Kの迷宮と野望の城

 リモス島の沖に突如現れた、迷宮のある島へ向かった調査船が戻って来た。
 報告の騎士は、まず島の王に拝謁したことを告げた。
 王に敵対の意志はなく、また敵対しようにもその力などないことを正直に言ったという。
 新興の弱小国故、強国を手本にしたいといった内容だった。
 島はとても平和でのどかな地だったと騎士は言った。
 島全体がテーマパークのようだったと。
 調査船に乗った他のメンバーは、島に留まり詳しい調査を続けている。
 いろいろ怪しくないか、と宮廷では突如興った国の存在を危ぶんだ。
 そこで、誘いに乗るふりをしてさらに人員を増やして島へ送ることにした。
 なお、表向きは新興国への招待に応じる形として国民に告知し、限られた調査員にのみ宮廷の懸念を伝えることとなった。
 騎士の報告から、すぐにどうこうという危険はないだろうと見たからである。

 


 事の起こりは二日前――。

 その日、リモス村の海岸には人だかりができていた。
 沖合に見える島が原因だ。
 人だかりの中にはインガリーサ・ド・ロスチャイルド子爵の姿もあった。
 彼女はこのことを知らせるため、すぐに宮廷に使いを出した。
「きっと調査船が出るでしょうね……」
 そんなことを考えている彼女に、島の見張りの騎士が駆けて来て手紙を渡した。
 宮廷からの返事にしては早すぎる。
 確認すると、差出人はイフだった。
 このタイミングで届けられたことに、インガリーサは嫌な予感がした。

『拝啓 子爵様

 詳しいことを告げずに村を出たことをお許しください。

 もし、この手紙をお屋敷でお受け取りでしたら、海岸へ足を運んでいただけますでしょうか。
 ご招待したい場所がございます。
 村の皆様と、ぜひお越しください。

 追伸
 ベルティルデさんは、一応私達と共におります。

 かしこ』

 サク・ミレンとイフは、しばらく前から村を離れていた。
「まったく、何をしているのかしら、二人して。ご招待したい場所って、あの島みたいなところなの?」
 唐突な内容にインガリーサが困り顔で呟いた時、島らしきものの上に映像が浮かび上がった。
 イフだった。

 ――こんにちは、皆様。イフと申します。

 響く声も、どこか平坦な話し方も、間違いなく彼女のものだ。
 人だかりから叫び声やどよめきが上がる。

 ――本日は、皆様にこの『Kの迷宮』をご紹介いたします。
   この島には巨大な迷宮がございます。
   そして、迷宮の中心にはお城があります。
   お城には主の王様とお妃様がいらっしゃいます。
   こちらが、お妃様ですわ。

 イフの映像は、なんとベルティルデ・バイエルに切り替わった。
 驚いたインガリーサは、映像のベルティルデを凝視した。
 微笑んでいるが、どこか冷たい笑みだと思った。

 ――ベルティルデと申します。突然ですが、ここに国を興すことを宣言いたします。

 インガリーサは、ぽかんとした顔になった。

 ――お近づきの印に、皆様をこの『Kの迷宮』へご招待いたします。日頃の疲れを癒しに、どうぞ遊びに来てくださいね。こちらが案内図でございます。

 映像が、迷宮の地図に切り替わった。
 円形をしており、中央には城がある。
 また、迷宮の各所には庭が作られているようだ。
 その時、男性の声が割り込んできた。

 ――妃よ、何もお前自らが説明に出なくとも……。
 ――宣伝効果は、わたくしが出ることが一番ですから。それに、あなたの悲願でしょう? 帝国へのふく……。
 ――お二人とも、マイクは入ったままですわよ。

