お正月、何をしてますか?
●初詣
正月三が日の土無銅流神社は、とにかく混雑する。
迷子、急病人や落とし物に始まり、ぶつかっただの目が合っただののトラブルも頻繁に起こる。
その対処のために地元の交番から警察官が派遣されていて、その中にリンダ・キューブリックも入っていた。
濃紺の機動隊出動服、防弾チョッキ、警棒、ライオットシールドという神社にそぐわない物々しい出で立ちも、ここ数年ですっかり初詣の風物詩の一つになった。
始めは異様なものを見る目を向けられていたリンダも、今では子供が手を振ってくるほどに馴染んでいる。
彼女の傍にいれば安心と迷子預かり所にされたり、目立つからと待ち合わせの目印にされたりといった具合だ。
仕事であるから様々なトラブルに対処するのはかまわないが、リンダにもこの仕事において耐え難いものはある。
足元から忍び寄ってくる寒気だ。
基本的にじっとしているため、かなり体が冷える。
むろん、どんなに寒くともそのような姿はおくびにも出さない。
ところが、そういったものを見抜く力でもあるのか、リンダの手が冷たくかじかみそうになる頃、温かい甘酒を差し入れしてくれる氏子のお年寄りが現れるのだ。
「さっきは大変だったわねぇ。正月早々酔っ払い同士の喧嘩を止めに入ったりして。怪我はないかい」
「これでも飲んで温まりなさい」
「おまわりさん、すっごく強いんだね!」
子供も混じって、リンダが立つ監視台の周りでおしゃべりが始まる。
「交代はまだなのかい? もう昼が過ぎたぞ」
「もう少しだな」
答えたリンダに、尋ねた爺さんは心配そうな顔をした。
「甘酒だけで大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない」
爺さんが今にも商店街へ走り出しそうだったため、リンダはそう言って引き止めた。
やがて周りに集まっていた地元の人達もそれぞれに散っていくと、次に定期的に呼びかけている防犯メッセージを拡声器を使って読み上げる。
リンダのハスキーで大きな声は人々の喧騒にも負けずに響き渡っていくが、無愛想な棒読みにびっくりして泣き出してしまう赤子もいる。
腕時計は、交代まであと三十分ほどだということをリンダに教えた。
ふと、空に目をやる。
どこまでも青く澄み切った、清々しい冬空が広がっていた。
これは幸先が良さそうだ、とリンダの口元に薄い笑みが浮かぶ。
そして前に読んだ小説の一節を思い起こした。
「神は天にいまし、すべて世はこともなし……か」
どこからか飛んできたトンビが、悠々と円を描いた。
●初詣に行く
アウロラ・メルクリアスは社務所から出て、参拝客の誘導を始めた。
「はい、押さないでー。二列に並んでくださーい」
そうは言っても、混み合う時間帯だ。四列、五列になってしまっている場所もあれば、二股に列が分かれかけている場所もある。
「はい、こっちこっちー。もうちょっと詰めてくださいねー」
アウロラの誘導に大人しく従っている参拝客は多いが、声の届かないところは隊列が乱れる。アウロラは白い息を吐きだしながら、列の形を整えていく。
「いやー、毎年のことながら人が多いね」
コタロウ・サンフィールドはベルティルデ・バイエルの隣で腕を組んで上下に震えている。その後ろには、バリ・カスタル、ジスレーヌ・メイユール、カサンドラ・ハルベルトの姿もある。もちろん、彼らの前も後ろも、どこかで見たことのあるような顔がずらりと並んでいるわけではあるが。
「これも毎年の台詞だけど……もっと早朝から来たほうが良かったよね」
「そうしたら、今よりももっと寒いですよ?」
ベルティルデがニコっと微笑んで小首を傾げた。
「確かにそれもそうだね」
コタロウは首肯して白い息を吐いた。
「それに、こんな風に話をしながら順番を待つのも一種の風物詩……という感じが無きにしも非ず?」
「そうですね。寒いから余計、この待ち時間も『ありがたみ』に変わるのかも知れません」
列が少しずつ前に進んでいく。
「そういえば、並んでいる列の中にも、犬を連れている人がいるみたいだね」
コタロウが二つ前に並んでいる柴犬を指さす。服を着せられてはいるが、それだけではまだまだ寒そうだ。誰かがリードを握っている手も見えている。
「ペット飼ってないけど、もし飼うとしたら、やっぱり犬かなあ?」
「いいですね。ちゃんと言うことを聞く子に育てるのが大変かもしれませんが……」
「手軽さなら金魚?」
「可愛らしくていいですね。ハムスターというのも可愛くていいと聞きましたよ」
「ハムスターかあ……」
階段を上る、2人の足。
「あっ、参拝の順番が来た」
「……お話していると、あっという間ですね」
ベルティルデが微笑んで、先に、ほいっと賽銭を投げ入れる。コタロウもそれに続いて賽銭を入れた。鈴を鳴らす。二礼、二拍。
『皆が、ずっと平穏無事でいられますように』
コタロウは目をぎゅっとつぶってそう祈った。最後に、一礼。
参拝の列から外れ、おみくじやおまもりが並ぶ社務所へと向かう一行。
「何をお祈りしたの?」
ベルティルデに聞くと、彼女は寒気に頬をうっすらと赤く染めて「内緒です」と微笑んだ。
