燃える島のバカン

参加案内はこちら

 なんやかんやあった後、火の継承者、レイザ・インダーの身体は魔石化した。
 その魔石を海賊のアール……と名乗っていたリッシュ・アルザラが、手に入れた。
 これは、そんなもしもな話!

●燃える島の王城という名の小屋
 リッシュが建国したアルザラ王国の王城。
 この国の王はウォテュラ王国の王家の血を引く、サーナ・シフレアンとされている。
 リッシュはサーナのただの友達という名の支配者。そしてもう一人の女王の友達、アーリー・オサードが、この国の実質の宰相であった。
「アーリー、例の件だ。燃える島ビックサイト計画の進展だ」
 フードを被った陰気な男が、女王の友人のアーリーの背後に忍び寄った。
「会場は確保できた。ほぼ野外だが問題ないだろう」
 この国の女王は水の継承者の一族。そしてこちらには魔石がある。野外会場の天気なんて、どうにでもできる。
「で、例のものは?」
「へへっ、指示通り。黒塗り等のチェックという主催者の検問の名の元に一冊ずつ確保しております。大丈夫だ」
 フードの男……ウィリアムの言葉に、満足そうに頷くアーリー。
「会場は要望により、男子湯が見れる場所という事で無論オーダー通り設定してます、ご安心を。水と風の魔術師の協力により、蜃気楼を発生させ、こちらの安全は確保されておりますので、献金は充分に見込まれてます」
 薔薇騎士物語――その、男と男の行き過ぎた熱い友情を題材にした二次創作発表会だ。
 解釈違いという名の争い、議論、殴り合いの絶えぬこの人間の本能を容赦なく暴くようなサバト会場。
 本土と燃える島双方の闇の住人達により、作者にも解らぬよう秘密裏に進め、リスペクトという名の元に懐を肥やす、暴挙が行われようとしていた。
「ふふ、なんとしても計画を成功させるのよ」
「もちろんですぜ! ……ということで」
 フードの前を開けて、ウィリアムは隠しもっていた服をびらんと広げた。
「お礼に着てくれるんだろうなぁ! このメイドふくぅ!」
「あらあら、せっかちさんねぇ」
 ウィリアムはぐいぐいアーリーに迫る。
「約束だぞぉ! 着てくれるんだろうなぁ!」
「いいわよ。ただ一つ答えてくれる? メイド服を着た私と、裸の私、あなたが好きなのはどっち」
 にこにこにこにこにこにこ黒い笑みを浮かべて、アーリーがウィリアムの頬を撫でる。
 答えを間違えれば、大切なメイド服ごと冥土に送られそうだった。

「ふーふーはーはーふひょーすーすー」
 リュネ・モル永遠の42歳は鼻息荒く待っていた。
 メイドのミノリンとマリアーノ、両名を騙って気になるあああああのひとにお茶会のしょしょしょしょしょうたいじょうを出したのだ。
 モブのメイドからの招待だ。あのお方が来ないわけがない。
 ヒヒーン!
 そんな彼の前に、馬車が到着した。
「こちらで女王主催のお茶会が行なわれるとお聞きしたのですが……」
 中から顔を出した人物こそ、リュネが接触を希望するモノをもつ、アルディナ帝国の皇妃カナリアであった。
「こちらへどうぞ。たたたただだいぢちち大事なお話があり、私がお呼びしたのです……!」
「そうですか……。もしかして、お帰りにならないというチェリアさんのことでしょうか?」
「そうですですですです」
 よく磨いたテーブルセットに皇妃を誘って座らせると、向いの席について身を乗りだしてリュネは言う。
「いまやチェリアは『絞りつくされています』。このリュネが不幸にして一度接点を持ってしまい情報網に囚われた公爵さまの財布も同様に」
「そうですか……」
「なので、新たなる豊かなだ(略)いちちが必要なのです!」
 きりっとした顔で言う。
「帝国の財で、お菓子の峰にワインが流れる理想の国、シャトー・レーゼを築きましょう」
 リュネのことばに、うふふふふとカナリアは意味ありげな笑みを浮かべた。
「それは陛下から搾り取り、ここに私の理想郷を造ろうということですのね? その協力をあなたがしてくださると?」
「接触できるというのであれば、如何なる協力も惜しみません!」
 だいちちちちの恵みが、だいちちちの恵みが必要なのですと、リュネは皇妃の恵みをきりっとした顔でガン見。
「いいでしょう。あなたの本気を見せてくださいませ」
 皇妃は立ち上がってコートの前を広げた。
 なんと彼女は黒のボンデージを纏っていた。豊かな大乳がぷるんと揺れている。
 そして両手を広げた。自分の胸に飛び込んで来いと。
「不躾ながら、不肖リュネ・モル、いっきまーす!!」
 そうしてリュネは、大地の恵みを心行くまま堪能するために、ダイブを決行する。手いや、顔から突っ込む。
「むぎゅう! わが人生に悔いなし」
「うふふふふ、可愛い人。私の中で眠りなさい」
「ああ、冷静(れーせー)に御法(みのり)に則り判断を下す、天秤を司る、誰が呼んだか麗しのレーゼ」
 朦朧とする意識の中、リュネは不可思議な言葉をつぶやいていた。
「誰よ、冷製マリネと言ったのは? それはルイベよ、首(こうべ)を垂れて詫びなさい」
「意味わからんわー!!」
 後方からマリアーノが投げた巨大なパイがリュネの背中にクリティカルヒット!
「このアクションは主が留守の間にねこが回線をつないで書いてますぅぅぅぅ。ふにゃーん」
 大地の恵みと大パイに挟まれて、リュネは昇天したのである。
「首謀者を捕らえました。この男を人質にして、マテオの民から搾り取りましょう」
 女王の鞭で縛り、リュネをパイ包みにするカナリア。
 そうしてリュネは、帝国の宮殿に連行されたのである。
 その後、リュネの姿を見た者はいない。
 代わりに帝国に猫が増えた。

●秘宝館
 島の中心の少し先に遺跡が存在する。
 遺跡の地下には部屋が残っており、現在は秘宝館として使用されている。
「色んな魔法具があるね。これは何に使うんだろう?」
 恋人のリック・ソリアーノと共に訪れた、イリス・リーネルトが不思議そうに眺めているのは、針金のような魔法具だった。
「これはラスト・キーといいましてね、どんな部屋の鍵でも開錠出来るマジックアイテムなんですよぉ~」
 管理員のホラロ・エラリデンは、二人を眺めながらにやにや笑みを浮かべていた。
「そうなんですか! 凄いね、リック」
「鍵のタイプによって形状が変わる魔法具? ほんと凄いね」
「それにほら、列ができているあの魔法具。霊を呼び出せる魔法具なんだって。精霊さんともお話しができるのって凄いよね。リックはお話ししたい人はいる?」
「ん~……家族、かな」
 リックは直ぐに首を左右に振った。
「混んでるし、今日はいいよ」
「そうだね。予約してまた来ようか」
「うん」
「ではではでは御嬢さん、上のテラス席にご招待します~。こちらのドリンクをどうぞ。休憩していってくださいねぇ」
 イリスとリックはそれぞれドリンクを受け取って、地上にあるオープンテラス席で少しの間休憩をすることにした。
 が……。
 休憩をしている最中。イリスの身体がみるみる縮んでいき、幼児の姿になってしまった。
「イリス? イリス!? えっ!? ええっ!?」
「リック? リックがなんだか大きく……わ、わたし子どもになってる?」
「あっ、このドリンクメニューの案内に」
 テーブルの上にあったドリンクメニューの案内に『女性にお勧め若返りの効果あり!(幼女化)』って書かれるよ。イリスが飲んだのこれじゃ?」
「そ、そうなのかな? どうしよう。わたしの体、元に戻れるのかな……」
 不安そうに見つめる幼い瞳。
 その愛くるしさにリックは眩暈すら覚える。
「このまま元に戻れなかったら、リックのお嫁さんになれなくなっちゃう……」
「する。いや、なってよ。どんな姿だって、僕はイリスをお、お嫁さんにしたい」
 涙目になっているイリスに腕を伸ばして、抱き上げた。
「魔法薬の効果は数時間のはずだから、大丈夫だよ。このままの姿で温泉街まで歩くのは大変だから、あそこの噴水にでも行ってみようか」
「うん」
 不安そうな目で自分を見つめるイリス。
 彼女を撫でながら、リックは噴水が設けられた場所へと歩く。
「水着、水着のレンタルしてますよ~。幼女用は無料ですよー」
 噴水の側では、先回りしたホラロが水着の貸し出しを行っていた。
「水着、どうしようかな」
「結構です」
 勧められて迷ったイリスだが、リックがきっぱり断った。
 噴水側の岩に腰かけて、靴を脱ぎ、二人は水の中に足を入れた。
「温泉の噴水だから温かいね。でもわたし水着、着なくてよかったの? 着たらもっと噴水に近づけたのに」
「いいんだよ。水着のまま元に戻ったら、イリスの……そういう姿、人に見せたくない、から」
 大人の女性に興味のないホラロが貸し出している水着は、大人の姿に戻っても大事な部分がきちんと隠れる作りにはなっている。だけど、かなりきわどい姿になるわけで……。
「うん、そうだね。リック、あとで一緒に温泉に入ろうね」
「うん」
 二人はそう約束をして、両足でじゃぶじゃぶしたりしながら、噴水や景色を楽しんでいく。
 その間中ずっと、イリスが落ちないよう、リックは彼女の体に腕を回して抱いていた。
(リックって、こんなに逞しかったんだ……)
 体は子どもなのに、ドキドキが止まらなかった。