 イフの声が二人の会話を遮った。

 ――それでは皆様のお越しを心よりお待ち申し上げます。

 最後に、微笑むイフが出て来て映像は消えた。
 場は騒然となり、村人はインガリーサにいくつも質問を投げかけた。
 人だかりをかき分けて、ジスレーヌ・メイユールルース・ツィーグラーがインガリーサのもとへ駆けて来た。
「あのベルのそっくりさん、まさか双子の兄の女装じゃないわよね!? 確か、見た目はよく似ていたと聞いたわ」
「そんなわけないわ。彼はもういないんだもの」
 ややぶっ飛んだルースの予想を、インガリーサは即座に否定する。
「となると、本物の姫様が……? 確か、イフさん達としばらく出掛けるとおっしゃっていましたよね」
 ジスレーヌの顔色がみるみる青ざめていく。
 どういうことなのか、さっぱりわからず不安ばかりが大きくなっていく。
「もう何だっていいわ。ベルのそっくりさんか本人かわからないけど、どこの馬の骨とも知れない男の妃にするなんて、いい度胸してるじゃない。乗り込んで追及してやるわ。……本人だとしたら、きっと普通じゃない状態なのよ」
 怒りも露わにルースは島を睨みつけた。
「問い質す必要はあるわね。でも、敵意剥き出しで行くのは危ないかもしれないわ」
 考えをまとめながらインガリーサは慎重に言った。
「向こうは一応、友好的な姿勢を見せているんだもの。遊びに行く体を装って行きましょう。そして、首謀者を突き止めて何者なのか暴くのよ」
「……そうね、冷静に追いつめましょう。あの男の声、彼が王よね」
「そうでしょうね。でも待って。すぐに行きたいでしょうけれど、宮廷から調査のための先行隊が出るはずよ。まずはその報告を待ちましょう」
 インガリーサは、焦るルースを宥めた。


 その頃、イフ達は。
「ついに、この日が来たな……世界を覆す第一歩の日が!」
 目を見開き、昂る気持ちのままに王が叫ぶ。
「ええ。帝国はまず様子見の船を出すでしょう。その人達を迷宮に閉じ込めましょう。そして、偽のメッセージを送ります。疑り深い帝国は、さらに人を増やしてこの島を訪れるでしょう。その人達を取り込み、人質として帝国を脅迫し……最終的に国を乗っ取るのです。ふふっ、マテオの人達を利用し続けた帝国の末路です」
 ベルティルデは暗い情熱を燃やしていた。
 彼女を知る人が見れば、別人だと言うような険のある表情である。
「宮廷を綺麗にしたら、あなたの思うままに国を導いてくださいね。ただし、お約束は守ってください」
「ああ。残されたマテオの民の救出に力を尽くそう。――私達を、このままうやむやに消し去ろうとする者達に復讐を! ふはははは!」
「ふふふっ」
 王と王妃は仄暗く笑い合い、手を取り合った。

 迷宮にある庭で、イフは少し困ったようにサクに言った。
「あのお二人は、どうなるでしょうね?」
「さぁな。……ベルティルデは、ひとまず村から離せたんだ。後は追ってくる奴らに任せるしかない。しかし、あの王の執念がここまでとはな」
「妬み、僻み、恋情……人の心は複雑ですわね」
「ところで、あの王……どこかで見たような気がするんだが、思い出せねぇ。お前は知ってるか?」
「いいえ、私も同じです。お名前をお伺いしても、Kと呼んでくれと言うだけでしたわ」
「そうか」
 サクとイフはしばらくの間、花々が咲く庭でぼんやりと時を過ごしたのだった。


■アクション指針
・迷宮へ遊びに行く(迷宮踏破、庭でバーベキュー、デートなど)
・調査員として迷宮へ赴く
・その他シナリオに関係のある行動をする

■参加方法
公式ショップでチケット(700円)を購入していただき、こちらのフォームからアクション(400文字まで)をご投稿ください。
こちらのシナリオは、カナロ・ペレアに登録しているPCおよびアトラ・ハシス、マテオ・テーペに登録していたPCでもご参加していただけます。

