい娘であることに変わりはなく、こういった囚人が暮らす場所では、少しの間でも1人にしておくことは危ないのだと、セルジオは感じた。
 そう、囚人も男性が多いが、マテオの民もアトラ島の難民村と真逆で、女性が少なく男性が多いため、ミコナのような健気な女性は誘惑されやすい。
 離れている時でも、彼女に自分のものだという印を常につけておきたいとも、セルジオは思う。

 今日の分の提供を終えた後。
 2人はアルザラ1号に戻り、片付けと、明日の分の下ごしらえをして。
 それから甲板に出て、肩を並べて海を見ながら、語り合う。
「得意なことがなくなったっていっていましたけれど、そんなことはないですよ」
 その日は夜も晴れていた。星が美しく煌めいている。
「料理もそうですが、アトラからこの帝国に一緒に来てくれて、ここで色んな行動をしてくれて、僕の心の支えになってくれましたから」
「それなら、良かったです。セルジオさんも……一族になったりせず、こうして一緒に生きていけること、とても嬉しいです」
 自分がこうして頑張れて、活かしてくれるのは、いつも彼なんだと、ミコナは感じていた。だけれど、彼に自分は依存してはいないか、とも。妨げになっていないか、重荷になってはいないか、とも。
 だから、セルジオがそう言ってくれて、素直に本当に嬉しかった。
 自分を見つめるミコナを、セルジオは見つめ返す。
 ここに来てからの今までの過酷な状況では言えなかった、けれど……。
「僕が先に死んで貴女を置いていくことがなくなったこの世界でなら。
 僕は貴女と一緒に生きていきたいとようやく求婚出来ます」
 彼の言葉に、ミコナの目が見開かれた。
「僕と、結婚してください」
 そして、ミコナの目にじわりと涙が浮かんでいく。
「はい」
 答えたあと、ミコナはセルジオに飛びついた。
「好きです。ずっと、ずっと側にいたいです」
「すっと側にいてください」
 セルジオはミコナを、強く抱きしめた。
 魔法が使えなくても、魔力に頼らなくても、人としての幸せは得られるんだ――2人一緒なら。


★担当
冷泉みのり
タチヤナ・アイヒマン
エンリケ・エストラーダ
リュネ・モル
ルティア・ダズンフラワー
ヴォルク・ガムザトハノフ
アルファルド
タウラス・ルワール
マティアス・リングホルム
ジン・ゲッショウ
クラムジー・カープ
バルバロ
キージェ・イングラム
マルティア・ランツ
リキュール・ラミル
リィンフィア・ラストール
アウロラ・メルクリアス
コタロウ・サンフィールド
ユリアス・ローレン

川岸満里亜
マシュー・ラムズギル
カーレ・ペロナ
ヴィーダ・ナ・パリド
ナイト・ゲイル
コルネリア・クレメンティ
アレクセイ・アイヒマン
ウィリアム
ロスティン・システィック
マーガレット・ヘイルシャム
セルジオ・ラーゲルレーヴ
リンダ・キューブリック

●連絡事項
リンダ・キューブリックさん
お腹の中に宿った?魂の父親ですが、エクトルとする場合、彼は性格と立場上お手付きとかは絶対にしないので、航海中に本当に婚約に至ったという形になります。
結果結婚に至っても至らなくてもいいですが、内緒で出産したり、結婚せず子どもの親権を得ることはできないです。子どもは魔力を持って生まれ、エクトルの長子としてアジャーニ家で育てられます。

コルネリア・クレメンティさん
コルネリアさんは最終回後に精霊に転生しています。
その後、人間として生まれ変わったとしていただいても構わないのですが、リンダさんの子となる場合、且つ父親がエクトルだった場合は、魔力を持って生まれ、アジャーニ家の子として育てられ、自由恋愛など出来ない立場となります。
将来的に世界はまた魔力を持った人間で満ちるのだとは思うのですが、暫くの間は魔力を持った者の子孫はきちんと管理されます。

ロスティン・システィック(マイカン)さん
今回からお名前をロスティン・システィックとさせていただきました。
PC名簿の名前も直させていただきます。
今後のシナリオでは、ロスティン・システィックでご参加ください。
(間違えても大丈夫です!)

ヴィーダ・ナ・パリドさん
お子さんのお名前は、運営チームの方で検討させていただければと思うのですが、苗字はどうしましょう?
湖の部族の一員として、ナ・パリドとして良いでしょうか? その場合セゥにも苗字をつけさせていただきたく思います。

アレクセイ・アイヒマンさん
チェリアもアレクセイさんと結婚したいと思っていますが、嫁にはいけないようです。
アレクセイさんが結ばれる決心をした場合、ハルベルト家に婿入りしていただく形になります。
また彼女はこれからも、むしろこれまで以上に、騎士として活発に活動していくと思われます。
仕事も家庭もアレクセイさんと一緒という形にはならないのですが、認めて頂けた場合、伴侶になっていただけたら嬉しいです。
尚、チェリアは継承者の一族となりましたので、子どもは魔力を持って生まれ、一族の能力があるかないかに関わらず、一族として生きることになります。

●マスターより
【川岸満里亜】
最後の日常シナリオにご参加いただき、ありがとうございました。
他にもなにかありましたら、ノベルの方で描かせてください!
実はキャラクター同士のお話で、知りたいこと読みたい話がいくつもあります。
拝見できる機会があるといいなと切に思います。プラリアとか書きませんか!?
シナリオにつきはしては残すところあと僅かとなりましたが、最後まで皆様のお話を共に楽しませていただきたく思います。
どうぞよろしくお願いいたします。

 

・イラスト公開後追記

文には文の良さがあると思いますが、いくら言葉を並べても見た途端に受けるこの感動を私の表現力では与えることできないなーって毎度思います。

大変素晴らしいイラストを描いてくださったイラストレーターの皆様、ご依頼いただきました皆様、本当にありがとうございました。

こっそりどなたかのイラストをスマホの壁紙にーっ。

 

【冷泉みのり】
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

シナリオにご参加してくださり、ありがとうございました。
グレアムについてですが。
『ココロの世界』の結果、過去の一部の記憶を失くしています。
また、未来に対しては、記憶を失くしたことや街の人達への罪悪感から、その償いをするまでは他のことはあまり考えられない状態になっています。
今回、失くした記憶を思い出しかけたりしたことで、今後少しずつ頑なな状態から変わっていくと思われますが、それには長い時間が必要です。
残すシナリオはあと少しですが、もしその中でグレアムに関わってくださるでしたら、このことを踏まえていただけると、ストレス少なくアクションをかけたりリアクションをご覧になったりできるのではと思っています。

それでは、今後のシナリオでまた皆様とお会いできたら嬉しいです!