●集落の外れ
 レジャー温泉建設中の集落の外れ。
 作業に携わる女の子たちの入浴タイムに突入していた。
「…………」
 ツルハシに安全第一ヘルメットのフル装備で建設作業に協力していたマーガレット・ヘイルシャムは、温泉の片隅で湯につかりながら、ジスレーヌ・メイユールと友人のサーナの姿を眺めていた。
(温泉……。
 湯煙の中、美男子たちが集まり何も起こらぬはずがなく……
 素晴らしい。執筆意欲も沸きますわ)
 そんな作家としての純粋な動機で協力を申し出たマーガレットだったが、目の前で繰り広げられる予想外の展開に、 目が釘付けになっていた。
「ひゃん、やめてくださいサーナさん。そんなところ……自分で洗えますから」
「ん? そんなところって、背中しか触ってないわよ、私。ここ手、届きにくいでしょ? 綺麗にしてあげる」
「ああん、もっと普通に、普通にお願いします」
(悪くない、悪くないですよ)
 体の洗いっこをしているジスレーヌとサーナ。
 マーガレットは女性に生まれて良いことなんてないと思っていた時期もあった。
 だがしかし、女であるが故、この場でさりげなく湯につかって、こうして生まれたままの姿で戯れる二人を見ていられる。
(そうです、この眼に焼き付けようが、聞き耳を立てようが問題はありません。まさに合法! 誓って、法は犯しておりません。あ、このアルザラ王国に法なんてないですけれど)
 しかしこのシーンが公開される国では、法律に反する描写をするとお仕置きを受ける可能性がある。だから彼女がどこで彼女に触れているのか、どんなふうに洗っているのかは読者の想像にお任せなのである。
「ふはあ、ジスレーヌちゃんたら(洗い方)激しくて困るわ」
「マーガレットさん、お待たせしました」
 綺麗になった二人が湯の中に入ってきた。
「きゃあっ、マーガレットさん血が!?」
「えっ!? ホントですわ……」
 ジスレーヌに言われて口に触れると、べったりと手に血がついた。
 どうやら、鼻血を出してしまったらしい。
(やば、お二人のあられもない姿に興奮しすぎました。これはよくなくです)
 咄嗟にマーガレットはげほっと咳き込んでみせた。
「すみません……吐血してしまったようです。先に上がらせていただきますわね」
 そう言って、ひとまず退散しようとしたのだが。
 湯から上がった途端、くらくらっとしてしまい倒れ込む。
 だらだらと鼻から流れ落ちる血。
「マーガレットさん、大丈夫ですか!?」
「しっかり、しっかりしてくださいー!!」
 倒れたマーガレットに駆け寄る裸の二人。
(ああ、ああ……いいですわ。このシチュエーション。なんて、うつくしい、さんぴ……)
 解放するために飛びついてきた二人をしっかり目に焼き付けながら、マーガレットの意識はめくるめく妄想の世界へと旅立ったのだ。

 その少し前。
「グレアム団長、ビルさん! 温泉ってこんな匂いがするんですね」
 グレアム・ハルベルトと共に交渉に訪れたタチヤナ・アイヒマンは、温泉地独特の空気を吸い込み、緩い笑みを浮かべていた。
「はあ~和む~」
「タチヤナ、俺は交渉に訪れたんですよ?」
「あはい、邪魔はしません。それで、女王様とのお話が終わったら、少し温泉でのんびりしましょうよ」
「そうですね……」
「そして、風呂上がりのコーヒー牛乳をキメましょう♪」
「ただ」
 グレアムは少し迷っているようだ。
「今日くらいちょびっと寄り道しても問題ありませんよ、普段きっちり働いてるんですから!」
「ええ。ですが、俺は秘宝館に興味があるんです。古代の魔剣とか、ありそうじゃないですか!」
「そうですね、それじゃ秘宝館に行ったあと、温泉に決定ですね!」
「お手紙をお届けしてからですよ」
 今にも秘宝館に向かいそうな二人に、ルティア・ダズンフラワーが微笑みながら言った。
「ところで、グレアム様は公爵様の封書の中はご存知でらっしゃいます?」
「いえ。ビルたちは何か聞いてますか?」
「知らないです」
 ビル・サマランチと、彼女の護衛として訪れたカーレ・ペロナも首を横に振る。
「穏便に済むと良いのですが……」
「くく……っ」
 護衛役として同行したリンダ・キューブリックは思わず凶暴な笑みを浮かべる。
 交渉が成功するのはら、それも良いだろう。
 だが、そう順調に解決できるとは思えない。
 予感というより――願望だった。
「ビルさん、私たちは道中魔法の練習をしませんか?」
 周囲を見回しながら、カーレが言った。
 本土の街や宮殿で過ごすことの多いカーレやビルは、こういった岩場での習練経験はほとんどない。
「いつもと異なる環境で魔法を使うことは、魔力の流れの変化にも敏感になりますよ」
「そうですね。私、地震とか起こしたことないので、挑戦してみたいです」
「ビルさんは才能あるようですし、出来るようになるかもしれませんね」
「こちらにある魔石を使えば、地面を掘ったり、岩を動かしたり……何か大がかりなこともできそうですよね。私もしかしたら、ここでお役に立てるかもしれません」
 そう言った後、ビルはカーレに耳打ちする。
「と何も知らない純粋無垢な少女を装って内部に入り込み、魔石を使って大地震を起こして全て滅ぼせばいいのですね!」
「そ、そこまでは公爵も考えておられないかと」
 ビルに地震を試させるのは危険かもしれないとカーレは思う。
 実はレジャー温泉施設の完成、カーレもこっそり楽しみにしている。既に完成していると思っていたので、泳ぎの訓練までして訪れたというのに、残念ながら完成はまだ先のようだった。
「というか、お仕事は手紙を渡して、お返事を聞いてくるだけなんですよね! さあ、さっさと終わらせましょうー」
 タチヤナが不安そうなルティアや、皆の背をぐいぐい押して急かせる。全ては温泉でのんびりするために!

「サーナ、もう上がってるか?」
 ラトヴィッジ・オールウィンが建設中の温泉に戻ってきた頃には、マーガレットもこちらの世界に帰ってきており、休憩所でぱたぱた仰ぎながら、3人はくつろいでいた。
「差し入れ持ってきたよ」
 大きな声でラトヴィッジが言うと「どうぞ」と返事が返ってきた。
 女の園に、喜び勇んで足を踏み入れるラトヴィッジ。
「ラト」
 サーナの姿を見たラトヴィッジの足が止まった。
(湯上がりサーナいいなぁ……)
 一瞬目が釘付けに。そしてニヤける顔。
「どうしたの?」
 不思議そうにサーナに言われ、慌てて頬を引き締めて歩み寄る。
「差し入れ、持ってきた。お疲れさん!」
 定番のコーヒー牛乳! と疲れた体と喉を潤すための、フルーツ盛り合わせ。
 食べやすいように1口サイズにカットしてある。
 勿論サーナの分だけではなく、全員分用意してあった。
「ありがとうございます」
「いいただきますわ」
 ジスレーヌとマーガレットに渡して、ラトヴィッジはサーナの隣に腰かけた。
「レジャー温泉、楽しみだ。絶対、定番のデートスポットになると思う」
「デートですか、私はどちらかと言えば男女別の方が……あ、いえ。ですよね、遊び場はノーマ……いえいえ、カップルで楽しめると良いですよね」
 言ってごくごく、マーガレットはコーヒー牛乳を飲む。
「うん、俺もサーナと来たいし。俺に出来る事があったら、何でも手伝うから言ってくれ」
「ありがとう、ラト」
「あ、そうだ。力仕事で肩凝ってないか?」

