『魔力の理』

 魔力には、地、水、風、火の4つの属性がある。
 そしてそれぞれ、優れた能力を持つ一族――継承者の一族が存在していた。
 その者達は特殊な能力を持ち、魔力の暴走から世界を救う使命を持っていた。
 地はアルディナ帝国の皇族、水はウォテュラ王国の王族、風はアトラ・ハシス島の山の一族。
 そして火は……。

■帝国本土、第1回対策会議後
 氷の大地の氷の壁の向こうに、建物や人のような生き物の姿があった。
 グレアム・ハルベルトもその向うから来たようだ。
 箱船からは、ルースの双子の片割れが生きているのではないかという意見が出たそうだ。
 そんな報告を受けてから、ジスレーヌ・メイユールは魔力塔の使用許可を得る為に、宮殿の騎士団本部へと訪れていた。
「あれ? ミーザさん、ミーザさんではないですか? 傭兵騎士になられたのですか」
 見知った顔を見つけて、ジスレーヌは歩み寄った。
 ミーザ・ルマンダ。マテオ・テーペ内にある、メイユール家の館のメイドだった娘だ。
「まだご存じなかったのね。お久しぶりです、お嬢様」
 少し、棘のある言い方だった。
「私の本名はエルザナ・システィック、生粋の帝国人よ。それで何かしら?」
 どういうことだろうと不思議に思いながらも、ジスレーヌは用件を話しだす。
 犠牲を出したくない。生きている全ての人を助けたい。皆で協力し合うために、北と西の魔力塔の使用許可を、ストラテジー・スヴェル(以下Sスヴェル)に出してもらえないかという話だ。
「早いうちから、沢山の人の歪んでない魔力を溜めておくことできませんか? その力を使って歪んだ魔力を正常に戻す事が出来ないか、考えています」
「そうね。Sスヴェルの方で人々に呼びかけてくれるのなら、とても助かるんじゃないかしら。だけど西の魔力塔は別の使い方も考えておいた方がいいんじゃない?」
 西といえば、リモス側の魔力塔だ。
 エルザナの目には少しの優しさもなく、ジスレーヌの身体に緊張が走る。
「ルース姫が水の魔力調整に失敗したり、ホントにルース姫の双子の兄弟が生きていて、水の魔力を更なる暴走へと導いたら。――洪水はまた起きるわよね」
 ジスレーヌは息を飲んだ。
「私達は陛下とともに、この本土を土の壁で守るわ。洪水時は数十年の魔力を溜めた5つの魔力塔の力を用いてこの地を守ったそうよ。でも今は、北と西に約6年分の魔力が溜まっているのみ。魔石の力に頼るしかない。守れるのは本土だけ、リモスは以前同様沈むわね」
「……リモスで暮らしている人達は? マテオ・テーペの人たちの住処は?」
「だからあなたのすべきことは、皆助けたい、ではなくて、ルース姫が確実に水の魔力調整に成功するよう、皆に働きかけることではないの? 自分や仲間の命よりも、彼女が世界を優先するよう仕向けることではないの?」
 ジスレーヌは首を左右に振った。
「私は皆に生き残ってほしいんです。リモスも、マテオの皆も、犠牲を出さずに皆が助かる方法を、一緒に考えませんか?」
 途端、エルザナの目が鋭い光を放つ。
「あなたそれ、火の一族の生き残り――アーリーに言える?」
 低い彼女の声に、ジスレーヌはビクッと震えながら考える。
 アーリーとは、アーリー・オサード。火の魔術師で、マテオ・テーペで犯罪を犯したのだけれど、火山での危険な仕事に協力したことで、恩赦になった人。
 帝国の皇帝に第2妃として求められた、とも聞いていた。彼女にだって、一緒に皆が助かる方法を考えようと、言いたい、けれど……。
「言えてしまうのね。どうせ魔石のことも、便利な道具としか思ってないでしょう」
 ジスレーヌはエルザナが敵意を感じる眼で自分を見ていることが、不思議だった。理由がわからなかった。
「もし、強盗の襲撃で、家族や使用人が散々嬲られた後殺されたとして。唯一生き残ったあなたのもとに、何も知らず幸せに育った犯人の家族が表れて『私の家族を守るために貴方が持ってる貴方の家族の血肉で作った道具貸して! みんなで力を合わせて、平和な世の中作りましょう!』って、手を差し出されたらどう思う?」
「言っていることの意味が……わかりません」
「そんなに昔のことじゃないのよ、あなたの祖先たちに火の継承者の一族が、滅ぼされたのは」
「!?」
「この大洪水の原因である実験の主導者も、そう遠くないあなたの親戚かもしれないわね」
 ジスレーヌの祖先は、ウォテュラ王国の高位の貴族だ。違う、とは言い切れない。
「あなたにこれ以上説明する気にはなれないけれど、団員の中に、中立な視点で冷静に話を聞き、情に流されずに適切な判断ができる人がいるのなら、知りうる範囲の歴史や状況を、その人には説明してあげてもいい。アーリーにも声をかけてみるわ」
 そしてエルザナはジスレーヌに背を向けたあと、こう呟いた。
「より多くの人が生き残った方がいいに決まってるもの」