社務所に戻ってきたアウロラは「こっちは温かくていいなあ」と思わず漏らした。整列の手伝いを1時間ほどやっていたが、今度は中の仕事に手が回らなくなったというのだ。
社務所に、コタロウたちがやって来る。
「すみません、おみくじ」
「あ、いらっしゃいませ!……ん、いらっしゃいませでいいのかな?」
「新年の挨拶だから『あけましておめでとうございます』だ」
チェリア・ハルベルトが小さい声で耳打ちをする。
「あけましておめでとうございますー」
アウロラは一行に頭を下げ、おみくじの入った箱を指す。
「おっ! 大吉!」
「わたくしは中吉です――」
楽しそうな声が境内に響いているが、アウロラはそれを微笑ましく見ている余裕もない。次から次へと押し寄せる参拝客の応対をしなくてはいけないのだ。
「すみません……その……おまもりを……」
ひときわか細く消え入りそうな声に目をやると、そこにはカサンドラの姿があった。
「あれ? カサンドラちゃん! おまもり?」
カサンドラは頭をコクコクと縦に振る。
「でも、カサンドラちゃんなら、わざわざ買わなくてもいいんじゃないの?」
カサンドラは土無銅流神社の神主、グレアム・ハルベルトの妹である。おまもりなどなくても、ご利益は充分に得られそうなものだが。アウロラの疑問に、しかしカサンドラは答えなかった。
「……何か緊急事態?」
実はおまもりを買うと見せかけて、何かを伝えようとしているのかと思ったが……。カサンドラはちらりとアウロラの目を見て、ゆっくりとおまもりを指さそうとした。薄桃色の、恋愛成就守。だが、途中で軌道が変わり、カサンドラは紫紺の学業成就守を指さした。
「いいの?」
カサンドラはまた小さく首を縦に振った。
「……私でよければ力になるけど」
アウロラの言葉に胸を膨らませたカサンドラだったが、学業成就守の初穂料である五百円をアウロラに差し出した。
「……ちょうどのお預かりです」
代わりに、学業成就守を渡す。
「ところでカサンドラちゃん、この巫女服どうかな? 似合ってる?」
アウロラの明るい言葉に驚いて、カサンドラが顔を上げた。
「お勤め中は私語厳禁」
チェリアが低い声で注意したので、アウロラは小声で「あとで一緒に写真撮ろう」とカサンドラに告げた。
ルティア・ダズンフラワーは、十二の花が描かれた振袖に身を包み、拝殿で手を合わせていた。
『神様、昨年はありがとうございました。今年もどうぞよろしくお願いいたします。――今年もどうか、幸せな事がたくさんある年になりますように――』
澄んだ新春の冷たい風が吹き抜けて、ルティアは目を開ける。少し晴れやかな気持ちになった彼女は、もう一度礼をして、拝殿に背を向けた。そのまま真っすぐ、彼女は社務所へ。今日神社に来たのは、もちろん神様への新年のご挨拶という意味もあるが、それだけではない。グレアムとチェリアに会いたいと思ったのだ。
『お会いできたらいいな……』
その思いが、彼女の足取りをしっかりとしたものにしていた。
社務所は混雑しており、何とか中でお勤めをしている人たちが参拝客をさばいている、というような状況であった。
「あっ……」
その奥に、グレアムの姿を見つけたルティア。だが、出来るだけ気付いていない風を装って、列に並ぶ。彼女の番がくる直前、受付の巫女が交代して、代わりにグレアムが応対に入った。
「グレアムさん、明けましておめでとうございます」
「明けましておめでとうございます。来てくださったんですね」
グレアムは微笑み、「どうなさいますか」と聞いた。
「家内安全の御札と、おみくじを」
「かしこまりました」
初穂料を納め、くじを引くルティア。
「……大吉、ですね」
思わず、笑みが漏れた。
「願事、叶う。待人、すぐに訪れる……」
新年早々、縁起がいい。
「グレアムさんはおみくじ、引かれました?」
「そんな余裕なくて……参拝だけはしましたけど。おみくじは明後日以降にならないと無理ですね」
グレアムは苦笑いを浮かべ、頭を下げた。
「こちら、家内安全です」
それから、白い封筒のようなものに入ったお札をルティアに手渡す。
「……グレアムさんにも良いことがあるといいですね」
「ありがとうございます。まずは、風邪を引かないように、ですね」
「寒いですものね。お体に気を付けて」
「……もう良いことがあったかも」
彼はにこりと微笑んだ。
「素敵な振袖をまとった女性に、心配していただけたこと」
後ろの参拝客も待っているからと、ルティアは「頑張ってくださいね」と一言付けたして、社務所を後にした。列から外れた人気の少ないところで、先ほど引いたおみくじをもう一度見る。それから恥ずかしそうに微笑んで、木に結わえた。
「……今年は、良い年になりそうです……」
もう一度拝殿を見て、小さく頭を下げた。
拝殿では、ナイト・ゲイルが静かに手を合わせている。
『今年も元気に、思うがままに突っ走っていきます! よろしくお願いします』
心の内に熱いものを滾らせた彼は、ニコリと微笑んで目を開けると、もう一礼。それから踵を返してまっすぐ社務所へと向かった。