 突如片膝を地に付けて、優雅に一礼するラトヴィッジ。

「マッサージなんてどうでしょう? 女王様

 にこっとサーナに笑いかける。もう周りは見えていない……。
「お願いしちゃおっかな」
 うつ伏せになって、誘うような目でラトヴィッジを見るサーナ。
「仰せのままに~」
 ラトヴィッジが肩に手を伸ばして、揉み始めた。
「大分凝ってるな~」
 服が邪魔だと肩をはだけさせる。
 直接触れて、ぐっと押すと、サーナの口から吐息が漏れる。
「どう? 気持ち良い?」
「もうちょっと右」
「ここか?」
「ううーん、そこそこ。はあ~」
 サーナがとても気持ちよさそうな声を上げた……。
「お、お邪魔なようですね……って、マーガレットさん何じっと見てるんですか」
「え? ああ、マッサージの仕方を学ばせていただこうかと思いまして。他に理由なんてあるわけないではありませんか! ジスレーヌさんも、後学のために見ておいた方がいいですよ。お相手を虜にする手法を」
「そうですね……。彼、最近またマイさんとか違う人の事ばかり考えているみたいで。今日はぼんきゅっぼんな方とお出かけに……」
 ジスレーヌは悲しそうに自分の胸に手を当てる。
「ええ、彼を虜にする方法、学びませんと!」
 そんなわけで、マーガレットとジスレーヌが凝視する中、ラトヴィッジは指技を駆使し、サーナはうっとりとした声をあげ続けるのだった。

●温泉街
「いい湯でしたね」
「景色も良かったな」
 温泉で温まったあと、ピア・カスタル(ピア・グレイアム)は夫のバート・カスタルと手を繋いで街の散策へと繰り出した。
「でもいいんですか? お手伝いしなくて」
「いいんだ……ピアが巻き込まれたら嫌だし」
「傷つけ合うことになるのでしょうか?」
「いや、ただアイツ、女の裸見ることへの執着心が強くてなぁ」
 ゴーレムとなったレイザと共に、リッシュを捕まえに行くはずだったバートだが、ピアも同行を申し出たところ『こっちは俺達に任せておけ、怪我人が出たら治療を手伝ってくれればいいから』と、途中でおいていかれたのだ。
 というわけで、視察の意味も込めてというピアの提案で、二人は温泉街にやってきたのである。
「ここの名物は、焼き魚のようですね。何か食べます?」
「そうだなー……魚もいいけど、今は甘いものがいいな」
 そういう気分なのだろうか? ピアが不思議そうにバートを見ると、バートはピアの唇に目を落したあと、顔を背けて照れ笑いをする。
「ふふ、ではあちらの甘栗、いただきましょうか」
「ああ」
 甘い匂いが漂ってくる方向に歩き、二人は甘栗を買うと、高台の方へと歩いていった。
「なんか神秘的な感じがするよな」
「パワースポットみたいな場所ですよね」
 温泉街と反対側は、開発のされていない荘厳な大地であった。
 岩が多く、草木は少なく、時折煙が立ち上っている。
「んー、充電!」
 バートはピアの肩を抱いて、空気をいっぱい吸い込む。
 ピアもバートの真似をして、深呼吸。
 体に力が溢れていくような気がした。

 街に戻った二人は、知り合いの姿を見つけて声をかけた。
「お二人も来ていたんですね」
「バートさん、ピアさんこんにちは」
 イリスとリックだ。
「僕たち温泉に入りに来たんです。湯浴み着を借りれるお勧めの温泉ありますか?」
「それなら、俺たちが入ってきたところ」
 バートがピアと共に利用した温泉を二人に教えてあげる。
「ありがとうございます」
 ぺこりと頭を下げて、温泉に向かっていく二人。
「なんか、かわいいな……」
「初々しいといいますか、素敵なカップルですよね」
 微笑ましく見守りながら、ピアとバートは土産物屋に立ち寄って、互いに小物を買ってプレゼントしあって。
 のんびりとデートを楽しんだ。あっ、視察を楽しんた。
「バートさん」
 レイニへの土産も買い、そろそろ船に戻ろうと歩きはじめた時。ピアはバートの名を呼んで、立ち止まらせた。
 そして背伸びをすると、彼の頬にちゅっと唇で触れた。
「これからも、ずっと一緒にいましょうね」
 にっこり笑ってバートを見上げるピア。
 少し驚いた顔をしたバートだけれど、次の瞬間には満面の笑みを浮かべて。
「お返し」
 と、ピアのおでこに唇を落とした。
「一緒にいような!」
 バートが肘をピアに向ける。
 ピアは頷いて、彼の腕に腕をからませて歩き出す。
 すっと隣にいられることを祈りながら。

「ベルティルデちゃんはこういう場所初めて……だよね?」
 コタロウ・サンフィールドは、ベルティルデ・バイエルを誘って、温泉街に訪れていた。
「はい」
 ベルティルデはコタロウと散歩道を歩きながら、不思議そうに辺りを見回していた。
「火や魔法で温めたわけではないのに、水が温かいなんて不思議ですね。匂いも不思議です」
 マテオ・テーペにも温泉はあったが、ここほどに整えられてはいなかった。
「それじゃ、一番人気の宿の温泉に入っていこうか!」
 コタロウが誘うと、ベルティルデは嬉しそうに頷いた。
 人気の宿の温泉は、湯浴み着を着用して入る混浴と、家族風呂、男女別の浴場があった。
 少し迷ったけれど、二人は男女別のの露天風呂にそれぞれ入ることにした。
「ふは……」
 コタロウは湯の中で身体を伸ばした。
 最近まで燃えていたこの島に木々は少ないけれど、厳格さを感じる崖や、滝、遠くに見える遺跡などが、荘厳な雰囲気を醸し出していた。
 景色を楽しんだ後は、目を閉じてゆったりと時を過ごしていく……。

「ベルティルデちゃん、温泉どうだった?」
 脱衣所の前で、ベルティルデと合流して二人は休憩室へと歩いていく。
「良いお湯でこっちはすっかりリフレッシュできたよ」
「少しぬるめのお湯だったのですが、じわじわ心も体も温まっていきました」
 ポカポカですと赤く染まった顔でコタロウを見るベルティルデ。
 二人はふんわりとした笑みを浮かべて、微笑み合った。
「マッサージも心地よくていつの間にか眠っちゃってたよ。何と言うか生き返った感じがするなぁ」
「コタロウさんはマッサージもしてもらったのですね? ……担当はどなたでした?」
「ん? 知らない男性だったよ。ベルティルデちゃんは?」
「わたくしもマッサージをお願いしてみたのですが、担当として来られた方が……」
 見てはいけないものを見てしまった、とでもいうように、ベルティルデは小声になる。
「神殿長のナディアさんで、びっくりしてしまいまして」
「神殿長!? それは驚くね。ナディアさんなら他にお仕事沢山ありそうなのに、何故ここで働いているのかな」
「それは秘密、なのだそうです」
 誰と来たのか、相手との関係など根掘り葉掘り聞かれたそうだ。
 なんだかちょっと畏縮してしまい、結局ベルティルデはマッサージを受けないで、合流場所に戻ってきていた。
「そっか……何か重大な理由があるんだろうね。でも聞かないでおこう」
「はい」
「今度はここに住んでいないマテオ・テーペのみんなと一緒に、温泉ツアーで来てみたいね」
「そうですね。ではあとで観光案内所に寄って、そういったツアーないか聞いてみましょう」
「うん、それじゃ行こうか」
 頷いて、ベルティルデはコタロウと一緒に外へと向かっていった。
 街路で売られていたお菓子を買って食べたり、温泉施設を見学したりしながら、ゆっくりと街を巡って1日楽しんだのだった。

