『出立前夜』

 深夜。
 ふと目を覚ましたレイニ・ルワールは部屋を抜け出して、アルザラ1号の甲板に出ていた。
 冷たい夜風を受けながら、船の上から夜の海を眺めていた。
「火の……継承者の一族……リッシュ、が? ……ほんとに? なんで……」
 帝国からは何も聞かされていなかった。先日、旦那から聞いて判ってきたこと。
「ねえ、あなたは何か知っていたの? 私たちの娘を守るにはどうしたらいい……」
 思い浮かべている相手は、娘、リッシュ・アルザラの父、ジェイド・アルザラ。かつて深く愛した人。
 もしかしたら、彼は――。

 殺されたのかもしれない。

「違う、事故だった」
 頭に爪を立てて、両手で抱える。
 アトラ・ハシス島の村のこと、家族のこと、故郷の人々のこと、帝国との駆け引き――抱えていることが多すぎて、気が狂ってしまいそうだった。
「リッシュ、どこにいるの、リッシュ……戻ってきなさい。……戻ってきて……」
 今の大切な旦那の側で亡くした元旦那のことを、彼との子のことばかり想ってしまうことに、強い罪悪感を感じていた。
 それでも、どうしても求めてしまう。ずっと側にいた娘のことを。
 悪い仲間と逃亡しただけのほうがまだよかった。何が何でも連れ戻すつもりだった。
 だけれど――何か、想像もできない事態に、彼女は陥っているのかもしれない。
「……っ……しっかりろ、レイニ・アルザラ。レイニ・ルワール!」
 拳を手すりに叩きつける。
 自分には、命を賭して守るべきものがある。


 挙式とかどうしようか? と彼が言っていたことが凄く嬉しくて、エルザナ・システィックは腹違いの兄、ランガス・ドムドールに出来るだけ早いうちに結婚したいと話しにいった。
 それから部屋に戻って、鏡の前でメイクの練習を始める。
「髪型はどうしようかな。髪飾りくらい買おうかな」
 あまりお金はかけられないので、メイクも自分で行って、衣装も全部借りるのだけれど……。
 お金が貯まるまで、待ってはいられない事情があった。
「彼をこの国の貴族に……」
 近い未来、自分がいなくなったとしても、大好きな人がこの国で生きていけるように。
 皇帝に、彼と友人達のことを頼んであった。

 残された時間を、悔いなく過ごしたかった。
 幸せな時間を思い切り楽しみたいと思っていた。


 ガーディアン・スヴェルに近いところの住宅に、サマランチ家がある。
 深夜、子供達が寝静まった頃、マリオ・サマランチは寝室で酒を飲みながら小さな肖像画を見つめていた。
「──」
 声にならないくらいの大きさで呟かれた、亡き妻の名前。
「みんな、いい子に育っているよ……。それなのに……私は、ダメな父親だ」
 そこには、Gスヴェルの管理人として団員達に接している大らかさはなかった。
 打ちひしがれ、後悔と苦悩にまみれた哀れな人間の一人だった。
「せめて、子供達のことは守ってやってくれるかい……?」
 マリオはかなり深酒してから、沈むように眠りについた。


『出立前夜』参加案内

■スケジュール
2020月2月16日 オープニング・参加案内公開
2020年2月17日 アクション受付け開始
2020年2月24日(23時59分59秒) アクション受付け締切
(フォームからの投稿は念のため翌朝9時まで行えるように設定してあります)
リアクション公開日は参加者の人数により変動。
最長、人数×2日程度。

■参加方法
公式ショップでチケット(1500円)を購入していただき、こちらのフォームからアクション(600文字まで)をご投稿ください。
NPCと接触される方も、今回は追加料金不要です。ただし、重要シナリオ以外のシナリオにつきましては、1PC辺りの描写量に制限を設けております。そのため、複数のNPCに絡んだり、多くの反応を要するアクションをいただきますと、アクションが採用しきれなかったり、PCの描写が減ってしまう恐れがあります。

 

■注意事項
こちらのシナリオでは、重要シナリオ第1回直前~第1回中のPCの夜の姿が描かれます。
情報を得ようとしたり、重要シナリオを進展させようとする行動はお控えください。
PCの心情の描写、PC間交流目的でのご参加を推奨いたしますが、重要シナリオに影響を及ぼさないNPCとの交流も可能です(情報交換などはNGです)。

PCの方からお誘い、または会いにけるNPCは、下記リストに名前のあるNPCのうち、イベントシナリオ以外のシナリオで親交のあるNPCに限ります。

メインで描写されるシーンは夜の1シーンのみとなります。
アクション欄には1日の行動を記入されても構いませんが、描写は夜のシーンのみとなります。

カナロ・ペレアではダブルアクションを禁止させていただいております。
他のPCと絡む場合は、ご相談の上、1つの同じことを一緒に行ってください。

※描写不要の参考用のPC間交流については、アクション欄に書いていただいて構わないのですが、それとわかるようにご記入ください!

■登場可能NPC(下記に名前の無いNPCは接触することが出来ません)
カサンドラ・ハルベルト(出発前日まで本土の公爵邸にいます)
シャナ・ア・クー
セゥ
ルルナ・ケイジ
ミコナ・ケイジ
パルミラ・ガランテ
ベルティルデ・バイエル
エルザナ・システィック
バリ・カスタル
ジスレーヌ・メイユール
インガリーサ・ド・ロスチャイルド
フランシス・パルトゥーシュ
ジェルマン・リヴォフ
アーリー・オサード
レイニ・ルワール
レザン・ポーサス
ヘーゼル・クライトマン
マリオ・サマランチ(宮殿にいますが、時々帰宅しています)
エクトル・アジャーニ
皇妃カナリア
騎士団長(元副団長)
燃える島から生還した騎士(生還した名前なしNPCは1人だけです)

■担当者より
川岸満里亜です。
連続となってしまいましたが、今月も日常系シナリオを行なわせていただくことになりました。
ただ、今回のは通常の日常シナリオ――重要シナリオに影響を及ぼさない話限定となります。
季節は後編第1回の辺りなので秋です。

今回は多分冷泉みのりマスターがあまりお受けできないと思うので、リモス、スヴェルの話題等、冷泉マスターではないと描けない話は出来るだけ避けていただけたらとても助かります。
それではどうぞよろしくお願いいたします!

※こちらのシナリオは上記マスター以外のマスター、ライターも執筆を担当する可能性がございます。