「無病息災のお守りを1つ……って、チェリアさん」
「あけましておめでとうございます」
「こちらこそ、あけましておめでとうございます。今年もよろしく!」
ナイトの挨拶に、チェリアは優しく微笑んだ。だが、あくまでもお勤めの真っ最中、目元に少しだけ真面目さを残している。
「神社にいる時の服装って、なんというか不思議な感じだよな。巫女服とか、神主服っていうんだっけ?」
「装束、が正しいな」
「普段見ないからかもしれないけど、何というか、纏う空気まで違って見えるよ。似合ってる」
チェリアは少し恥ずかしそうに「ありがとう」と言うと、お守りを差し出した。
折角だから遊びに誘いたいところではあるのだが……。ナイトは振り返る。まだまだ参拝客の足は途絶えていないようだ。まだやらなければならないことも多いだろうし、無理は言えないな……。ナイトはくっと口を結んで、次の機会を待つことにした。
おみくじを引き、そのまま露店へ。おしるこをすすりながら、おみくじを開いた。
「お、大吉……めでたいな」
ナイトは読み進める。
「商売、行動せよ、利あり……」
首を傾げ、何やら考え始めたナイト。
「……そうか」
立ち上がり、残ったおしるこを一気に飲み込むと、木におみくじを結わえ、社務所へ。
「失礼します」
「……ん、どうした? 何か買いたいなら表から……」
困惑するチェリア。
「もし忙しいんだったらさ、俺、暇だからバイトとかするけど」
「急だな」
「今思いついた」
ナイトの笑顔に、思わずチェリアは吹き出した。
「中の仕事はひとまず回っているが……そうだな、働き詰めのやつもいるから、交代要員は必要かもしれない。神官用の装束も予備があるはずだから」
これで財布も温かくなるし、チェリアと一緒の時間も過ごせる。グレアムがナイトを手招きして、「着替え、こっちでお願いしますね」と彼を案内した。
ナイトも加わり、さらに盤石な体制で仕事を回せるようになった社務所。だが、アレクセイ・アイヒマンは社務所の隅で、巫女装束に身を包んで、未だに落ち着かない様子である。
「……もっと笑顔を。その服にその表情は似合わないぞ」
チェリアがアレクセイに苦言をこぼす。
「チェリア様のためですから」
「言い分は分かっているが……その服だって、本来男が着るものではないぞ」
アレクセイは、チェリアを盗撮しようとする怪しいカメラマンから彼女を守るためのボディーガード役。来るはずであろう男が、数時間現れていないのだ。
「……似合っていますか?」
ようやく彼が笑ったので、チェリアはひとまずそれ以上突っ込むのをやめた。
「とりあえず、その衣装をまとっている以上は、通常の社務仕事もしてもらう。声を出したら男と気付かれるかもしれないからな、できる限り控えること」
「もちろんです」
アレクセイの容姿を持ってすれば、一見で男か女かを見分けるのは難しい。
「……で、なんで付いてくる」
「チェリア様の盗撮を防止する、というのが私のお仕事ですから」
アレクセイは彼女の隣で、参拝客に甘酒を振る舞う。
その時だった。人影の中から、キラリと何かが光った。咄嗟に、アレクセイの体がチェリアの前に進み出る。
「!?」
「あ、すみません!」
カメラを構えていた男は、突然フレームインした笑顔のアレクセイに驚いて、無駄に連写する。
「男……?」
盗撮魔は一見女に見えるアレクセイからしっとりと低めの声が出てきたことに混乱を隠し切れない。
「当神社の巫女に対する無断撮影は禁止となっております」
アレクセイは甘酒を配っているテーブルを越えて、カメラマンに近付く。
「私の笑顔で我慢してくださいねっ!」
弾けるような笑顔でウィンクをして、彼を威圧する。だが、男もそれで黙ってはいない。
「そっ、それじゃあ無断じゃなけりゃいいんだな!?」
甘酒のテント周辺が騒然とする。
「チェリア様、お写真よろしいですか!」
チェリアは困惑し、助けを求めるようにアレクセイを見た。アレクセイはうなずく。
「すみません! 巫女様は『たいッへん』忙しいので! 撮影はご遠慮くださいね!」
アレクセイはチェリアの横に戻ると、社務所の奥、神社関係者しか立ち入りができないエリアへと向かって、彼女の手を引いて行く。すぐさま、代わりの巫女が飛んできて、甘酒の振る舞いを続けた。
「……すまない、助かった」
チェリアは頭を掻く。
「お勤めに戻らなければな……」
「まあまあ……少し休んでからでも問題ありませんよ。少しずつ参拝されている方も減ってきていますし」
そう言って、彼は紅茶を差し出した。
「……それより、今日のお勤めが終わったら、記念に私と1枚写真を撮ってくださいますか?」
「……盗撮男といいお前といい、気が知れんな」
チェリアは鼻で笑ったが、「終わったらな」と付け足した。
●アルディナ銀座の初売り
神社で初詣を終えたカサンドラは、偶然会ったユリアス・ローレンに誘われてアルディナ銀座へ赴くことになった。
いつも賑わっている商店街は、初売りでさらに賑わいを増していた。
あちこちの店舗から、威勢の良い呼び込みの声が響いている。