 個室の休憩室。
 ユリアス・ローレンカサンドラ・ハルベルトを誘って、一番人気のこの温泉宿に来ていた。
「女湯の方は……大きな岩に囲まれてて……あまり、景色見えなかったの」
「そうですか。男湯の露天風呂からは景色良く見えましたよ。では食事と休憩後は、一緒に混浴入ってみませんか? あっ、も、もちろん湯浴み着をお借りして」
「え……っ」
 湯上りで仄かに赤く染まっていたカサンドラの顔が更に赤くなった……とその時。
「お待たせいたしましたー! マッサージを担当させていただきます、ルルナ・ケイジ参上です!」
 ドーンとドアが開く。
「いい雰囲気のところごめんね。邪魔しにきたんじゃないよ、ご指名いただいたからマッサージに来たんだからね」
「はい、よろしくお願いします、ルルナさん」
「お願いします」
「あ、こちらこそどうぞよろしくお願いいたします」
 頭をさげあう三人。顔を上げるとくすりと笑い合った。
「それじゃ横になってね」
 ユリアスとカサンドラが横になると、ルルナは腕まくりをしてまずはユリアスの肩からマッサージを始める。
「おー、凝ってるね。えいっ!!」
「あ……っ!? ルルナさん、い、痛いです……っ!」
 目をぎゅっと閉じて痛みに耐えるユリアス。
「ユ、ユリアスくん……」
 苦しそうなユリアスをカサンドラが心配そうに見つめている。
「う、ううう……そ、そんなに凝ってますか?」
 首を回して涙目でルルナを見ると、ルルナはにこにこ笑みを浮かべていた。
「うん、多分。私あんまりマッサージとかしたことないから、わかんないけどね!」
「ええっ!?」
「はーい、次はカサンドラさんの番ー。ねえ、心配? 心配?」
 ちょっと怯えているカサンドラではなく、ユリアスを見て言うルルナ。
「し、心配です。痛くしないでください、ね?」
「それじゃ、凝ってなさそうな柔らかい部分にしようか、ふふふ」
 逃げようとするカサンドラにのしかかって、ルルナは彼女の体の柔らかい部分に手を伸ばす。
「やっ、やめて……ルルナさん、や……」
 カサンドラはバタバタ足をばたつかせる。
「冗談だよ。ちゃんと優しくマッサージするって。可愛いなぁもうっ」
 ルルナの言葉に、止めに入ろうとしたユリアスもほっと息をついた。
「二人は恋人同士なんだよね。いいなあ、私も素敵な彼氏欲しいなぁ」
「誰でもいいわけではないですよね。好きな人はいるんですか?」
「うーん、気になる人は何人かいるけど、恋はしてないと思う」
 カサンドラをマッサージしながらルルナはユリアスの問いに答えた。
「ルルナさんは明るくて頑張り屋の素敵な女の子です。いつか大切に思える人に出会えますよ」
「それじゃ、ユリアスさん私と付き合う?」
「え……っ?」
 声を上げたのは、カサンドラだった。
「本気ではないですよね。僕の大切な人はカサンドラさんです」
「むぅー、こうしてくれる」
「あっ、きゃ……はは……っ」
 くすぐられて、カサンドラは小さく笑い声をあげた。
「私の理想、お兄ちゃんなんだけど、私のお兄ちゃん凄い人だから、それ以上の人ってなかなかいないんだよね」
「どんなお兄さんなんですか?」
「元騎士で、優しくて凄く強くて逞しくてとってもとってもカッコイイの」
 兄の事を話すルルナの目は、恋人のことを話しているかのように輝いていた。
「ルルナさんはお兄さんの事が大好きなんですね」
「うん!」
「カサンドラさんもお兄さん、お姉さんと仲が良いですし、僕は一人っ子だったので羨ましいです」
「そうなんだー。うちは兄妹とっても仲良しだよ! でも……兄妹は結婚したらみんなバラバラだからね。私も早くいいひと見つけないと、1人は寂しいし。はい、おしまい!」
 ルルナがカサンドラを解放した。
「ありが……」
 お礼を言いかけたカサンドラだけれど、直ぐに首を左右に振った。
「半分くらい……マッサージじゃなかったから……お礼も、半分……だけ」
 ちょっと咎めるような眼でカサンドラがルルナを見る。湯上りのカサンドラのそんな顔はとっても可愛らしくて、ユリアスの心臓は高鳴り、ルルナは思わずぎゅっと抱きしめたくなる。
「でもがまん。がまんするよ。というかそろそろ退散するねー。ゆっくりしていってね」
 それじゃまたね、と。
 ルルナは笑みを残して部屋から出ていった。
 それから美味しい料理を食べて、部屋でくつろいだ後。
 二人は湯浴み着を借りて、混浴の露天風呂へと行き、互いの姿にどきどきしながら、湯の中に入って。
 ゆっくりと二人きりで大切な時間を過ごしたのだった。

●ただの小屋
「ここが……お城?」
 グレアムたち一行がたどり着いたのは、ボロ小屋だった。
 しかしこの小屋と動物小屋以外、この辺りに建物はない。
「すみません、こちらに女王陛下はおられますでしょうか?」
 グレアムは小屋の周りで掃き掃除をしているメイドに訊ねた。
『女王陛下はおられません。温泉を掘りに向かわれたそうです』
 とっても可愛いメイドだった。
 品があり、ただのメイドとは思えない。
 喋れないらしく、木の板に文字を書くという筆談での返事だ。
「それでは、宰相……といいますか、この国の政治を担っている方は?」
 ルティアの問いに、困り顔でメイドはこう答えた。
『いるといいますか、いないといいますか……』
(なんって……かわいい。可愛すぎる!!!!)
 タチヤナにはそのメイドの正体がわかっていた。
 女装した兄、アレクセイ・アイヒマンだ。
「実はハルベルト公爵から、お手紙を……あっ」
 手紙を取り出そうとして、グレアムは落してしまったことに気付く。
「どうやら、先ほどの温泉が湧いていた場所に落としてしまったようです」
「取りに行きましょう! 温泉に!! 女王陛下もそちらにいるようですし」
 意気揚々とタチヤナは言う。
「では、私はこちらで待たせていただきます」
「仕方ありませんね。ビルさんのことはお任せください」
 ビルとカーレは小屋に残ることにした。
「自分はここで待たせてもらおう」
 リンダは小屋の入口で仁王立ちして待つことに。
(この小屋に地下があるとは思えない。ここにいないのであれば、人質の監禁場所は、おそらくあの動物小屋)
 交渉決裂と同時に突入だ。
 背後の小屋だけではなく、リンダは動物小屋にも注意を払っていた。
 
 グレアム、タチヤナ、ルティアが温泉の方に戻ってから、ビルとカーレは小屋の中に通してもらった。
 中は結構広く、生活に必要なものが一通りそろっていた。
 フードを纏った陰気な男が近づいてくる。
「お前ら、うちのメイドに何の用……あちゃーっ!!」
 突如その男――ウィリアムの服が燃え出した。
「すまん、すまんアーリー、言い直す。お前ら、俺の女に何の……ぐおおおお!!」
 一旦消えた火が、またごうごうと燃えだした。
「すんません。うちの姐さんにに何の用でございましょうか」
 そう言い直すと、火はパッと消えた。IFでもアーリーは照れ屋さんなのだ。
チェリア・ハルベルトさんがお戻りにならないので、お父様が心配しています。私達はチェリアさんをお迎えにきました。お帰りになれない事情があるのなら、交渉をさせていただきたいです」
 ビルはたじろぎながらも訪れた理由をきちんと話した。
「だってさ、どうするアーリー?」
 ウィリアムが聞くと、アーリーは困った顔で答える。
「ごらんの通り、ここにはメイドしかおりませんので」
 そう彼女はウィリアム特製のメイド服を纏い、メイドへと変身を遂げている。

 リッシュは既に逃げてしまい、いない。
「こちらのお嬢様との交渉は、手前に任せていただけませんでしょうか?」
 ただ、部屋にはもう一人男がいた。
 新規市場開拓の為に現地視察という名目で島に訪れた、ポワソン商会のリキュール・ラミルである。
 彼は小屋に訪れてすぐに気付いた。メイド服を纏ったこの女性こそ、この国の実権を握る人物だと。
「ハルベルト公爵から話は伺っております。チェリア様がお戻りにならないのは、この国の財政に理由がございましょう?」
 実質的な身代金を要求している原因が、財政難であることをリキュールは見抜いていた。
 グレアム・ハルベルト率いる交渉団による表の折衝では安易な妥協は難しいだろう。
 というわけで、水面下でのネゴシエーションを試みることに。
 アルザラ王国が欲するような利益供与を提案。この場合は――。
「見栄えの良い邸宅を寄贈する、というのは如何でございましょうか?」
「一介のメイドの私にはよくわかりませんが……陛下はお喜びになると思います。ただ、そのお約束が果たされるまで、チェリアさんはお帰りにならないのでは?」
 お人好しのメイドを演じるアーリーに、にこにこ笑顔でリキュールは言う。
「手前どもポワソン商会は、信用と誠意を看板に掲げてございます。お約束は守りましょうぞ」
「それでは約束を果たされるまでの間、ポワソン商会の本拠地をこちらに移していただくというのでどうでしょう? あなたは本土で指揮をしなければなりませんから、こちらには奥方に滞在していただくということで。独身ですよね? そちらにいらっしゃる、ビルさんと結婚をし、最低でも邸宅が完成するまでの間、彼女が商会の本拠地に留まってくださるというのなら、その条件、陛下にお伝えします」
 穏やかな顔で言っているが、人質は確保しておく。ポワソン商会も帝国から奪う。そんな思惑が感じられる発言だった。
「ええっ! ちょっと待って、私……婚約者がいるので、無理ですーーーーー!」
 話を聞いていたビルが、カーレの腕に自分の腕を絡める。
「私の婚約者です。私たちらぶらぶなんです。もうすぐ結婚するんです。だから、他の人とは結婚できません」
「……だそうです」
 注目されたカーレはそう答えた。
 しかしいつ自分は彼女と婚約したのだろう。記憶にないが、話を合わせることに。
「両生類は嫌ー。おじさんはイヤー。若い人間の男の人がいいーーー!」
 酷い言われようである。
 確かにリキュールはカエルを連想させる外見で、ポチャリ系の40代だが。
 彼女を含め、人質を解放させるために来たというのに!
「それは難しい提案でございます。手前にも……いえ」
 好みがあると言いそうになったが、リキュールは大人なので飲み込んだ。リキュールにだって、思いの人がいるので夢見がちな乳臭い小娘なんて願いさ……なんて思っていたかどうかはともかくとして、このメイド服姿の女性との取引はなかなか難しく、面白い。
「この国が帝国に正式に国として認められた暁には、ポワソン商会とも末永くお取引をいただきたく」
「そうですね。両国の繁栄と民の幸せのためには、サーナ陛下だけではなく、ビルさんもこちらで幸せになっていただきたいと思います。ビルさんを口説けないようでしたら、フィアンセの男性の方を商会に口説かれては?」
「なるほど、興味深い話ではございますな」
 こいつ、知っている。
 ビルが皇帝の娘であることを。
 二人の瞳が一瞬鋭い光を帯び、絡み合った。
 しかしまあ、皇帝の娘のビルがこの地に住んで、ゆくゆくはこの地の領主となれば、帝国の勝利である。そしてポワソン商会は王室御用達間違いなし!
「勝手に話が進んでいますね……」
 カーレは困惑していた。
「ビルさんはどう思われます?」
 自分の腕に抱き着いているビルに問いかける。
「良く分かりませんけれど、しばらくここで暮らすということですか? 出掛けにハルベルト公爵からもお父様には伝えておくので、しばらく泊まってきていいですよって言われていますので、カーレさんがよろしければ問題はありません。あ、でも結婚出来る年齢ではないので、その、まずは交際からでお願いします。プロポーズは早めでお願いします」
「……」
 どうもカーレの方からプロポーズする必要があるらしい。
(それにしても、ハルベルト公爵……どうやら、用意周到なようですね)
 カーレは深くため息をついた。
 ビルを換わりにここに留まらせ、チェリアを帰還させようと考えているようだ。
「困りましたね……」
「まさか、カーレさん、お相手がいるのですか!? 親が決めた許嫁でしょうか? きっと政略結婚ですよね!? それなら私と恋仲になったからと断りましょう。大丈夫ですよ、私そんなに家柄は悪くない、です。ね、ね、そうしましょう!!」
 必死ともいえる顔で迫ってくるビルに、カーレは苦笑する。 
「ともあれ、こちらは一旦持ち帰らせていただき、検討をさせていただきたく思います」
 と、リキュールが席を立とうとしたとき。
「脱走だー!!!」
 大声が響いてきた。