■氷の大地、沖にて
 宮殿から届いた状況と指示を伝えに、レイニ・ルワールは団員たちのもとに戻った。
「治療しながら聞いて」
 甲板で怪我の治療をしている団員達に厳しい顔つきで話しだす。
「まずはグレアム・ハルベルト団長だけれど、彼の精神は魔法具に封じられた状態で、身体だけ帝国――地の継承者の一族が持つ特殊能力で操られ、敵の下に送り込まれていたそうよ」
 精神を抜かれた彼の身体は、歪んだ魔力に完全に支配されている。姿に変化はないが、魔物と同じ状態だった。
「知っての通り、魔物に地の回復魔法は効かない。歪んだ魔力を弾き出すことはできないわ」
 だから、生きたままグレアムを連れ帰ることはかなり難しい。歪んだ魔力と完全に一体化した――いわば、完全体の彼は、両親の属性である地と水の両方の魔法が使えるようだった。
 火や風じゃなかったのはまだ幸いだ。土や水が側になければ、攻撃をしかけてくることは難しいから。
 とはいえ、水を与えなければ命は持たない。
 目隠しをし、体の自由を奪い、時々水や食料を与えて命を繋ぎながら、本土に連れて行くのだという。
「先に話したように、地の一族の能力にも十分注意しなければいけないわ。魔力が高い人ほど、操られやすいようよ。彼の口からどんな言葉が出ても、それはグレアム・ハルベルトの言葉ではないってことを覚えておいて」
 だが、少女と共に皆の前に姿を現したチェリア・ハルベルトは違うようだった。
「チェリアさんの方は、まだ完全に歪んだ魔力に囚われていないようね。魔物の引き付けよりもまず、チェリアさんの奪還を優先してほしいと、帝国側から連絡があったわ。帝国騎士には、命令が出ている」
 Sスヴェル団員には協力要請だが、この場にいる帝国騎士(含む帝国所属傭兵騎士)には奪還命令が出ていた。
「それはかなり難しいと思う。一緒にいたという女の子――彼女は明らかに敵。魔物を呼び寄せる事が出来るかもしれないし、魔法も侮れない」
 燃える島の調査隊だった者は、その少女を見たことがあった。だが、当時と雰囲気が全然違っていた。
 今回、チェリアの奪還が無理な場合は、1度だけでもいい、必ず、強い地の回復魔法、または地の回復の魔法剣で、チェリアの中から歪んだ魔力を弾きだせと、帝国側から指示があったそうだ。
「こちらが出来る事と、敵の能力を分析して、連携しましょう。皇帝が世界を救うために、彼女の力が必要なのだそうよ」
 一同、グレアムとの戦いを思い起こす。
 瞬間移動――それが水の継承者の一族の特殊能力だろうか。チェリアと一緒にいた少女も恐らくその術を使ってくるだろう。
 魔法であるため、どんなに優れた魔術師であっても、瞬時に発動することはできないはずだ。
 また、消えて他の場所に現れるといったものでもなく、瞬間的に氷――水の上を移動する能力のようだった。

*     *     *


 冷たい氷の大地で。
 遠く離れた、地の一族に護れた土地で。
 人々は、大切な人を想い、世界の安定を切に願っていた。

 水の魔力を安定させるための儀式が、始まろうとしている。


カナロ・ペレア後編『魔力の理』参加案内

■スケジュール
2020年5月9日 シナリオガイド公開
2020年5月10日 チケット販売、アクション受付け開始
2020年5月17日 アクション締切(チケット販売終了)
2020年5月下旬~6月上旬 リアクション公開
※アクションに必要な情報が含まれているシーンのみ、先行公開させていただく可能性があります。

■参加方法
公式ショップでチケット(1000円)を購入していただき、こちらのフォームから選択肢の選択、手段(500文字まで)をご投稿ください。

■選択肢
・儀式の地出発前の準備
ゾーンシナリオ『任重くして道遠し』で、氷の大地にいる方用の選択肢です。
第2回リアクションの食堂での相談の後のシーンです。
準備をしながら特定のNPCや特定のPCとだけ会話するといった行動も可能です。

・アルザラ1号で作戦会議
ワールドシナリオ後編第2回のラスト後、治療しながらのシーンです。
この時点でアルザラ1号に乗っていると出来る方用の選択肢です。
※箱船とブレイブ号乗船者はこちらの選択肢はご選択いただけません。

・宮殿で歴史や状況を聞く
ワールドもしくはゾーンシナリオ後編第2回で氷の大地にいる人は、こちらの選択肢はご選択いただけません。
犯罪者は宮殿に入れません。

・Sスヴェル本部でジスレーヌと相談
ワールドもしくはゾーンシナリオ後編第2回で氷の大地にいる人は、こちらの選択肢はご選択いただけません。

・1人で考え事をする

■注意事項
こちらのシナリオは、後編重要シナリオ第2回~第3回直前の物語です。
選択肢により多少時期が違います。
『1人で考え事をする』につきましては、第2回中から第3回直前までのお好きな時期をお選びいただけます。
時系列につきましては、氷の大地のシーン以外につきましては、気にしないでください。
今回は主に、ワールドシナリオ後編第2回の補完や情報整理を目的としており、本編のアクションを書く際の参考になればと思っております。
既に書かれている内容と一致しない行動や、本編を進めようとする行動はお控えください。

■マスターより
こんにちは、川岸満里亜です。
ワールドシナリオ後編第3回(+リモスの氷の大地パート)は、この世界にとって非常に大事な回となると思います。
PC知識として知りたい事がある方や、語っておきたい想いがある方は是非ご参加ください。
参加されない方にも参考になるリアクションにしたいと思っていますので、読んでいただけましたら嬉しいです。

こちらのリアクションは主に川岸が担当しますが、箱船とブレイブ号の場面は冷泉マスターの担当となる可能性が高いです。
それではどうぞよろしくお願いいたします!