ワールドシナリオ前編
『深淵の眼差し かげろうの蒼』第3回オープニング
◆箱船出撃要請
宮廷会議室に呼ばれたルース・ツィーグラーと側近達は、会議室に入るなり冷ややかな視線を向けられた。
海賊との攻防の結果は、大まかにルースの耳にも届いている。呼ばれた時点で何かしらあることはわかっていた。
ルースは中央奥のランガス・ドムドール皇帝に挨拶をすると、その側近に示された席に着いた。
「皆、先日はご苦労だった。これから新たな作戦について伝える」
会議開始の宣言をした皇帝が傍らの側近に目配せをすると、彼は資料を片手に主にルースへ向けて言った。
「先日の人質交換の交渉時、マテオ・テーペから訪れた民による妨害があったという報告が上がっている。このことについて、姫は何かご存知で?」
「いいえ、何も。私も驚いています。そもそも、マテオの民がやったという証拠はあるのですか?」
側近からかけられる威圧的な空気に臆さず、逆に問い返すルース。
「証拠はない。しかし、海賊にあれほどの強風を起こせる者がいるとも思えない。また、現場にいた騎士団員からも、魔力の流れからしてマテオの女性に間違いないだろうとのことだ」
「マテオの民といっても、傭兵騎士として騎士団に所属していたのでしょう? そちらの管轄では?」
「ならば、作戦を妨害し、仲間を死に至らしめた行為は重大な軍規違反であるとして、こちらの法で処罰してかまわないのだな?」
しだいに白熱していく二人の間に、別の側近が割って入った。
「お二人とも、少し落ち着いて。マテオの民で囚われているのはもう一人いるでしょう」
「彼女も、海賊が海岸を占拠していた頃から、奴らと親しくしていたそうではないか」
「ですが、帝国に敵意があるようには見えなかったという報告でした」
いったい彼女達は何を考えているのか──。
あの状況で、人質交換を拒む理由とは何なんのか。
「……まさか、交渉を決裂させ、我が国の内乱を煽り、崩壊させて大地を得ることが貴様らの狙いではあるまいな?」
貴様らが指す人物の中に、マテオの統治者である伯爵が含まれていることにルースは気づいた。
しかし答える必要はない、とその側近とは目も合わせなかった。
「両国のために力を尽くしている者もいると聞きます。我々も、あなた方を信じたいのです。ここだけは誤解しないでください」
「ええ、それはわかっています。私達も帝国の助けが必要なのですから」
ルースと側近の気持ちが落ち着いたのを見て取った皇帝が、二回目の人質救出作戦の内容を切り出した。
「次に我らは海賊に対し鎮圧作戦を行う。残念だが、そちらの民のためにこれ以上の臣民の犠牲は出せん。その前にマテオ民を助け出すというなら、リモスに停泊している箱船を使ってもらう」
「箱船を……」
「そうだ。何らかの理由で海賊に与しているのだとしても、親しい者の説得なら応じるかもしれんからな」
箱船は海底に残されたマテオの民を助けられる唯一の船だ。
帝国に箱船級の船を造る技術はないため、もし修復不可能なほどの損壊を受けたら……。
迷うルースに、皇帝は続ける。
「そちらの船の指揮官は?」
「私と船長、他数名の者達で決めていました」
「ならば人質救出については、そちらの判断に任せよう」
それでも、助けに行かないという選択肢は、ルースにはなかった。
見捨てるようなことをすれば、リモスの彼女はきっと許してくれないだろうから。
☆
どれくらいの間、窓の向こうの景色を眺めていただろうか。
木々が作る影の向きが変わっていた。
それでもそこから動かない男の背に、ようやく待ちわびていた声がかかった。
「……見えました。すでに海の中です」
ラダの沈んだ声に、男もやるせない気持ちになる。
首輪をつけた海賊の顔を思い出し、詫びるように目を閉じた。
彼につけたあの首輪は、素手やナイフで切断できるものではない。
そしてそれが海の中にあるということは、返した海賊は殺されたということだ。
「……少し、休もうか」
男が言うと、ラダはお茶を用意するために立ち上がった。
◆鎮圧作戦
騎士団の作戦会議室に、鎮圧作戦に選ばれた者達が集められた。
それぞれ帝国騎士、傭兵騎士、スヴェルに所属する者達である。
選抜の基準は、武術に秀でていることであった。
戦死した騎士団長に代わり、副団長が全体の指揮を執っている。
「箱船の人質救出作戦後に、我らは海賊船へ突入し制圧する。箱船のほうの成否に関わらずだ」
副団長は集まった面々を、厳しい表情で見渡しながら作戦を告げた。
全員が緊張した面持ちで彼の話を聞いている。
「まずは投降を呼びかける。応じた者は箱船に乗せる……沈んでいなければな」