 少し前。
「チェリア様、助けに来ました!」
 泣き落としでメイドとして雇ってもらい、機をうかがっていたアレクセイがチェリア・ハルベルトが囚われている動物小屋へと走り込んだ。
「くっ、新入りか。可愛い顔して、何を企んでいる!」
 屈辱的な顔で、チェリアが睨んでくる。
「俺です、アレクセイです!」
 ワンワン吠えてくるフェネックたちを退け、アレクセイはチェリアに近づくと、彼女の拘束を解いた。
「アレクセイ!? 見違えたぞ、何て可愛らしく」
「いえそれは……チェリア様のためです。決して趣味ではなく。さあ、行きましょう」
「しかし、人気のない私なんて戻っても……」
「チェリア様には俺が居ます。俺が他の人の何倍も何十倍……いや、何千倍も貴方を愛します!」
 チェリアの手を取り、ぐいっと引っ張り立たせた。
「さぁ、俺と一緒に逃げましょう!」
「……アレクセイ、その前に聞いてもいいか?」
「なんでしょう?」
「お前の主は誰に入れた?」
「……なんのことでしょう」
「1アカウントにつき1票しか入れられないあの投票のことだ」
 チェリアは真剣な目でアレクセイを見ている。
 アレクセイはごくりと唾を飲んだ。
 ここでチェリアと言えば、タチヤナに迷惑がかかる――ような気がする。
 チェリアにいれたか、いれなかったか、投票自体していないか……それを証明する方法などない。
 誤魔化す、誤魔化すしかない!
「チェリア様、この世界に生きているのは俺です。異世界の住民のことなど、気にすることはありません! さあ、行きましょーう!!」
 チェリアの手を引いて、アレクセイは小屋から飛び出した。
「脱走か!?」
「逃がすな! 俺たちのメイドを逃がすな!」
「ボクのメイドちゃーーーん。ボクたちを捨てないでーーーー!!」
 使用人たちが必死になって追いかけてくる。アレクセイを。
「チェリア様は渡しません」
「それはどうでもいい。メイドちゃん、君は天使だ。ここから出て行かないでくれー」
「俺は男です」
「それもどうでもいい!」
 男たちがアレクセイに追いすがってくる。
「……アレクセイ、手、離してくれた方が逃げられそうなんだが」
「ダメです。この手は離しません! 人の恋路を邪魔する汚物は消毒だ!!」
 小屋の入口においてあった清掃用具を降り回し、群がる男たちに汚物を飛ばしていく。
「行けーーーー!!」
 どどどどどどどどどどどどと足音が響いてきた。
 髪をなびかせ、鬼のような形相で現れたのは全身甲冑にタワーシールド、及びヘビーメイスを携えたリンダ。
 凄まじい速さで接近する、燃えるような赤い髪、嬉々とした顔、ギラギラ血走った眼!
「ぎゃあああああああああー!!」
「うああああああああああーーー!!」
「化け物ーーーーーー!!」
 リンダが武器を振るより早く、男たちは恐怖のあまりバタバタと倒れていく。
「……」
 倒れて泡を吹いている男たちを見おろし、リンダは呟いた。
「遅効性の毒でも飲んだか?」

 一方、グレアムたちはサーナたちと会った場所まで戻ってきていた。
「レジャー施設を建設予定とのことでしたね」
 サーナたちは休憩所にいるようで、現在は作業は行われていなかった。
「そうだ、良かったら私たちも手伝いません?」
 ルティアはグレアムたちにそう言うと、休憩所に向かっていき協力を申し出て、戻ってきた。
「はい、グレアム様も」
「え?」
 借りてきた大きなスコップをグレアムへと渡す。
「これも立派な視察ですし、どうせなら、敵対関係よりもこちらの方々と仲良くなれた方が良いじゃありませんか」
「賛成ー! 作業後は温泉に入りましょう♪」
 タチヤナも大賛成だ。
「そうですね……秘宝館が気になりますが、友好関係が築ければ、争わず古代のアイテムを回収できるかもしれませんしね」
 ということで、温泉造りを始めた一行。
「あっ、でも何か音が……」
 響いてくる足音に気づき、タチヤナがそちらに向かうと……。
「ターニャ! グレアム様、ちょうど良いところに!!」
 チェリアの手を握りしめ、駆けてきたのは兄、アレクセイだった。
「兄様、チェリア様を救出されたのですね。あとは任せてください!」
「頼みます。この武器を使ってください」
 アレクセイは持っていた掃除用具をタチヤナに渡し、後方に向かって叫ぶ。
「チェリア様より票の多かったグレアム様がここにいると!? 人気のあるグレアム様が!?」
 そうして追手をグレアムに押し付けて逃走を図る。
「そんなことはどうだっていい、メイドちゃーーーん!!
「僕たちを置いていかないでおくれ~~~~」
 しかし追手はグレアムには興味がないようだ。
「グレアム団長には指一本触れさせない、兄様たちも追わせない! 私が相手になる」
 タチヤナは武器を降り回しながら、追手に向かっていく。
 ぼとっ、びちゃ……。武器から何かが飛び散る。
「って、この武器!?」
 動物小屋の前に置いてあったその清掃用具とは……ペットのフンキャッチャー、ロングタイプであった。
「ぎゃあああっ!」
 顔に強烈な(臭いの)一撃(フン)を浴びた男が悶絶する。
「美形帝国騎士として、この武器はどうなの!?」
 タチヤナは戸惑いながらも、攻撃の手を緩めるわけにはいかない。
「美形の男は敵! 容赦しないぞ!!」
 男たちも武器を手にする、濡れた便所タワシとラバーカップ、美形潰し最強の武器だ。
「待って! 私女なんだけど、何で兄様には使わなくて、私に!?」
「嘘をつくな!」
「その顔、汚してやるーーー!!」
「きゃー、やめてー!! で、でもグレアム様を汚させるわけにはー!!」
 タチヤナは振り上げると何か落ちてくる武器を振るって応戦。
 血ではない飛沫が舞い、見るに耐えない壮絶な戦いが繰り広げられる。
 
「グレアム様、お疲れ様です」
「お疲れ様。いい湯でしたね」
 作業後。ルティアとグレアムは温泉街に行って、温泉に入り、部屋で乾杯をしていた。
「こちらのお湯、お肌がすべすべになるんですって。こういうのは性別関係なくお得ですね」
「そうですね。定期的に利用したいものです」
 ソファーでくつろぎながら、微笑み合う。共にほんのりと顔が赤くそまっていた。
「……しかし、タチヤナ遅いですね」
「どうされたのでしょうね」
 タチヤナはこの場には来れなかった。そう、彼女のコーヒー牛乳な夢は潰えてしまったのだ。
 しかし後に彼女は凄惨な汚れ役を担った功績により、ハルベルト家の大浴場貸切、マッサージ付きの特権を得ることとなる。

