続・ゾーン落ちたカナロ氏ね!?

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 カナロ・ペレアの世界で暮らす誰かの夢の中。
 歪んだ魔力は人々の夢の世界をも浸食していく。

「チェリア隊長ー!」
 ふわふわとした夢の中。ナイト・ゲイルは感染者の1人、チェリア・ハルベルトを探して街中を走りまわっていた。
「やめて、やめて、やめて、私のお友達なの!」
 公園の方から聞こえてくる女性の声――チェリアの声だ。
「友達だろうがなんだろうが、カロナウイルスに感染した動物は焼却処分だ!」
「消毒だ消毒だ、ヒャッハー!!」
 火炎放射……もとい、炎を噴射する魔法具を手に、人々がチェリアに迫っている。
「やめろー!」
 止めに入り、チェリアを背に庇うナイト。
「……あたたたたたたっ」
「カー、カァー、カー!!」
 その体を、魔物化したカラスがひっかき、つっついていく。
「魔物を庇うのか!? さては貴様も感染者だな」
「違う! 感染しているのはこの男だけで、私は感染者じゃない。さらばだ! はーっはっはっはっ」
 なんか笑い声を上げて、逃げていくチェリア……。
「ま、待て、隊長ォォォ!!」
 火炎を噴射するモブ達を蹴散らして、ナイトはチェリアを追った。

 そして数分後。
 ナイトは逃げるチェリアを捕まえて、引き摺るように喫茶店に連れてきた。
「ケーキ、俺の分も食べていいから、大人しく座ってろ」
「うん、食べる~」
 ケーキが届くと、チェリアは子どものような笑顔を浮かべ食べることに集中しだした。
(かなりおかしくなってるなー……とはいえ、まだ辛うじて話は通じるか)
 ナイトは紅茶を飲みながら、チェリアに語りかける。
「こういう時はさ、とにかく落ち着くことだ。こんなふうに美味しいものでも食べてな。そして、落ち着いたらどうすれば良いか考えよう」
「うん!」
 ぱくぱくむしゃむしゃ。
 チェリアはケーキにアイス、チョコレート菓子や砂糖菓子などあらゆる種類のお菓子を食べていくが、突如。
「ああーっ。太るーどうしよう、どうしよう。私、ぶくぶくになっちゃう!!」
 頭を抱えて、嘆きだした。
「いやそんなことで悩んでいる場合じゃないだろう。チェリア隊長、気をしっかりもって、聞けよ!? 今世界は大変なことになってるんだ」
「う、うん」
「なんと!」
「ごくり」
「歪んだ魔力に変な名前が付けられた!! カロナウイルスだとか」
「なっ、なんだって!?」
 衝撃的な事態に、チェリアは目を見開いた。
「まあ、名前がついたせいで、呼びやすくなって楽になったけどな」
「そうだね!」
「だから落ち込むな。カロナウイルスをどうにかできれば、体重も元に戻る」
「ほんと?」
「こう見えても俺は意外と頼りになるんだぜ、だからあんたは俺を信じて任せておけ」
「えー」
 イマイチ信用できないという目で、チェリアはナイトを見ている。
「大丈夫、なんて気軽に言ったらアレなのかもしれないけど、大丈夫にするって気持ちは間違いなくあるからさ、安心して欲しい」
 子どもを相手にするかのように……いや、子どもの相手なんてナイトには無理だけど。ともかく、優しくチェリアに語りかける。
 大丈夫、大丈夫だと。
 安心して任せてくれて、いいのだと。
「うーん、分かった。頼んだ、ニャイト・ゲイル。にゃんにゃん♪」
 にぱっと微笑んで、チェリアはナイトの手を握ってぶんぶん上下に振った。
 そして、安心して料理を次々に注文していくのだった。


「ほんと自粛自粛でなにもやってなくてつまらない……」
 折角本土に来たのに、イベントが何も行われてないのだ。
 アウロラ・メルクリアスはため息をつきながら、街の中を歩いていた。
「久しぶりにウィリアムさんとかマーガレットさんとかと遊ぶのもいいかな。カサンドラちゃんもいつものごとく気になるけど、こっちはカロナに来てからは1シナリオも一緒に行動してないしたまにはいいでしょ」
 ん? カロナ? なんのことだろう。ここは確かアルディナ帝国……。
「え? 二人ともアー……Aさんの部屋に行ってる? なら私もー。前に面識もあるしきっといけるいける。カロナに来てからは1シナリオも会ってないけどね! ……あれ? カロナ? カロナ……ペレ……? なんかおかしいけど、まあいいよね!」
 アウロラもすでに、カロナウイルスに感染しつつあるようだ。