「わ……すごい人、だね……。神社も、すごかったけど……」
密集した人の流れに、カサンドラは圧倒された。
「さすが初売り、と言ったところでしょうか。カサンドラさんは、何か買いたいものはありますか?」
「ううん、特にないかな……。ユリアス君は?」
「僕はお茶の福袋を買いたいです。色んな種類のお茶が楽しめますから」
「なくなっちゃう前に、行かないと……ね」
二人は手を繋いで人の流れの中へ飛び込んだ。
もみくちゃにされながら目的のものを手に入れた時、ユリアスとカサンドラは不思議な達成感を味わった。
そのことが何故かおかしくて笑い合っていると、ユリアスの目に餅つき大会をやっている場所が入り込んできた。
「あそこで餅つき大会をやってますよ。せっかくですから、餅つきをやってみましょう」
そこでは、大人も子供も笑顔で餅つきを楽しんでいた。
順番待ちの列に並んだユリアスとカサンドラも、楽し気な笑い声につられて笑顔になり、列の先で餅つきをしている子供などを眺めているうちに、あっという間に順番が回って来た。
場を取り仕切っているマリオ・サマランチが、ユリアスに杵を持たせる。
あまり高く振り上げないようになどの軽い注意とやり方を教えられ、ユリアスは最初の一つきを臼の中の餅に行った。
マリオの返し手で、タイミング良く餅がつかれていく。
周りの見物人からは、杵の動きに合わせて「よいしょ!」という掛け声がかけられてきた。
カサンドラの番になった時、ユリアスは返し手をやってみたいとマリオに言ってみたが、残念ながらそれは叶わなかった。安全上の問題とのことだ。
その分、ユリアスは掛け声でカサンドラを応援し、一緒に楽しんだのだった。
その時ついた餅はおしるこになり、専用の広いテントの下で二人で並んで食べた。
「あったまるね」
「はい。それに、つきたてはとてもやわらかいですし、自分達でついたからか、もっとおいしく感じます」
「うん……いっぱい、伸びるしね」
餡のやさしい甘さに、二人は目の前の通りの喧騒も忘れてのんびりした。
そろそろ行こうか、とどちらからともなく席を立つ。
相変わらずな人混みに呑まれそうになりながら、おもしろそうな催し物や売り物を見つけては立ち寄っていった。
欲しいものは特にないと言っていたカサンドラも、いつの間にか何やら買ってしまっている。
ユリアスの戦利品の中には、たった今焼き菓子の福袋が追加された。
同じものをカサンドラも買っていて、家で家族と食べるのだという。
「……ユリアス君、お正月限定のたいやき……食べよう」
カサンドラが指さした先には、『正月限定めでたいやき!』と書かれた幟が立てられたたい焼き屋があった。
長蛇の列だが、おしゃべりしているうちに順番が回ってくるだろう。
少し離れたところから、お年玉くじ引き抽選会の当たりの鐘の音が響いてきた。
買い物と食べ歩きを繰り返しながら、二人は初売りを満喫したのだった。
「大ぉ当たりぃー♪ おーめーでーとうございまーすっ!」
調子の良い祝いの声が高らかに響き、同時にハンドベルが景気良く鳴らされる。
鳴らしているのは、大黒天の仮装をしたリキュール・ラミルだ。
彼が代表を務めるポワソン商会は、アルディナ銀座の商店街とは長年に渡って友好的な関係を維持している。
毎年商店街が主催する『千客万来! 新春恒例お年玉くじ引き抽選会』にも、今年も協賛企業のオーナーとして参加し、場を盛り上げていた。
と、そこに顔見知りの女性二人が差し入れを持ってやって来た。
パルミラ・ガランテとフランシス・パルトゥーシュだ。
ハオマ珈琲店の店長に挨拶を終えたフランシスが、パルミラを連れ出したのである。
「よぅ、景気いいな。今年も仲良くやろうな」
「リキュールさん、今年もよろしくお願いします」
笑顔の二人に、リキュールも笑顔で返した。
「こちらこそ、引き続きよろしくお願いいたします。今年も町の発展に尽くしましょう」
「……へぇ。特特賞はハワイ旅行か」
景品の項目を見やったフランシスが感心したように呟いた。
「二泊三日のペアチケットですって! いいなぁ、行きたいなぁ。海外旅行って一度もしたことないのよね」
「コナは仕入れてるのにな」
「言わないで。そういうフランシスさんは、行ったことあるの?」
「……そりゃあるさ」
仕事で、と心の中で付け加えるフランシス。プライベートでの海外旅行はしたことがない。
「あっ、抽選券持ってるんだった! 引いてくるね。特特賞、祈ってて!」
思い出したパルミラは、バタバタと列の最後尾へ走っていった。
苦笑を浮かべてその背を見送るフランシス。
「忙しないねえ。それにしても、そんなに奮発していいのかい、ポワソンさん?」
「利益の一部を地元に還元すべし──社訓でございます。そういうパルトゥーシュ様も高性能な暖房器具をご提供なさっておいでですな」
「一番のご近所さんにそっぽ向かれたら寂しいからね。社員もいるし」
持ちつ持たれつだ、とフランシスは笑う。
と、そこにパルミラの順番が回って来た。
ハワイハワイ、とぶつぶつ唱えながら彼女は一回分のくじにすべてを賭け、ガラポン抽選器を回す──!