大型船のない帝国が所持しているのは、二十人程が乗れる小型の魔導船である。
投降に応じた海賊がいたとしても、引き取れる数には限りがあるため、副団長としてはたとえ人質救出に失敗しても、沈まずにいてほしいところであった。
「投降に応じない小船、攻撃を仕掛けてくる船は、やむを得なければ沈めてかまわない。帝国は、彼らの身勝手な要求を、これ以上飲むことはできないからだ」
さらに、もう一段階ある。
「それらが沈められてもなお抵抗を続ける場合は、魔導船を海賊船まで飛ばして甲板に下りる」
そうなれば白兵戦だ。
副団長は、睨むように目に力を込め強い口調で言った。
「防戦に徹する必要はない! 仲間を殺されてからでは遅い。魔獣を操る者、人質に刃を向ける者に遠慮はいらない」
室内の空気がピンと張り詰めた。
◆仕掛け
海賊船のボス専用室に海賊達が招集されていた。
そこにはエンリケ・エストラーダにバルバロ、彼女と一緒にメリッサ・ガードナーの顔もあった。
まだ来ていないボスを待つ彼らは、どこか苛立っていた。
原因は最近死んだ仲間のことだ。
「また一人、死にやがった」
「人質交換で帰ってきたヤツも見なくなったし……」
「クソッ、帝国からの食糧を食った後じゃねぇ? やっぱ毒が入ってたのかッ」
口々に言い、帝国への疑念や怒り、憎しみを募らせていく。
彼らは知らないが、実際の原因は脱水と壊血病だ。不調を訴える者や臭う者が出てきて、少しずつ死者が増えていた。
と、そこにいつものお気に入りの愛人と共にボスが入ってきた。
「海岸制圧の時だ」
自信たっぷりにボスは言う。
「帝国側もそろそろ本気を出すだろう。できるだけ多くの戦力を引き付けて、沈めてやるぞ」
「帝国に勝てるのか?」
「手は打ってある」
不安を見せた海賊に、ボスは仄暗い笑みで答えた。
これまで、海賊側は帝国に対して優勢だった。
さらに今度は何か仕掛けがされているという。
海岸の騎士らを蹴散らして完全制圧し、そこから帝国全土を手に入れる──。
先ほどまでの不安や苛立ちはいつの間にか消え失せ、海賊は夢見る未来に高揚した。
いつかのように異様に目をギラつかせ、興奮状態になっていく。
「よし、やるぜ! やつらを全部この海の藻屑にしてやる!」
仲間の叫びに、海賊達は拳を振り上げて応じた。
☆
海岸で見張りをしていた騎士達が、接近してくる小船に気づいた。
騎士達が武器を構え、小船を漕ぐ海賊に「止まれ!」と叫ぶ。
海賊は浅瀬で小船を止めた。
船には漕ぎ手の他にもう一人の海賊と、それから──。
「戦うつもりはねぇ! こいつと交換で水をもらいに来たんだ!」
人質となった帝国騎士アレクセイ・アイヒマンの姿。縛られてはいるが、暴行を受けた様子は見られない。
「俺らはさ、住むところがなくて困ってんだよ。縄張り争いで、漁師とちょっと喧嘩しただけで追い出すなんて酷いぜ。中には尖った奴もいるけど、ほとんどは気のいい奴らなんだぜ」
ヘラッと笑う海賊。
しかし騎士達は隙を見せずにアレクセイに呼びかけた。
顔をあげた彼は、さすがに疲れた顔をしていた。けれど、その口から海賊達を非難する言葉は出てこなかった。
「本当です。彼らには良くしていただきました」
本当なのだろうか、と騎士達は怪訝な顔をする。
そんな彼らに海賊は、もう一人の人質のことも告げた。
「あと一人の騎士サンも、すぐ近くまで連れて来てる。水くれたら解放するぜ」
騎士達はすぐに後方へ伝達を飛ばした。
ワールドシナリオ第3回参加案内
■スケジュール
2019年6月23日 シナリオガイド公開
2019年6月24日 チケット販売、アクション受付け開始
2019年6月30日 アクション締切
2019年7月20日頃 リアクション公開
■参加方法
公式ショップでチケット(500円)を購入していただき、ダウンロードしたファイルに記載されたURLのフォームから選択肢の選択、手段(200文字まで)をご投稿ください。
■第3回の主な目的
人質救出作戦を成功させる
海の魔物の謎に迫る
■選択肢
・【騎士団員】海賊船に乗り込む
・【騎士団員】帝国船を護る
・【騎士団員・スヴェル】海岸で海獣討伐
・【スヴェル】帝国船を護る
・【スヴェル】海岸調査
・【スヴェル】ボランティアの管理
・【リモス村】スヴェルに協力する(海岸調査)
・【リモス村】スヴェルに協力する(ボランティア活動)
・【マテオ民】箱船の人質救出作戦に参加
・【マテオ民】箱船を護る
・【アトラ民】箱船の人質救出作戦に協力
・【海賊】交渉をする(PL間相談推奨)
・【海賊】投降する
・【海賊】徹底抗戦
・【海賊】裏切る、情報を流す
・伝達を聞き、海岸に駆け付ける
・海獣討伐の作戦を立案(掲示板で提案推奨)