●レイザ第三の人?生
「レイザ、今だ、薙ぎ払え!」
 ロスティン・システィックが言うと、ゴーレムが口から火を吐いて、迫りくる者達(の服を)一掃する。
 リッシュ・アルザラを捕らえに訪れた者たちは、遭遇する人々を文字通り丸裸にしながら、王城(という名の小屋)に向かっていた。
「なんていうかさ。レイザの今の姿なんだけどさ。――うん」
 ロスティンはレイザ――ゴーレムを見上げながら、不思議な感覚に陥っていた。
「帝国で造っていたのより小型だし、俺は初めて見るはずなんだけどさ。この寸胴鍋みたいなボディ見てるとさ」
 眺めながら、ロスティンは顎に手を当てる。
「前世というか魂のどこかが『ぱわーdoすーつ!』と謎の言葉で騒いでいるんだ。……なんだろうね」
「ああ、パワスーか、あの姿は笑撃的だったな」
「ん?」
 どこかからの声にロスティンは振り向いた。しかし、誰の声かわからなかった。
「とりあえず作戦はレイザが彼女の服を燃やして無力化した所を確保でいいんだよな! 捕縛の縄は俺に任せてくれ!」
「どうぞー」
 ロスティンは縄を仲間から受け取った。
「……ありが……………」
 縄を渡してくれた相手を見たロスティンの顔が凍りつく。
「リッシュさんって、綺麗で魅力的な方だそうですよ。ああ、会ったことありますよね、私たち」
 にこにこ微笑んでいるのは、エルザナ・システィック。ロスティンの妻だ。
「そ、そうなんだ。覚えてないなぁ。というか、エルザナちゃん、船に乗ってたっけ? 乗ってなかったよね?」
「乗ってませんでした。帝国の小型魔導船で来ましたので」
「そっか、そっか。こ、これはさ、帝国の重要な任務なんだ! つまりこれはやりたくなくてもやらざるを得ない、ドウシヨウモナイシゴトナンダヨ」
「何故片言に? そうですよね、リッシュさんはどうしても捕らえなければなりませんよね。無傷で捕えるのに服だけ燃やすのは有効かもしれませんよね。で、何故ロスティンさんが縛る役に立候補を?」
「レイザは縛るの無理だし、他のメンバーはパワーありそうだから、取り押さえる役。となれば、俺が縛るしか。エルザナちゃん、何その疑いの目は? 裸狙ってるわけじゃないよ、ほんとだよ。そんな作戦知らなかったころから、同行するつもりだったよ?」
「それが行われる前に、ロスティンさんが捕縛に成功すればいいだけのことですよねー」
「あ、うん、そうだねー。当然そのために来たんだ。頑張るよ……」
 ロスティンは心の中で肩を落とすのだった。
「待て」
 温泉街の方向からやってきた男女が、一行の前に立ちふさがった。
「レイザ……なのか?」
 真面目な顔つき、目に涙を浮かべて、少年――ヴォルク・ガムザトハノフがゴーレムの姿のレイザに近づいてくる。
「ソンナオトコハシリマセン」
 感情のない機械音声がゴーレムから発せられる。
「誤魔化さなくてもいい。全部聞いている」
 ゴーレムに近づいて、ヴォルクは平で硬いボディに頭をコツンとつけた。
「死んだと、思ってたんだぞ……」
 彼の声と肩は震えていた。
「ヴォルク……」
 ゴーレムが、大事な教え子の名を呼ぶ。
「俺、魔法凄く上達したんだぞ」
「お前は努力家だからな。問題児だけど」
 二人の様子を見守る女性――メリッサ・ガードナーも、肩を震わせ、口元を手で押さえている。その眼には涙が浮かんでいた。
「メリッサ、守ってたんだぞ」
「そうか、幸せにな」
「ねえ……レイザ、くん……」
 メリッサの声が響いた。
「なんで、そうなるの……」
 感動――ではない、彼女目に浮かんでいるのは、怒りの炎。
「ほかの女の子の身体がどうのこうの……服だけ燃やして無抵抗に? ふーんセクハラ発言上等だね。そーゆーの言うとき、私のことまっっったく思い出さないの?」
 低く、ドスのきいた声。
 体はわなわなと怒りに震えている。
 ゆらりと、彼女の体が動き、ゆっくりとレイザに近づいてきた。
「ずーーーっと思ってるんだけど、私たちの関係って結局なに? はっきりさせる気ないの? 私、昏睡2回もしてるんだよ?」
「隠れよう、エルザナちゃん。他の皆も早く!」
 危機を察したロスティンがエルザナの手をとって逃げる。
 ラルバ・ケイジや、他のメンバーも退避した直後。
「レイザ!」
 ドン
「くんの!」
 ドン
「せいで!」
 ドン
 岩壁が三方を塞いだ。
 ゴーレムには飛行機能があるが、飛び越えられる高さではない。
「待てメリッサ、落ち着け……!」
 じりじり後退するレイザ。しかしすぐに、壁に背がついてしまう。
「しかも半NPCって実質参加できないだけの、な~んの面白みもない状態だったんだけど!」
 ドン
 メリッサの右手が、レイザの後ろの壁につけられた。
「責任とる気ないの!?」
 ドン
 左手も壁に打ち付けられる。レイザは彼女の両手の中に挟まれた。
 冷汗が流れ……ない。だってゴーレムだもの。
「ねぇ……言えるよね? 私のことどう思ってるのかちゃ~んと言えるよね?」
 メリッサの顔が、ゴーレムレイザに近づく。
「積年の想い、素直な言葉にしてみようか?」
 すっごい笑顔だ。超笑顔なのに、何故か恐怖を感じるほどの迫力があった。
「メリッサ、いいか……」
 ゴーレムから発せられる声は、相変わらずの機械音声。
「お前のことを、どう思っていたか本当に伝わってないのか?」
「言ってほしいの!」
「す、すまなかったと思っている」
 それはメリッサが聞きたい返事ではない。
 メリッサは「で?」とにこやかに聞く。
「申し訳ない。それがお前に対しての俺の気持ちだ」
「そういうんじゃなくてね。他に言うべきことがあるんじゃない?」
「嘘はつきたくない。ストレートに言ったら、お前傷つくだろ? 知らない方が幸せなことだってあるんだ」
「……ふーん、傷つくような関係なんだ? 聞きたいなあーーーーーー」
「レ、レイザ、地面が小刻みに揺れている、大地震の前兆か? 何があった? 説明しろ!」
 壁の外からラルバの声が響いてきた。
「わかった、話す。だが文字数を食いすぎる、シナリオ形式にするぞ」
 そしてレイザ(以下レ)は、メリッサ(以下メ)とのことをラルバ(以下ラ)たちに話し出す。