○接触したいNPCやお誘いしたいNPCについて
費用は必要ありません。

○子供がいる(いるかもしれない、も含む)または親兄弟等親族を登場させたい方へ
名前のみの登場程度でしたら、参加費用はかかりません。
通常のアクションで個人としての登場をご希望の方は、一人につき1PC分のチケットをご購入してください。
こちらの追加分のキャラクターのお名前は、最初に投稿したものに限ります。
再投稿する場合は、同じキャラクター名でお願いします。

■スケジュール
2021年2月1日 参加案内公開
2021年2月2日 チケット販売開始(アクション受付け開始)
2021年2月8日(23時59分59秒) アクション受付け締切
(フォームからの投稿は念のため翌朝9時まで行えるように設定してあります)
リアクション公開日は参加者の人数により変動します。遅くて3月末日です。

■説明
このシナリオは、以前ちらっとお知らせしましたIFシナリオとなります。
並行世界を舞台にしたイベントシナリオと考えていただければと思います。

Kの迷宮へは、箱船に乗って行きます。
アトラ島にいるPCも海底のマテオにいるPCも、リモス島から箱船で出発したとお考えください(各地からリモス島までの移動手段については、アクションに記入する必要はありません。迷宮到着時からでかまいません)。
迷宮の中心には城があり、王と王妃がいます。
二人に関する謎を暴きに行くのもいいですし、迷宮で迷子になりに行ったり、いくつもある庭で楽しく過ごしてもいいです。
庭では、食材を持ち込んで鍋やバーベキューもできます。ゴミはお持ち帰りくださいね。

新たに興ったこの国では、国民を大募集中です★
国民になってもいいよという方は、アクション欄に「国民になる」と簡単でかまいませんのでご記入ください。
二重国籍もOKです。

○PCの状態について
・本編で死亡しなかったPC
後日談くらいを目安にしてください。

・転生された方へ
転生後の年齢(後日談基準で2~3歳とします)でもいいですし、死亡時の年齢でもいいです。
お好きなほうをお選びください。
魔力の有無は、選んだほうによります。

・特殊な状態のPC
精霊の場合……精霊のままでもいいですし、人間だった頃としてもいいです。精霊のままの場合は、人々の目には映りません。ほぼ見ているだけの状態となります。

凍結されている場合……元気に生きている状態でご参加していただけます。

海底のマテオ・テーペにいるPC
気にせずご参加していただけます。

○子供がいる(いるかもしれない、も含む)PC
子供も一緒にご参加していただけます。
※アクション内容により参加費用が変わります。詳しくは『参加方法』をご確認ください。

■注意事項
このシナリオでは、すでに築かれているPCやNPCとの関係を持ち込むことはできますが、関係を発展させることはできません。ご了承ください。

また、ダブルアクションはご遠慮ください。
グループアクション等他の方と絡む場合は、同じ場所で同じ行動をお願いします。

■NPCについて
迷宮への先行隊として、以下のNPCが赴いています。
迷宮内で接触することができます。
グレアム・ハルベルト
フランシス・パルトゥーシュ
エルザナ・システィック
エクトル・アジャーニ

上記以外のNPCは、お誘いいただければ箱船に乗って迷宮へ行きます。
調査員になるか観光客になるかは、アクションによります。

■マスターより
こんにちは、冷泉です。
『もしもベルティルデが闇に染まってしまったら』というIFシナリオです。
このシナリオで闇ベルティルデとKの野望が果たされたとしても、本編には何の影響もありません。
並行世界の出来事として、お気楽にご参加していただけたらと思います。

オープニング中に映像とかマイクとか出ていますが、このシーンのみのオーパーツです。
世界の各状況は、後日談頃とお考えください。

リアクションは基本的に冷泉のみで担当いたしますが、冷泉では難しいと判断した時は他のマスターまたはライターの執筆となるかもしれません。

それでは、迷宮でお待ちしています!