やや勢い余った感じだったが、出てきたカラーボールは……。
「おめでとうございまーす! うますぎ棒十本セットでございますっ!」
カランカラン、とリキュールがハンドベルを鳴らす。
下から二番目の景品だ。
パルミラは、肩を竦めて苦笑した。
「もう、大黒天さまの意地悪」
「運ばかりは手前にもどうにもできぬことでございます」
パルミラとリキュールのやり取りを、笑いながら眺めているフランシス。
「町はこんなに元気だ。今年は良い一年になるぞ」
「ええ、間違いございません」
「みんなでがんばろうね」
三人の心は、明るさに満ちていた。
●ロスチャイルド邸の新年祝賀会
繁華街にあるロスチャイルド邸の新年祝賀会は、とても和やかな空気に包まれていた。
とはいえ、笑顔の下では様々な計算がされているのだが。
しかし、そのような腹黒さなど一切感じさせない平和な雰囲気に、警備員もあくびをかみ殺している。
──と、急にパーティ会場の扉付近がざわついた。
派手な音と共に扉が開け放たれ、警備員の制止を振り切って入って来たのは、中学生くらいの少年だった。
黒のスーツを着ているが、頭頂部まで剃り込みを入れた短髪から、地元の不良と思われる。
少年は、リンゴを丸かじりしながらズカズカと会場の真ん中まで進み、そこで周囲を見渡した。
「……で、どいつが俺に用があるんだ?」
と、冷めた口調で言った。
突然の闖入者に静まり返っていた会場に、やがて少しずつざわめきが戻ってくる。
どこの子なのやら、迷子か、やら出席者達が周りを見回しながら囁き合った。
主催者のインガリーサもそれを尋ねられたが、少年に見覚えはないし招待もしていない。
しかし、彼女は慌てることなく少年の前に進み出た。
「ようこそ。私はこの屋敷の主のインガリーサ・ド・ロスチャイルドよ。あなたのお名前を聞かせてくださる?」
「ヴォルク・ガムザトハノフだ」
「そう。よろしくね、ヴォルク君。せっかく来てくれたのだから、楽しんでいってね」
「そうだな……じゃあ、ここで一番強い奴は誰だ?」
ヴォルクが見たところ、これといった人物はいない。別の部屋にでも待機しているのだろうか。
インガリーサは、彼が余興に一暴れしてやろうという雰囲気を察知した。
「あら、ケンカはダメよ。それよりも……あなた、けっこう綺麗な顔してるわね。フフッ」
インガリーサが妖し気に笑うと、どこからともなく女性の給仕達がヴォルクを取り囲んだ。
ヴォルクは警戒するが、女性達に敵意はない。
後ろにいた給仕が、そっと彼の肩に手を置いた。
「ヴォルク様、あちらへどうぞ」
まるで遊びに誘うように、会場の外へ誘われていく。
敵意のない者、それもケンカなどしたこともないような女性達に拳を上げるわけにもいかず、ヴォルクは誘われるままに別室へ連れて行かれた。
そこは、衣裳室だった。
それもドレスばかりが広い部屋を占領している。
「さあ、ヴォルク様。美しくして差し上げますわ」
これにはヴォルクも慌てた。
背中を押す給仕から素早く離れて、外へ出ようと踵を返す。
しかし、そこには少女趣味なドレスを広げた別の給仕がドアを塞いでいた。
「女を殴る趣味はねぇ……だが、妙なマネをするなら……っ」
ヴォルクは、いつもの要領で風を巻き起こし──……。
「……?」
自分が何をしようとしていたのか、急にわからなくなった。
そして、勢いよく手を振り上げたきり、困惑顔で固まってしまったヴォルクに、給仕も首を傾げる。
が、その隙がヴォルクの命取りとなった。
あれよあれよとスーツとワイシャツがはぎ取られていく。
「あっ、こら、やめろっ」
「ヤンチャなヴォルク様には、丈が短めのドレスがいいかしら」
「……あら、このTシャツどうなってるの? 脱げないわよ」
ヴォルクがワイシャツの下に着ていたTシャツの前面には、『ステイサム』と大きくプリントされていた。
「脱げないなら仕方ないわ。時間もないし、上から着せちゃいましょ」
「だからやめろって……おいっ、どこを触ってる!」
「あら失礼。意外とプリプリしてるのね、ウフッ」
──この日、ヴォルクは美少女として社交界デビューをしたのだった。
ロスチャイルド家主催の新年祝賀会には、近辺から遠方まで様々な地域の裏社会の人間が集まってくる。
その中に怜悧な雰囲気を持つミステリアスな女性が出席していた。
マーガレット・ヘイルシャムである。
それほど大きくはないがそれなりに歴史あるファミリーのボスだ。