レ:まず俺が、女性の裸に興味があるのは、継承者の証を持つ女性がいないか探しているからだ。タイハナイ。
メ:……今は、探す 必要 な い よ ね?
レ:で、そういった目的で、露天風呂を造っている時に、彼女と出会った。それでお互いに興味を持つようになって、初めてのデートの約束をした。
メ:ん?
レ:その時、こいつ男に不安漏らして、男連れで来たんだ。手まで繋いで。
メ:なんで嘘つくの!?
レ:ホントのことだろ。彼女はその後も俺のことを好いてはくれているようなんだが、いろいろ考えすぎているせいか、俺の求めに真っ直ぐ応じてもらえなくてな。
メ:うーん。(不服そう)
レ:俺は他に手段もなく、自分を犠牲にしてマテオ・テーペを守る方法を選ばざるを得なくなった。だが俺には自分の運命を恨む負の感情もあった。俺のことを好きだと言ってくれて、心を落ち着かせてくれる彼女に、お前のすべてが欲しいと、他の誰のことも、何も見ずに共に来てほしいと求めたんだ。切実に。
ラ:なるほど。
レ:了承してくれた彼女に惚れかけた。しかしな……。その直後、彼女は他の人を抱きしめ、愛の告白をしていた。
メ:するわけないじゃん? でたらめなことばかり言わないで!!
レ:宴会で酔っぱらってストリップを始めたこともあって、俺の心は惚れるとは反対の方向に……。
メ:してないし、覚えてないし……て、それ担当者さん別でしょ!? 事実だとしてもノーカンのはず!
レ:知らなくても、お前のそういう気質や想いを感じ取ったわけだ、最後の時に。
ラ:最後?
レ:マグマの中、生きることを諦めて死ななければならなかった時。他に愛し合っている人たちがいるメリッサを、本当に連れていっていいのか、苦しんで、弱っていた最後の時に、俺をひどくなじる想いが届いた。愛する彼女を守ろうと最初のデートの時についてきた男からだ。
メ:……? なにそれ知らないんだけど。
レ:打ち砕かれた俺の心は、彼女に生きたかったと止めを刺された。俺はフラれたんだ。
メ:お願い、読んでいる人が誤解するようなデタラメばかり言わないで……!
ラ:嘘なのか?
レ:すまん……嘘ではないが、彼女を愛する男っていうのは、ガキだ。メリッサはその子の保護者だな。
ラ:子ども!? お前、子どもから保護者を奪おうとしたのか? 育児放棄させて、心中しようとしたのか。最低だな!
レ:そうだ、俺のせいだ。だから、すまん。申し訳ない。本当に悪かった。それが俺の彼女に対しての想いだ。
メ:私を求めたことが間違いだったって言いたいの?(悲しみ)
レ:? 俺のせいってお前も言ってたじゃないか。
ラ:うん、子連れの女性をそそのかしたレイザが悪い。
レ:こちらに来てからもな……彼女は他のものたちに愛情を持ち、俺が教えた秘密の濃厚キスの手ほどきをしたり、抱きしめたり、一緒に風呂に入ったりしててな。彼女の好きなものはより増えていき、俺の心はさらにズタズタに。
メ:相手は恋愛対象じゃないし、とうかまさか、レイザくん小動物にも妬くの!?
レ:俺、他の男に恋愛感情を持つな。恋愛対象として俺だけを見ろと言ったわけじゃないよな。大体な、あいつには「メリッサの胸は俺だけのものだ、そこをどけ!」と言ったんだが、「メリッサちゃんのおっぱいはボクのもの。どっかいけー!!」って抵抗しやがって。
メ:……あの時、そんなやりとりが!!
レ:大体これはなんだ、反則だろう、このもふもふ感は! くっ、俺だって抱きしめたい、抱かれたいって思っちまっただろ!? 俺の書き手は完璧に落ちた。こんなのに勝てるわけがない、勝てるわけないだろう!?
メ:レイザくん……夢のことまで……。
ラ:……うん、まあ大体わかった。お前たちのすれ違いっぷりが。だが、はっきりさせておいたほうがいい。レイザは、彼女が好きなのか?
レ:それはもちろん。
メ:ちゃんと言葉にして!
レ:メリッサ……俺はお前が大好きlikeだ。
メ:う……っ、機械音声だから感情が感じられないはずなのに、なんだか喜べない……。
レ:それで正史では、俺はお前の願いを叶えてお前を幸せにするために生まれたわけだ。
メ:ソレ、逆だよね!? レイザくんの願いを叶えるために、私、産むことにしたんだよね?
レ:俺視点ではそうなんだよ。で、お前俺と結婚するのか?
メ:この流れから、どうしてそういう話になるの!? 全っっっ然わかんないんだけど。結局さ、私たち恋人未満だったってことでしょう?
レ:そうなのか? むしろ俺はお前に聞きたい。俺たちの関係って何だ? 俺の部屋で、ここで出来ることなら何でもするって言ったことがあったよな? メリッサから求められていれば、あんなことやこんなこと、結婚誓約書に署名でもしてると思うんだが。
メ:私からプロポーズしてたら、婚約してるってこと?
レ:それはない。双方の合意で結婚は認められるだろう。しかし、多くの人が納得して喜んでもらえる状況じゃないと、婚約の儀式が行えない。
メ:んん? レイザくんってもしかして、皇族!?
レ:似たようなものだな。世界のすべての魔力を治める王候補だったし。
メ:それさ、それ私と結婚したいってこと? 身分が高くてもなんでも、心に決めた人がいるのに、他の娘の身体はもらうとか、中に入るとか、服だけ燃やして無抵抗にとか、そういうこと言えちゃうのは何で!?
レ:それは、あいつとは(魔力の)相性が合う。あいつの中は居心地がいい。俺にはやり残したことがある、いつかあいつに子どもが出来れば……。
メ:体の相性が合うとか、中が気持ちいいとか、ヤり残したとか、子作りとか、そういう関係なんだ!!
レ:どうしてお前の脳は、そっち方向に変換するんだ……。
メ:許さない、結婚なんかしてあげない!

「いいのかメリッサ。お前このシナリオで挿絵イラスト化予定だぞ」
「イラスト、化……?」
 レイザのその言葉に、メリッサの表情が固まった。
「前作でもされてないから、ツインになるかもな。迫力全開で壁ドンしてるお前と俺」
「そんなこと聞いてない。知ってたら、もっとお洒落してきたのに、メイクにだって時間かけたのに」
「それより、想像上の花嫁花婿姿の方が良くないか?」
 今のレイザは帝国製ゴーレムである。ずんぐりした形で足はない。
「はっ、レイザくんなんて姿なの!?」
 更に、クソまみれであった。
「レ、レイザ、お前落書きされてるぞ」
 壁の隙間からレイザの姿を見たラルバが、笑いをこらえている。
 魔鬼愚鼠まきぐぞを始めとしたありとあらゆる種族の糞から、ありとあらゆる汚いもの、不気味なものが描かれている。そして『バカ』から始まる、ありとあらゆる悪口。中傷の言葉が油性ペンで書かれている。あまりに酷くて言葉には出来ないレベルだ。
 そう、コレと一緒にイラスト化されていまうというのだ、メリッサは。
「見たかフルチン全裸男! 貴様を更にイカす姿にしてやったまで」
 わははははと笑いながら、ヴォルクはレイザから離れた。
「ヴォ、ル、ク……」
 レイザの機械音声が怒りに震える。
「いつのまに」
 驚いているメリッサにレイザは静かに言う。
「メリッサ、あの時立場上手が出せない俺を、ボコボコにしたのはコイツだ。更にこの男、ルース姫に使命よりマテオをとることを優先させてマテオの結末を変えたが、カナロの結末もこいつの選択と考えが決定打となっているそうだ。恐らく将来は帝国と対立して、繰り返される歴史の根源となる男だ。そして俺は2000年後、再び痣を持って生まれるかもしれない」
「そんな……ヴォルク、くんが……」
「俺は立場(NPC)上奴を倒すことができない。しかしお前(PC)ならば別だ。互いの未来のために、一緒に魔王を倒そう。行けメリッサ」
「メリッサ」
 つぶらな瞳で、ヴォルクはメリッサを見つめる。
「わかった。メリッサがそれで幸せになれるのなら。好きにしていいぞ」
 構えもせず、ゆっくりとメリッサに近づくヴォルク。
「……どう、すれば」
 メリッサががくりと膝を地についたその時。
「なんて、言うわけないだろう、バーカバーカ、バーカ!!」
 メリッサに腕を回すと、ヴォルクは強力な風の魔法を次々にレイザに打ち込む。
「キサマは未来永劫俺様に勝てぬのだ!」
 そして笑い声を残して、メリッサを連れて飛び去っていった。

「レイザ、大丈夫か?」
 ヴォルクの攻撃で、岩の壁はバラバラに砕け散っていた。
 その中に、ボロボロのゴーレムがあった。
 まずラルバが近づいて状態を確かめる。
 酷い落書きをされていたが、ボディは一応無事なようだ。
 ゴーレムは、ギーゴーと音を発しているが、何を言っているのかはわからない。
 恐る恐るロスティンも近づく。
「音声装置が壊れたのか?」
 イエスというように、ギーと音が響いた。
「これ、落ちないぞ。どうすんだ?」
 ラルバは布で落書きを消そうとするが、まるで変わらない。
「このまま行っても、相手を笑わすだけだしなー。一度戻ろうか」
 ロスティンはエルザナの様子を伺う。
「そうね、それがいいんじゃないでしょうか。いっそのこと、このゴーレム捨てていってもいい気がしてきました。私とロスティンさんも彼のせいで、何度も死にかけましたしね」
「そうだな、ルルナが重体に陥ったのも、コイツの痴情のもつれが原因だったということだしな。異議はない」
「それはあまりにも……」
 ロスティンがレイザを庇おうとしたその時。
「話は聞いたよ!」
 マテオ・テーペで人工太陽の射出に携わっているオーマ・ペテテとマテオの魔法研究所の研究員、エリカ・パハーレが近づいてきた。
「なんてひどい姿……」
 エリカは肩を震わせている。笑ってはいけないと思うのだが、クソまみれ、悪口だらけのゴーレムの姿はそれはもう笑撃的で。
「これ、ゴーレムを使って運んできたんだ」
 オーマはかぶせてあった布を取り払い、皆に見せる。
 大砲のような魔法具だ。
「こ、これはより効率的に火を放ち、丸裸に出来そうな……あわわわ」
 ロスティンは隣にエルザナがいることを思い出し、口をつぐむ。
「これは、小型化した人工太陽射出機」
 エリカが言い、オーマが説明を始める。
「障壁がかなり狭まったんで、射出機も小型化したんだ。レイザ、身体を失ったんだってね? レイザは僕を月の打ち上げに推薦してくれたんだから、今度は僕が支援する番だよ」
 慈愛に満ちた目で、オーマはボロボロのゴーレムを見ていた。
 エリカは笑いをこらえて、涙目になっている。
「これはレイザも人工太陽を打ち上げる事を何度も協力した装置。つまりレイザの魔力が何度も通っており、彼との親和性は高いと断言できる」
 キラキラ目を輝かせながら、オーマは語る。
「新たな肉体と、人のためになる使命、そして当面はプラネタリウムとして皆に娯楽を提供しようよ?」
「つ、つまりこれにレイザの魂を移す、と?」
 ロスティンの問いに、オーマは「うん」と強く頷いた。
「このかりそめの身体も、こんなになってしまったし、身体が無いなんて、ホント不憫だと思う。僕は、彼ならマテオの最後の日までいっしょに明りを灯してくれると信じているんだ」
「いいんじゃないかしら」
「なるほど、身体を失っても、いや、失ったからこそ、マテオの人々のためになれるってことか。良かったなレイザ」
「いいんだね? それでいいんだね?」
 エルザナとラルバが賛成し、ロスティンはこれでいいんだろうかと少々疑問に思いながらも、レイザの精神を留めてあるコアを、人工太陽射出機へと移したのだった。
「それじゃ、レイザ、試運転だー!」
 オーマにより、空に光の弾が打ち上げられる。射出の際には『ウォォォォーン』という機械音が響き渡った。
「レイザ、嬉しいんだね。良かったね」
 そうして、レイザ・インダーは新たな人?生を歩み始めたのだった。めでたしめでたし。