「おっす、なにしけた面して」
 メイド服姿の体つきの良い男性がモブAの部屋に入ってきた。
 部屋には、炬燵に入りのんびりしているモブAとモブE、そしてLらの姿があった。
「ウィル、ウイルスに頭やられたの?」
 彼の姿を見たモブAが、冷ややかに言った。
「何かおかしいか? それはそうと、この格好で傭兵騎士の仕事に行ったら自宅待機を命じられてな。解せない」
 不満げに答えるウィリアム。やはり相当頭をウイルスにやられているようである。
「あ、これお納めください」
 ウィリアムはAにエリザベス先生の作品を献上しようとしたが、横から手が伸びて持っていかれてしまう。
「ありがとうございます! エリザベス先生の本、ずっと前から読んでみたかったんです!! わーい」
 本を手に喜んでいるのはモブM.R。見かけない顔のモブだ。目を凝らしてもなんか印象に残らない特徴も性別も年齢もよくわからないモブだった。
「今さ、防護服とか足りてねぇんだわ。巷ではマスクも買えないし、衛生的な服が必要になった訳だ」
「…………」
 本もとられてしまったモブAは不機嫌極まりない顔だ。
「衛生面で考えると何が重要か解るか? エプロンドレスだ。小さな汚れも解りやすいし、長いスカートでばっちり防護! 解るな? メイド服は完ぺきだ、完璧なんだわ」
 そんな彼女に熱烈に語っていくウィリアム
「カロナウイルスは、魔力なんだけど。衛生的とか関係ないでしょう」
「その歪んだ心が、心を殺すんだぞ! 気の持ちようさえあれば、なんとかいい方向にいくかもしれんじゃん!」
「ウィル……何がいいたいのかわからないんだけど?」
「平常運転ですね。放置で」
 先客の病弱そうな美女が目も向けずそう言った。
「あなたは、どなたですか?」
「モブEの友人のモブEです。紛らわしいならE’でもいいです」
 M.Rの問いに、病弱そうな美女――エルザナ・システィックの友人のマーガレット・ヘイルシャム(ペンネームエリザベス)がそう答えた。
「カロナなんて、生まれつき病弱という佳人薄命設定の私がピンピンしてるのですから、大丈夫でしょう。皆心配しすぎですよね」
「E’さん、それはあなたの魔力がゴミカスだから……」
「あらモブM.Rさん、それはどういう意味ですこと?」
「あっ、違うんです。これは書き手に言わされただけで、私の台詞ではないんです!」
 すみません、すみませんとテーブルに頭をつけて謝るM.R。
「まあまあ、コーヒーでも飲んで落ち着かないか。他意はないけどね? コーヒーのシミって取れにくいですよ」
 などと言いながら、ウィリアムはなみなみと注いだコーヒーを皆に配りだした。
「着替えはここにありますからね!」
 そして、背負ってきた服を積み上げる。勿論全てメイド服だ。しかしだれも見向きもしない。悲しいね!
「こんちゃーす! 遊びに来たよー」
 到着したアウロラがバタンとドアを開けて入ってきた。
「いやーどこもかしこもカロナにおびえすぎだよね。体調が悪いと思ったら家でおとなしくしてればいいだけなのにね。……あっ、そこにいるのは!」
 アウロラは、ゲーム機をセットしようとしている人物に目を留めると、近づいて頭を下げた。
「M.Rさん! いつもお世話になってます!」
「こっ、こちらこそ! 大変お世話になっております!!」
 びしっと立ち上がり、アウロラより深く頭を下げるM.R。
「あ、これ鍋の材料ね」
 挨拶を済ませたあと、アウロラは鍋の材料を炬燵の上にどさっと置いた。
 野菜や肉、一般庶民が選んだ普通の具材である。
「鍋? この前やった気がするけども」
 と、ウィリアム
「え? この前やった?」
「1シナリオ前だったかな。まぁ煮込んじゃないなさいよ」
 炬燵の上に突如出現した大なべに、アウロラはスープと具材を入れて煮込んでいく。