・海岸でボランティア活動
・崖上でボランティア(救護、炊き出しなど)
・人質になっている、操られている
・開発案を出す、開発に協力
■選択肢説明
【騎士団員】……立場:帝国騎士、傭兵騎士
【スヴェル】……立場:スヴェル
【リモス村】……拠点がリモス
【マテオ民】……マテオ・テーペ出身PC全員
【アトラ民】……アトラ・ハシス島の民全員
【海賊】……立場:海賊
選択肢の前に【 】のない選択肢は、PCの立場や状況に合っていればどのPCでも選択可能です。
■状況説明
海岸で人質となっていた帝国騎士を迎えるシーンからスタートします。
共に訪れた海賊には、水や手紙を持たせ海賊船へ帰還させます。
その後、マテオ・テーペの箱船が、海賊船に接近し、人質解放の呼びかけを行います。
箱船の指揮は、ルースの側近の水の魔術師です。ルース本人は乗りません。
どのような結果になったとしても、続いて騎士団の降伏勧告、鎮圧作戦が決行されます。
海岸では、先日発見された海底洞窟の調査が行われます。海賊たちが従えている魔物の住処の一つと考えられ、海獣を発見した場合は討伐するよう命じられています。
ジェザ・ラ・ヴィッシュさん(魔力値5)
軽く操られていますが、自身の意識もあります。
抵抗を試みており、まともに会話ができない状態です。
服の中に、ナイフを隠し持たされています。
魔法を解こうとした者(特殊能力を持つ誰か)に危害を加えようとします(物理or魔法)。
何らかの方法で術に抗うことが出来ると思います。
アレクセイ・アイヒマンさん(魔力値14)
操られており、自身の意識は眠っています。
服の中に、ナイフを隠し持たされています。
報告に宮廷に赴いた際に、皇帝の殺害に動きます。
(皇帝の側にはチェリア・ハルベルト等近衛騎士が控えています)
アレクセイさんの意識は、ご自身が大切に想う人の声に反応します。呼びかけ程度では起きないです。
宮廷には付き添いとして、2人まで同行してもらうことが可能です。
一定の信用を得たため、数匹程度の海獣(魔物)の指揮を任されています。
海獣はボスの意に反する行動はしません。
■開発について
今回も以下の開発について、協力、資金の提供をすることができます。
・ゴーレム
・炮烙玉(投箭を詰めたもの)
ゴーレムは、協力、資金提供がなされましたため、若干完成時時期が早まり、数も2、3体造れそうです。
炮烙玉は今回も資金の提供のみ可能です。前回分も使用されていないため、今回の海獣討伐で役に立つかも?
資金の提供につきましては、アクションとは別に行っていただけます。
新たな開発案もお待ちしております。
皆さんのアクションに役立ちそうな開発案が他にもありましたら、是非ご提案ください。
■マスターより
構成、データ処理を担当いたします、川岸満里亜です。
今回はアクションフォームにグループアクション欄を設けました。
複数のPCによる協力アクションを行う方は、グループ名を決めて、こちらの欄にご記入ください。
帝国の小型魔導船は、飛空艇ではないのですが、風の魔法で浮かしたり飛ばしたり(短距離)することができます。魚雷等、戦闘用の設備も備わっています。
今回は戦闘用に設備も装備も十分整えて向かいます。
帝国が所有している船はこの一艘だけではありませんが、こちらは非常に貴重な船です。
マテオの箱船には複数の水魔術師が乗っており、水中にもぐったり、水のバリヤーを張ることが可能ですが戦闘艦ではありません。
それでは今回もどうぞよろしくお願いいたします!
* * *
こんにちは。オープニング、エピローグ、リアクションの一部を担当します冷泉みのりです。
拠点がリモス村のPCの選択肢について補足します。
・拠点がリモス村で流刑囚PCの方は、騎士団、スヴェル、その他街の人達からの信用はありませんので、【リモス村】とある選択肢以外を選びますと成功率が非常に低くなります。
・また、拠点がリモス村でマテオ難民の方は、帝国の世論により【リモス村】【マテオ民】以外を選ぶと思わぬ非難を受ける可能性が高いです。やはりアクションの成功率は非常に低くなります。
・最後に拠点がリモス村でアトラ難民の方は、【リモス村】【アトラ民】と他の所属制限のない選択肢から選べます。
しかし、PCの立場や状況に合っていない行動を取りますと、これも成功率が非常に低くなります。
リモス村のPCは制限が多いので混乱してしまうかと思いますが、お間違いのないようよろしくお願いいたします。
それでは、今回もアクションをお待ちしています。
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