●エピローグ
 アルザラ1号に乗って訪れた者達が船に戻った時。
「いいわよー。好きにしなさーい」
 レイニ・ルワールレザン・ポーサスが土産に持ってきた度数の高い酒を飲んで、酔っぱらっていた。
「それじゃ、しばらく俺、ここで潜入調査するな。あ、この船は姐さんに代わって、一旦本土まで無事に送り届けるからさ」
 二人の間で交渉が成立していたようだ。
「レイニさん、俺たちからはこれを」
 バートとピアもお土産のフィッシュパイをレイニに渡す。
 他の者達も、機嫌をとるかのように、次々に島で買って来たものをレイニに差し出していった。
「ありがと~。今夜は宴会よー♪」
 真っ赤に染まった顔で、嬉しそうにお土産を受け取るレイニ。
「皆戻った? さあ、本土に向けて、出発進行ー!」

 こうして第一次親子喧嘩は不発に終わったのだった。よかったね!

 continue?(ノベルでどうぞ)


●個別連絡
ラトヴィッジ・オールウィンさん
またラトさんにお会いできてうれしいです!
この続きはお部屋で2人きりで楽しんだのではないかと~。

アレクセイ・アイヒマンさん
チェリアを助けに来てくださりありがとうございます。
タチヤナさんのご活躍により、無事逃げ延びたものと思われます。
この後も追手に(アレクセイさんが)苦労しそうですが!

タチヤナ・アイヒマンさん
汚れ役?をお引き受けありがとうございます。
決して絵には出来ないシーンとなってしまいましたっ。
シナリオに合わせた楽しいアクション、心より感謝いたします。

ルティア・ダズンフラワーさん
暴走しかねない一行をほのぼの路線へと導いてくださり、ありがとうございます。
お陰さまで、グレアムのキャラ崩壊は免れました~。
この日は秘宝館には寄れず、帰還になっていそうです。次(シナリオとしての続編はないですが)は視察という名の観光目的で1日楽しんでいただけたらと思います。

メリッサ・ガードナーさん
メリッサさんのことがわからなくなりすぎて、どう描写すればPLさんに受け入れていただけるのか分からなくなってしまっていました。
このシナリオでのイラスト化については冗談ですが、結婚についてはした(現実)としていただいても大丈夫です。


ヴォルク・ガムザトハノフさん
エーすきとか可愛すぎて、想像でもだえてしまうのですがっ!
パパになるかもから言葉を発せられるまで……日々、大変なことも沢山あるかと思いますが、月日が流れるのはホント早いですね。
マイさんのアクション? いつも楽しませていただきました。ありがとうございました。
……って何か違!? あ、ヴォルクさんのアクション欄ね、カナロで担当させていただいたのはわずかですが、毎回のように担当マスターからご相談をいただいていたので(主にオリジナル魔法可能かどうか)拝見していたんです! お世話になりました。

ピア・グレイアムさん
カオスルートから、バートを連れ出していただく形となりましたが、あの場にも加わりたかった場合はごめんなさい!
ピアさんと温泉デートが楽しめてバートも嬉しかったです。

ウィリアムさん
そして会場には、主催者としての立場より、メイドとしてもぐりこんだ方がいいと、アーリーを誘いだしてくれるのですよね!?
しかしこのイベントの参加者、女性(腐女子)中心かと思うので、ウィリアムさんの身の安全(アーリーの嫉妬の炎による)の保証ができません。
ところで本編の方で、もう1人ウィリアムさんがいたらなーと、よく思っていました。セカンドPCもいたら、本編の流れや結末、随分変わっていた気がします。
最後まで本当にありがとうございました。

リュネ・モルさん
アクションを他人に書いていただくことはご遠慮いただいております。ご理解の程……あ、猫は人じゃないからいいのかな。
柔らかな巨大パイに包まれ、至福の時を過ごしたかと思います。
この後も宮殿での夢のような一時が待ち受けていることでしょう。
うふふ、ご参加ありがとうございました!

コタロウ・サンフィールドさん
ベルティルデとほのぼの過ごす姿に、和ませていただいておりました。
彼女はこれから普通の人として、コタロウさんとイベントを楽しんだり、旅を楽しんだりするのでしょうね。
そんな穏やかな日常を思い浮かべると、心が温かくなります。
いつもありがとうございました!

オーマ・ペテテさん
ナイスです!
レイザはレイザ・プラネタリウムに改名すればいいと冷泉さんが仰ってました(笑)
エリカは私には分からないので、もし彼女とのノベルを何か希望される場合は、是非冷泉さんにご依頼くださいませ~。

ロスティン・システィックさん
くっ、ロスティンさんがターゲットを縛る姿書けなかった。
……エルザナの目の前で出来たでしょうか?
レイザにご同行いただき、ありがとうございました。
エルザナと温泉シーンも書きたかったー。ただ、コメディなので肝心なシーンでサルが乱入してきて~みたいな展開になってたのかな。

カーレ・ペロナさん
レジャー温泉施設で遊べる展開も捨てがたかったなぁと今思います。
魔法による大波コース、大渦コースとか、ダイビングとか。ピラニア入りコースとか、溶ける水着とか……!
ビルが大地震で壊す前に、楽しめるといいな。

マーガレット・ヘイルシャムさん
最後が、こんなアクションだなんて……最高です(笑)
リアリティのある話が書けそうですよね。
エリザベス先生の新刊楽しみにしています!

リキュール・ラミルさん
この後どんなふうに取引が進んだか不明ですが、ポワソン商会の拠点はできていそうな気がします。
リキュールさんの裏取引、イメージと少し違ったかもしれませんが、楽しませていただきましたー。ありがとうございます!

リンダ・キューブリックさん
暴力的なことは起きずに、穏便に!? 解決……には至ってなさそうですが、とりあえず人質は解放されたようです。
そういえばこの国、騎士や武装兵いないと思うので、2メートル超、全身武装のリンダさん、さぞかし怖かったかと。
何事かと介抱するリンダさん→目を覚ましてリンダさんを見て気絶or死んだふり
なんて続きが思い浮んでしまいますー。

ユリアス・ローレンさん
ルルナを構ってくださり、ありがとうございます~~~。嬉しいです!
ラブもいいですけれど、こういう風に同世代で楽しく過ごすのもとてもいいなと思いました。

イリス・リーネルトさん
もともと可愛いイリスさんが幼児化した姿(イメージ)と不安そう目に、私もリックもぎゅっと抱きしめずにはいられない気持ちでした。
リックも子ども化して、噴水で水遊びなんかも楽しそうですー。
ご参加いただきまして、嬉しかったです。ありがとうございました。

●マスターより
こんにちは、川岸満里亜です。
最後の通常シナリオにご参加いただき、ありがとうございました!
このIFの続きを楽しみたいという方がいましたら、ノベルの方で承ります。その際には、タイトルにIFが入ります。
実際の出来事ではないIFですから、何通りの展開、結末があってもいいのではないでしょうか!
ただ、担当外NPCの登場については、厳しいかも……。

アトラからご参加いただいています方も、カナロからのご参加の方も、本当に本当にありがとうございました。
全て終了後もまた、どこかでお会いできますことを楽しみにしております。