「1シナリオ前とか、そんな細かいこと気にしてたらだめだよウィリアムさん。いや、今はウィリアンヌさん? まぁどっちでもいいや。そんな細かいこと気にしてるから生え際が怪しくなったり好きな人を別の人にとられそうになったりするんだよ」
「ハゲじゃぬぇよ!」
「その話題はやめてくれないかね」
 生え際な話題に、それまで黙々と蜜柑に集中していたLが反応した。
「男ならもっと大雑把にいかないと。それに今回なら食糧問題とか気にせず美味しい鍋が作れるんだからいいじゃん」
「まぁ、細かいこと気にせずゲームしましょう、ゲーム」
「さんせー!」
 E’の言葉にM.Rは目を輝かせ、意気揚々とゲーム機の準備に勤しむ。
「で、何持ってきたんですか?」
「魔物退治のゲームです~」
「そんなマニアックでニッチなタイトル、誰もやりたがりませんよ。だいたい1プレイ時間かかりすぎです」
 E’にばっさり言われて、M.Rはしゅんとなった。
「せっかく大人数なんだし全員でやれるやつやろうよ。8人対戦できるふっとばしアクションのやつとかさ。ほらあの全員参戦したやつ」
 アウロラの言葉に「ん?」と首をかしげるM.R。
「それも良いですけれど、皆で集まってやるならやはりこれ、スーパーLパーティーゲームです」
「ああなるほど。そうだね、パーティーゲームもいいね。やっぱりみんなでワイワイやるのが楽しいんだよ」
「ええ。競うもよし、協力するもよし。いろんなミニゲームが入っているので飽きませんよ」
 スイッチを入れると、ゲームのタイトル画面が表示された。
 どれどれと、Eが画面を覗き見る。
「おー、数十種類もミニゲームがあるのね!」
「そうですよ。Eさんがお得意なゲームもきっとあるはずです。私もあまりゲームとかやらないので皆さんお手柔らかにお願いいたしますね」
 なんて言っているが、E’はそれなりにゲームは得意だった。実戦ならこの場の誰にも勝てるわけないけど。
「それでは始めましょう」
「皆、画面見える~?」
 コントローラーを手に盛り上がっていく女性陣。
「まて、その前に皆、着替えを。カロナ対策が必要だろ!?」
「カロナ? 知らない知らない」
 と、ウィリアムやメイド服に興味を示さないアウロラ。
 なんだか、皆、メイド服に対して冷たい気がする……。
 窓も空いてないのに、ウィリアムの前を冷たい風が吹き抜けていった。
「Lさんも、いつまでもみかんの筋ちまちま取ってないで入ってください、メンツ足りないんですから」
「え? ああ、はい。お手柔らかに」
 E’にコントローラーを渡されたLは、タイトルにもある自分と同じ名のキャラクターを選んだ。
「L……はっ。ロスティンさん、ロスティンさんはどこ!?」
 そういえば、Eと相思相愛の筈のロスティン・マイカンも、遊びに来るとか言っていたはず。でもいない。何故かいない。ま た い な い!!
「きっと彼は、式の準備で忙しいのです。大丈夫ですよ、式をすっぽかすなんてことはない……でしょうから……」
「うん。さすがにそれはないと、信じたい。ううっ、ゲームしてるうちに来てくれるかな! どのキャラにしよう」
 気持ちを切り替えて、Eはキャラクターを選んでいく。
「ここはやはり、メイドキャラだろ!」
 ウィリアムが堂々と、皆の前に立ってアピール!
「Eさんはご兄弟のこちらのキャラクターなんてどうです? 私はカナリア姫にいたしますわ」
「そうね、ルーマでやってみる!」
 皆ウィリアムには目も向けず、ゲームに夢中である。
「くっ……慣れた? 飽きたのか!?」
 ウィリアムはわなわなと震えだす。
 しかし、すぐにくわっと目を見開き、拳を握りしめる。
「新たなネタを探しにいかねば! 立ち止まってはいけない! 時流は動いているのだ、寒いお兄さんになってしまってはいけない! のだ!」
 そして、ドカーンと窓をぶち破って、どこか遠くへと飛んでいった。