まだ若いが、それには理由がある。
彼女は兄弟があり、後を継ぐことなどとうてい考えられない位置にいたのだが、その親兄弟を海難事故で一度に亡くしたのだ。
生き残ったマーガレットは、否応なくファミリーを継ぐことになってしまった。
しかし彼女には夢があった。
ファミリーのボスになってもそれを諦めきれず、周囲には内緒で夢を追い続けた。そして彼女はエリザベスというペンネームで、同人活動を行っている。
ところで、ボスの仕事が苦痛ばかりだったかと言うと、そうでもない。
たとえば──。
「ごきげんよう、エルザナさん」
マーガレットは、会場の壁際で退屈そうにしているエルザナ・システィックを見つけて声をかけた。
年齢が幾分か下のエルザナとどこかの会合で顔を合わせて以来、こうして親交が続いている。気が合ったのだ。
「ごきげんよう、マーガレットさん」
つまらなさそうにしていたエルザナの顔に、花がほころぶような微笑みが広がる。
「お兄様の付き添いですの?」
「ええ。本当は遠慮したかったんだけどね……」
「貴方、手持ち無沙汰という感じですものね」
「ほんと、その通りよ」
と、会場の一部が何やら急に騒がしくなった。
「何かしら……。ちょっとご一緒しませんこと?」
「まさか喧嘩じゃないわよね」
退屈しのぎの気分で行ってみると、そこではアーリー・オサードが男性に書籍を押し付けられているという摩訶不思議な場面であった。
「どうしたの、あれ……」
エルザナは首を傾げているが、マーガレットは次第に顔色を悪くさせていった。
はじめは誰だかわからなかった。
知らない男性が、気合入れてアーリーに本を勧めている、あるいは、彼こそが噂に聞く情夫かと。
しかし、男が手にしている本の表紙が見えた瞬間、すべてを理解してしまった。
(あの本は……同人作家有志主催の覆面闇鍋パーティの席で意気投合して合作することになった、メイド服生命体メイメイの宇井流先生との本ですわ。『目が覚めたらメイド服で、男同士の恋愛を愛でる話』……どうして、あの本をあの殿方が?)
マーガレットは男性の顔をよく見た。
何となく、見覚えがある気がしなくもない。
(え……まさかあれ……あれは、宇井流先生?)
何だかひどく興奮している宇井流先生。
気づかれると面倒なことになりそうな予感しかしないマーガレット。
今すぐこの場から離れなくては、と騒ぎに興味をなくした風を装いエルザナに声をかけようとした時。
「あっ! 先生! エリザベス先生!?」
マーガレットの肩が跳ねた。
(やめなさい、私をその名前で呼ぶんじゃありません)
マーガレットは心の中で宇井流先生を叱りつけながら、精一杯の微笑を浮かべてエルザナを促す。
「エルザナさん、向こうで何かやっておりますわ。ちょっと見に行ってみましょう」
「……え、あの、いいの? あの人、マーガレットさんを呼んでいなかった? ……名前、間違えているみたいだったけど」
「さあ、私は知りませんわ。別のどなたかではありませんかしら」
「……そうね。名前違いにしても違いすぎるものね」
納得したエルザナを連れて、マーガレットは足早にその場を後にする。
世界は広いようで狭い、と噛みしめながら。
ウィリアムを連れたアーリーは、顔見知りへの新年の挨拶を一通り済ませると、壁の花になる気満々で壁際へ寄った。
二人で並んで壁に寄りかかり、静かにワインを飲む。
ぼんやりと会場の人々を眺めていたアーリーに、急にそわそわし出したウィリアムが変な笑い方をしながら声をかけた。
「アーリーの姐御、そろそろ例の品をお出ししてもよろしいでしょうか? へへへっ、苦労しました」
「な、何を言っているの?」
不審な目をウィリアムに向けてじりじりと距離をあけるアーリーの目の前に、彼はずいっと『例の品』を押し出す。
「やっぱ持つべきものは鍋友ですわ」
「それは……!」
カッと目を見開いたアーリーの手が、『例の品』を奪い取ろうとピクッと震える。
しかし彼女は、きつく手を握りしめてその衝動を抑え込み、さらに『例の品』から目をそらした。
「な、なによそのあやしげな本は。そんなものを私に見せて、どうしようと言うの」
「ふっふふふ……さあ、よく見てくださいよ。これはあのBL作家の雄、エリザベス先生が、よくわからないけど画力は高い、メイド服生命体メイメイの宇井流先生とのタッグが生んだ! 『目が覚めたらメイド服で、男同士の恋愛を愛でる話』! シナリオ:エリザベス、作画:宇井流! 題名は今風のやつですよ。とりあえず初見でわかりやすそうな奴、仕入れてまいりました。なんと先生方のサイン付きです!」