「……あれ?」
 その数分後。コーヒーで服に染みをつけてしまい、着替えに出ていたモブAが戻ってきた。
「そう、彼は行ってしまったのね……せっかく、勝負服、着た、の、に……ッ」
「Aさんも早く席に……あら、お洋服大変お似合いですわ」
 E’が、フリルいっぱいの可愛いエプロンドレス姿のAを褒める。
「ありがとう。フフ……私……このキャラがいいわ。口から炎吐くコイツ! 燃やし尽くしてあげるわ!!」
 そうしてモブ達の熱く楽しい戦いが濃厚に繰り広げられ、カロナウイルスは順調に蔓延していくのだった。

 注:鍋はこの後スタッフが美味しくいただきました。

 

※     ※     ※


 アレクセイ・アイヒマンは落ち着かない様子で家の中をうろうろとしている。カロナウイルスによって訓練中止、自宅待機推奨となったせいで、やることも落ち着きもなくなってしまっている。……いや、本当の原因はそんなものではない。
「チェリア様……」
 理性を失い、己の欲望のままに動く彼女の姿を是非見たい……。
「違う違う!」
 一瞬頭をよぎった邪念を振り払って、彼はテーブルに手をついた。
「チェリア様をカロナウイルスの呪縛から解き放たなければ……!」
 そうと決めたら、まずはチェリアを探すところからだ。アレクセイは外に出る準備を始めた。
 もしチェリアがいるなら、きっとそれは――童心に帰れる場所――。アレクセイには思い当たる節があった。彼女は抑圧された幼少期を取り戻すように遊んでいるはずだ。最初の目的地を近くの公園に定めて、彼は走り始めた。
 だが。
「いない……」
 普段は子どもたちでにぎわう公演も、ウイルスの蔓延のせいだろうか、人の気配はまったくない。
「それじゃあ……」
 感染者が集まる場所にいるんじゃないか……。ある種パンデミックの中心になっているような……。
「宮殿……?」
 あそこは今、多くの感染者が隔離されているらしいし、もしかしたら……。アレクセイは急いで宮殿へと向かう。
 ふと、道中の喫茶店のラウンジで、パスタを食べている女性が目に入った。
「チェリア様!?」
「なあに?」
 アレクセイは驚き、びくりと背を伸ばした。チェリアは口いっぱいにナポリタンを頬張り、口の周りをケチャップまみれにして微笑んでいる。
「探しましたよ! なんでって……」
 アレクセイは、ゲホンと咳を1つ。
「俺は、チェリア様が好きですから。好きな人を探すのは当たり前じゃないですか」
 ふんわり思考が子どもに戻ってしまっているチェリアも、この言葉の意味が分からないわけではないようだ。顔を赤く染めて、うつむく。
「俺がチェリア様を助けてみせますよ!」
「助けるって……どうやって?」
 彼女はもじもじとして、上目遣いでアレクセイを見た。
「『愛』です!」
「愛……」
「ほら……」
 アレクセイはチェリアの手を握る。ぎゅっと包み込むと、アレクセイの温かな体温が伝わっていく。
「……治りませんか?」
「んー……」
 もじもじとするチェリア。アレクセイは手を放して、彼女の肩をしっかりと抱きこんだ。
「チェリア様、大好きです」
「……ありがと……あの……ケチャップ付いちゃう……」
「……あ……ふふふ……」
 アレクセイはにっこりと微笑んだ。
「愛の証、ですね」