「……っ。タ、タイトルにロマンが足りない本に興味はわかないわね」
そう言いつつも、アーリーの目はちらちらと本の表紙を伺っている。
ウィリアムはアーリーに迫り、さらに熱く解説を続ける。
「見てください、帯のここ! 黒薔薇の『お前の獣を全て解き放て! 俺が全てを受け止めてやる!』それから青紫の君の『今度こそこの俺がお前を屈服させてやる!』青紫の君の悩まし気な顔は結構悩みましたよ」
「何であなたが悩むのよ」
「……ハッ。いやいや、何でもないっスゥゥゥゥ!」
「変な人ね……。どうでもいいけど、話の内容がさっぱりわからないわ。……パ、パンツレスリングなのかしら」
「いえ、武闘大会ですね」
「最後はグダグダで終わるんじゃないでしょうね?」
アーリーに冷めた目で見られたウィリアムは、さらにヒートアップして彼女との距離を詰める。
「ぐだってないっすよ。流行りに乗るとか、イメージを共有するとか重要じゃないっすかぁ。違うんですよ! リアルさなんて必要ないんですよ! こちとら夢を売ってるんですから! そら男にもヤオイ穴なんて増えますよ!」
「ちょ、ちょっと落ち着いて。それと、声が大きいわ」
「宇井流先生のはよけいだって!? 特定一部には受けてんだよ!」
「わかったから、あなたが宇井流先生のファンなのはわかったから、落ち着いてちょうだいっ」
ウィリアムを静めようとするあまり、アーリーの声も自然と大きくなっていく。
周囲の注意を集め始めた。
と、ウィリアムが知り合いでも見つけたのか、手を振って呼びかけた。
「あっ! 先生! エリザベス先生!?」
まさか、とアーリーもそちらへ目をやるが、ウィリアムの声に反応している人はいない。
しかし彼の目はしっかり捉えているのか、引き留めようとさらに続ける。
「ちょうどよかった! 言ってやってくださいよぉ! メイド服に貴賤はないって! 先生の口から言ってやってくださいよぉ!」
「もうっ、いい加減にしなさいよっ」
ドスッ、とアーリーの腰の入った拳がウィリアムの脇腹にめり込み、物理的に静めたのだった。
●やっぱり寝正月が最高
「んぅ~……」
布団の中で寝返りを打って、リビングのテーブルを見上げた。並んでいる正月料理。布団から出れば寒いこと請け合いである。
トゥーニャ・ルムナは眠そうな目のまま、魔法を使って皿と箸を布団のそばまで――魔法? なんだかさっきまでそんな夢を見ていたのかもしれない。魔法があったら良かったのだが。トゥーニャは「やれやれ」と言いながら、そーっと布団のへりから足を出す。
「つめたっ!」
触れた足の裏が痺れるほどに冷え切った床。トゥーニャはパタパタと足を動かしてまっすぐにリビングへと向かう。寒々しいテーブルの上から餅と酒を救出し、また一目散に布団の中へUターン。
ふう、と一息吐くと、手の先だけ布団から出して箸を取る。少しばかり表面の冷めた餅にかじりついた。中はまだほんのりと温かく、伸びる。適当に噛み切って、もくもくと噛む。さらに嬉しそうにおちょこを拾い上げると、ぐいっと一杯煽った。
「っはぁ~っ!」
喉を通っていく爽やかな感触。新年といえば酒。……まあ、そうじゃなくても酒、だが。
窓の外からは、近所の子どもたちが走り回っているような声がしている。正月早々、元気なことだ。トゥーニャは空になった杯を枕元に置いて、また布団の中にもぐりこんだ。
「食べて、飲んで、寝て……。お正月くらいはこの繰り返しでいいと思うんだけどな~」
ぼそりとつぶやく。何なら、正月以外だってそうであれば1番だと思う。
「……」
トゥーニャは先ほど噛み千切った餅を見た。もうちょっと温かいほうが美味しい。もう一度布団から出るのは嫌だが、美味しくないまま食べるのも気が乗らない。
そーっと、そーっと布団から出る。さっきので足が冷えたのだろうか、少しだけマシになった布団の外。足早にキッチンまで向かうと、電子レンジに餅を入れ、冷めかけた餅を温めなおす。どうせだから、と、冷蔵庫の中からまだガチガチに冷たいままの餅を取り出した。今度はフライパンを火にかけて、アルミホイルを敷いて焼き始めた。
ピピッ、と電子音が響いて、トゥーニャはレンジを開ける。トロトロに溶けた餅を口に放ると、湯気が立ち上った。
「あちっ、あちっ……っは~……」