「こういうときは、パニックになって余計な被害が出るものだよ」
 コタロウ・サンフィールドは人差し指を立てて、ベルティルデ・バイエルに言う。
「みんな冷静になるべきだと思うんだ」
「そうですね」
 幸い、2人ともカロナウイルスへの感染は起こっていないらしい。いたって冷静に、事態の縮小を考えていた。
「というわけで、ベルティルデちゃん。何かみんなを落ち着かせるアイディアはないかな」
「そうですね……お茶会とか……でもそれですと、皆さんが集まりますから、感染が広がってしまうかもしれませんね」
「例えば、感染防止に役立つ……かもしれない、マスク作りをレクチャーするとか」
「それはいい考えですね。マスク……どこでも売り切れていますからね……」
 カロナウイルス元は歪んだ魔力と呼ばれていたもの――は体のありとあらゆる部分、特に粘膜や出血箇所などから侵食してこようとするという考えが爆発的に流行して、ただでさえ品薄状態だった衛生用品は、とにかく色々と不足していた。
「特効薬の開発を頑張ってもらうとかはどうだろう」
「それは、今いろいろなお医者様が頑張ってくれていると思いますよ。ただ、開発が完了するのがいつになるのかはちょっと……こればっかりは出来るまで分かりそうにないみたいです」
 ベルティルデの顔が曇る。特定の病気に対する特効薬らしい特効薬など、マテオ・テーペの頃から見たことはなかったから。未曾有の危機に際して学者たちが必死に頭を捻っているのを、「もっと頑張れ」とせっつくことも難しい。
「……あとは、なんと言っても基礎体力だね!」
「それは、とても大事だと思います」
 コタロウの明るい顔を見て、ベルティルデがようやく微笑みを取り戻した。
「栄養を摂って早寝早起き……そうなると、栄養満点の食事が大切だと思うけど、どんな料理が効果あるかな?」
「そうですね……お野菜を中心に、温かくて消化にいいものを、というのがいいのではないでしょうか? 貴重ではありますけど、お肉も少ししっかりと摂ったほうが」
 彼女の言葉を聞いて、「鍋料理がいいのかな」とコタロウはつぶやいた。
「それと、食材の鮮度、というのもとっても大事ですよ。バランスを意識して、何品か用意するのもいいかもしれません」
「そうだよね。そうなると……新鮮な食材で、気合を入れた特製料理、なんていうのはいいんじゃないかな?」
「いいですね!」
「それをみんなで……集まって食べると問題になるのか」
 コタロウは顔をしかめた。人から人への感染が確認されているカロナウイルス。万が一に備えて集団で集まることは控えるようにしたほうがいい。
「各戸訪問、とかもいいかもしれませんね」
「受け取ってくれるといいんだけど……ほかには、運動とかもいいのかな?」
「ジョギングはおすすめですよ。今は……ちょっと難しいかもしれませんけれど」
 カロナウイルスで動きを制限されているせいで、楽しめることが減っていることを再認識させられてしまう。とにもかくにも、疑心暗鬼のせいで人々の動きが減っている現状を何とかしなければ……。コタロウはベルティルデと一緒に、街に栄養の付きそうな食材を探しに行くのだった。


 建物の隙間に、怪しい人影が見えた。
「……あんた、そんなところで何やってんだ?」
「手前の名はリキュール・ラミル。人呼んで『笑うカエル商人』と申します」
 真っ黒なスーツと真っ黒な中折れ帽。片手にボストンバックをぶら下げて、怪しげに微笑んでいる。
「カエル……?」
 確かにカエルのような外見をしているが、それよりも違和感があるのは、彼の瞳が心の奥底まで見透かすような不思議な色をしているところ。
「ただのカエルではございません。手前が扱っておりますモノは嗜好品……もとい『ココロ』……そう、人間の心でございます。オーッホッホッホ!」
 不気味な笑い声をあげるリキュール。
「この世は老いも若きも男も女も、画面の前にいるあなたも、ライターが作ったあなたも……自分の登場シーンで活躍したい人ばかり……」
「いいのかそんなこと言って……運営が黙っちゃいないぞ」
「いいのですよ、メタシナリオでございますから」
 男はあたりをキョロキョロと見回して、運営の魔の手が伸びていないことを確認すると、路地へと一歩踏み入れる。
「手前は、そんな皆様のココロのスキマをお埋めしているのです」
「俺にも、出番がもらえるのか……!?」
「ええ、差し上げましょう。たっぷり1シナリオまるごと、あなたが主人公!」
「マジで!? 買うよ! いくらなんだい!」
「いえいえ、見返りは何も頂きません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。……ただし」
「……ただし?」
 リキュールは、ずいっと顔を近付ける。
「そのあとは、ただのNPCとして生きていくこと……これだけは、あらかじめお約束ください」
「あ、ああ! もちろんだよ! さあ、俺を主人公にしてくれ!」
――後日。
 カロナウイルスは収束の目途が立っていないが、無事にイベントシナリオが1回動いた。もちろん、あのNPCを主役として、丸々1本が仕上がったのだ。
「ありがとうおっさん! これで俺もメインキャラの仲間入りだよ!」
「……いえ、あなたにはここから先の出番がありませんよ」
「でも……今回のイベントシナリオでみんなにも認知してもらえたし、これからも、もしかしたらちょくちょくライターの匙加減で出してもらえるかもしれないだろ?」
「……手前は、最初にお約束したはずです。1シナリオ丸ごと主人公になったら、あとはただのNPCとして生きていく、と」
「それは……」
「あなた、手前との約束を破りましたねぇ?」
 リキュールが腕を振り上げ、そしてまっすぐ彼へと向けて指をさす。
「ドーーーン!!!」
――あるNPCを扱った企画が運営の中で持ち上がっていたのだが、ライターが昨今流行りの何とかというウイルスにかかって長期療養になってしまったらしい。当然企画はボツ。通常通りのスケジュールで進行する、ということが運営内で確認された。
「残念でしたねえ……オーッホッホッホ……」
 リキュールの高笑いが、暗闇にこだまする。