足の冷たさには慣れ、ただ口に広がる餅の美味しさにうっとりする。
「こっちは……うん」
フライパンの上の餅が焼きあがっているのを見て、それを皿の上へ。また来た道を引き返して布団に直行。潜り込むと、その中で焼きあがったばかりのパリパリとした餅を食べ始めた。
突然、玄関チャイムが鳴る。
「……」
口から伸びた餅をちゅるんとすすって、玄関のほうに目をやった。もう一度、呼び鈴。
「……開いてるよー」
だが、布団から出る気はないトゥーニャなのであった。
●凧揚げ
風はかなり強く吹いており、まさに今日は凧揚げ日和、と言ってよかった。
そんな中、バルバロは楽しそうに凧揚げをするアールとルルナ・ケイジ、そしてアールが揚げている凧をゆったりと眺めていた。
が、風はいつでも吹き続けているというわけではない。
急に風が弱まって、アールの凧は急降下し、ぽとりと川原に落ちてしまう。
落ちてしまった凧をルルナが取りに行く。もう一回、タイミングを合わせてアールが走り出すと、再び凧は宙に揚がる。
しかし――今度は高度も上がることなく錐揉みしながら落ちてしまった。
どうやら風に負けてしまったようだった。その後も、いったんは揚がるのだがなかなか長続きしない。
「なかなかうまくいかないねー」
凧を持ってそう話していた二人に、バルバロはゆっくりと近づく。
様子を見ていて、気づいたことがあったのだった。
「ちょっと貸してみ」
「いいけど、やったことないんじゃ?」という返事を受けながらも糸を受け取ると、バルバロは風の様子を見て走り始めた。
アールが手を放すと、凧は空に揚がっていく。
バルバロは風向きと強さを見て糸を引き、上手く風を受けるように調節する。
すると、凧は気持ちよさそうに空を泳ぎ始めた。
「なんで? なんでなんで!? 初めてじゃないの?」
戻ってきたアールが興奮気味にそう聞いてくるのに対し、バルバロは凧を操りながらにやりと笑う。
「風を受けて飛ぶんだから、コツは船と一緒だろ? なら私でも経験で何とかなる――アールならもっと上手にできるんじゃないか?」
その言葉を聞いて、アールははっ、と目を瞠った。
「ちょっと、貸してみて」
一拍の間を置いてそういった彼女の瞳は、好奇心とやる気の光に溢れていた。
ピン、と張った糸を受け取ると、これまでとは違った顔付きでその糸を手繰り始める。
すると少し試行錯誤しただけで、凧はいきいきと宙を舞い始めた。
さらに、周囲に飛ぶたくさんの凧たちを従えるように、高く高く飛んでいく。
「すごい、すごい」
傍で見ていたルルナも興奮気味に、叫ぶように話す。
と、その時だった。かなり強い風が吹いた。しかしそれは、強いとは言っても立っていられないほどではないものではあった。
しかし、上空は違った。
アールの持つ糸が急に引っ張られる。それは、かなりの勢いだった。
ぐらりとその身体が揺れる。
ルルナが「危ないっ」と声を掛けるよりも早く。
バルバロの腕が、アールの身体を支えていた。
体勢を何とか立て直すと、一緒に糸を引いてなんとか巻き取っていく。
「ありがとう」
「どういたしまして」
そんなやり取りを自然にする。
「大丈夫ー? 私にも後で教えてねー!」
心配しながらもそう声を掛けて走り寄ってくるルルナに、二人は「もちろん」と答えた。
その言葉は、ぴったりと息の合ったものになっていた。
●担当者コメント
【冷泉みのり】
一部を担当しました冷泉みのりです。
今年もよろしくお願いいたします。
大晦日に紅白を見て、お正月だぁ、と怠けていたらあっという間に終わってしまいました。
まだ今年の目標も立てていないというのに。
時の流れは残酷です。
それはそうと、異世界ニッポンのお正月を少しでも楽しんでいただけたら嬉しく思います。
また、一部のNPCに違和感があるとしても、異世界だからということでご容赦ください。
それでは、後編最初の日常シナリオもよろしくお願いします!
【東谷駿吾】
寝正月、初詣に行くを担当させていただきました。
私は浅草寺でおみくじを引きましたが、見事凶でした。
浅草寺とは相性が悪いらしく、その前におみくじを引いた時も、その前に引いた時も、やっぱり凶でした。
俺が何したっていうんだ。
みなさま、今年もどうぞよろしくお願いします。
※●凧揚げ につきましては、鈴鹿高丸が担当いたしました。
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