 飢えている。自分は、猛烈に。
 いつもよりも少し高い目線。大きな体躯。
「……そうだ……」
 リンダ・キューブリックはすべてを理解した。これは、あのときの夢の続きだ……。
「ウオオオォォーーッッ!!」
 怒りに身を任せた絶叫があたりにこだまする。咆哮の振動で空気が割れ、建物にひびが入る。目をぐわっと大きく見開くと、大きく息を吸い込んだ。
 体の中に内蔵された生体原子炉が美しくも恐ろしいチェレンコフ光を放っている。
「ギァァオォォッ!!」
 口から青白い熱戦を吐き出すと、空気中を舞うカロナウイルスを一掃。
 あれは、かつてどこか遠くの異国で時の内閣を全滅させたという言い伝えの『内閣総辞職ビーム』ではないか!
 恐れおののき、逃げ惑う人々。家の中でこもっていては、巨大化したリンダに踏み潰されるか、熱線で跡形もなく消滅するかの二択である。
 リンダは街をどしどしと歩いて破壊していく。人間たちの悲鳴も、彼女の耳には聞こえない。彼女はただ、敵を探し、街を進んでいく。
「グアァォォッッ!!」
 吼え、宮殿のセンタードームを破壊。隔離感染者たちを見事に開放し、さらに街を混乱の渦に叩き込んでいくリンダ。だが、肝心の敵が見当たらない。
「焼き払え! どうした! それでも世界で最も邪悪な一族の末裔か!」
 誰かの声がした。――敵か――!
 本能的に声のしたほうへと火炎を放つ。
「こっちじゃなぁい! もぎゃぁあああっ!!」
 指揮官としての才能がなかったどこかのモブが、他の誰にも聞こえない絶叫だけを残して消滅する。
「違ったか……」
 リンダは、それでも街を進んでいく。だが……やはり敵の姿が見えない。カロナウイルスは目に見えないが、そういう『よく分かんねえもの』ではなく、具体的な敵……そう、殴ったり蹴ったりしてボロボロにできるような……。
「ヤバい……このままだと自分のアイデンティティが……」
 戦闘の中にしか己の生きる道を見出だせなかったリンダ。敵がいなければ、自分はどうなってしまうのか……。やがて彼女は、島の反対側まで出てしまった。今来た道には敵の姿はない。あるのは、自分が破壊してかなり道幅が広くなった大通りだけだ。
 ふと、穏やかな海面に自分の顔が映る。
「……ふん……」
 リンダは鼻で笑う。
「……敵は、己の中にあり、か……」
 自分と向き合うことから逃げてはいけない。逃げちゃ駄目だ……。逃げちゃ駄目だ……。
「自分は、自分でいたい……自分は、ここにいてもいいんだ!」
 瞬間、大きなクラッシュ音と同時に、大きな歓声が沸き上がる。
「おめでとう!」
「おめでとう!」
「おめでとさん」
「……ありがとう……」
――そして、すべてのキャラクターに――。
「はッ……」
 いつもの、天井だ。
「……短え夢だったなあ……」
 リンダはため息をつくと、窓の様子をうかがった。相変わらず、カロナウイルスのせいで混乱は続いているようだった。


●担当者コメント
【川岸満里亜】
ご参加ありがとうございます。***より上を担当させていただきました。
M.R氏からアクションはいただいておりません。とだけ先に言っておかねば!

マスク……手に入らないですね。
先日布製マスクを衣料品店でようやく見かけたのですが、1枚698円(税抜)でしたよ! 沢山ありました。
フィルター挟んで使える衛生的なマスクらしいのですが、そのフィルターも手に入りませんよね!
早く落ち着くといいですね。
皆様もお身体お大事にしてください。

追記:その数日後、お店を覗いたらマスクなくなってました。売り切れたんでしょうか……。

【東谷駿吾】
ご参加ありがとうございました! 今回は、4PCを担当させていただきました。楽しかった(小並)
某ウイルスのせいで、私の住んでいるエリアもマスク品薄です。というか、ずっと品切れです。でも毎日マスクしてる人は見かけるんですよね……不思議だ。私は花粉症じゃないのでそこまでしんどくもないですが、花粉症の方はしんどそう……皆様、お体は大切に……。